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第3話

Auteur: 朝月
あの光景を見た瞬間、私は心が完全に凍りついた。

信昭はまるでゴミでも放り出すように、私を家の門の外へ引きずり出して手を離した。髪を無理やり掴まれていた頭皮が解放され、まとわりついていた髪がはらはらと彼の手から落ちていく。

その髪を見た途端、目頭が再び熱くなった。

私が泣いているのを見て、信昭は苛立ちを隠さずに言い放つ。

「なんだ、泣くんじゃねえ疫病神が!俺のツキが全部お前の泣き声で飛んじまうだろ!」

さらに腹を立てたのか、私の腹に二発、強烈な蹴りを入れた。

「俺は飯も食わせてやってんだぞ、これ以上お前に尽くせってのか?二度とこの家に戻ってくるんじゃねえ、このクソガキ!」

突然の蹴りで息が詰まり、私は反射的に体を丸め込んだ。耳鳴りが止まず、彼の口がパクパク動いてるのは見えたが、何を言ってるかはもう聞き取れない。

「おい、このクソ娘、まだ俺を睨むのか?反抗する気か?いいぜ、今日ここで叩き殺してやるよ!てめえがどんだけ強情なのか見せてもらおうじゃねえか!」

拳を振り上げる信昭を、私は無気力に見上げるしかなかった。立ち上がるどころか避ける力もない。ぎゅっと目を閉じ、拳が落ちるのを待つ。

――しかし、拳は振り下ろされなかった。

隣家の一彦(かずひこ)が現れたのだ。

信昭は世間体を何より気にする。人に見られるのが嫌で、悔しそうに私を睨みつけると、低く唸った。

「失せろ!」

私はかすかな安堵から、早鐘を打つ心臓を押さえ、痛む体を引きずってあの路地から逃げた。

「ノブさん、なにやってるんだ!子どもをそんなに殴って......」

「カズさん、知らねえだろ?このクソガキは兄貴の食い物を盗むわ、金まで盗むわでどうしようもねえんだ。今のうちに叩き直さねえと先が思いやられる」

「でも、莉子ちゃんは普段おとなしいじゃないか......」

私が路地を離れかけたときに耳に残った言葉は、父が私を貶める嘘の言葉だった。

涙がまた滲む。

私が太っているのは、母、美穂が息子陽翔用の成長ホルモンを捨てるのを惜しみ、無理やり私に飲ませたからだった。

そのせいで太っただけなのに、彼らは私が貪り食う泥棒扱いをしている。

あの夜、痛みに堪えながら公園のベンチで夜を明かした。秋風が冷たく身を刺した。

金もないので、ゴミ箱から拾った新聞紙を敷き、もう一枚を上にかけた。大して暖
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