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愛の「ブランドボックス」
愛の「ブランドボックス」
Author: 狐坂

第1話

Author: 狐坂

部屋に戻ると、透子はすでに皆に囲まれ、写真撮影の中心になっていた。

胸元にはピンクダイヤモンドのネックレスが輝いている。まるで、誰かの想いを閉じ込めた一粒の涙のようだった。

誰かが面白半分に声を上げた。

「隼人、このシークレット賞は豪華すぎない?

何も知らない人が見たら、今日プロポーズする相手って透子ちゃんだって勘違いされるぞ」

その言葉に、透子はすぐに目を潤ませた。

「やめてよ……南さんが嫌な気分になっちゃうわ」

彼女がそう言った瞬間、周囲の視線が一斉に私へ向いた。

隼人は私が戻ってきたことに気づくと、ほんの少し眉を動かした。

「そんなところで何してるんだ?

知らない人が見たら、まるで俺たちにいじめられたみたいじゃないか」

私は彼を見つめ、なぜか、急におかしくなってしまった。

傷ついているのは、私のほうなのに、ただ黙っているだけで、まるで私がわがままを言っているみたいに扱われている。

だから、私はその場から動かなかった。

隼人は眉間にわずかに皺を寄せた。

すると哲が先に立ち上がり、私の前まで歩いてきた。

彼は穏やかな顔立ちで、いつも優しく笑っているように見える。

18歳になるまで、哲だけは、絶対に私を傷つけたり、恥をかかせたりしない人だと思っていた。

でも今、彼は私を見下ろしながら、声を落として言った。

「南、こんな時に隼人を困らせるなよ」

私は彼を見る。

「私、何か言った?」

哲は一瞬、言葉に詰まった。

すると透子はネックレスを握りしめ、さらに涙をこぼした。

「南さん……だったら、このネックレス返すね。

私、本当は受け取っちゃいけなかったんだよね」

彼女が首元のネックレスに手を伸ばした瞬間、隼人が口を開いた。

「そのままでいい」

そして隼人は私を見た。

「引いた人のものだろ」

私は小さく笑った。

その瞬間、部屋が静まり返った。

隼人の表情も少しずつ冷たくなっている。

哲が眉をひそめた。

「南、ただのゲームだろ。

わざわざこんな空気にする必要あるのか?」

そして彼は透子の前に立った。

声は相変わらず優しい、でも、その言葉はまるで私の胸を深くえぐるようだった。

「透子は昔から不安になりやすいんだ。

やっと楽しそうにしてるのに、少しくらい譲ってやれないのか?」

また、その言葉だ。

私は思わず透子を見た。

彼女は隼人の隣に立ち、目元にはまだ涙を残していた。でも、私を見るその瞳はどこか笑っているように見えた。

次の瞬間、隼人が立ち上がり、私の前まで歩いてきた。

彼からは、冷たい雪松の香りがした。

この香水を選んだのは私だった。

凛とした清潔感が彼に似合うと言ったのに、その時の彼は「香りが薄すぎる」と嫌がっていたのだ。

けれどその後、透子が「この香り、好き」と言った途端、彼は3年間ずっとこれを使い続けている。

隼人は手を伸ばし、いつものように私の頭を撫でようとした。

私は反射的に顔を背けた。

その瞬間、部屋の中に誰かが息を飲んだ音が聞こえた。

隼人の目が、ついに冷え切った。

「明日のドレス試着、俺も行く」

私は彼を見上げた。

「覚えてるの?」

隼人は、まるで信じられないことを聞いたような顔をした。

「俺が約束したことを、忘れたことがあるのか?」

その時、透子が小さく咳払いをした。

隼人はすぐに振り返った。

「どうした?」

透子は首を横に振った。

「ううん、何でもない。

ただ……首が少しかゆくて。たぶん、このネックレスにまだ慣れてないだけ」

隼人はソファに置いてあった上着を手に取り、透子の肩へかけた。

哲は私の顔色を見ると、小さくため息をついた。

「南、そんなに考えすぎるなよ。

隼人が結婚する相手は君だろ。透子はただ、俺たちにとって妹みたいな存在だ」

私は彼を見た。

「妹なら、近いうちに結婚する人が選んだダイヤモンドネックレスを受け取っていいと思ってるの?」

哲の笑顔が少し消えた。

「どうしてそんな言い方するんだよ」

隼人が振り返り、冷たい声で言った。

「南、もういい加減にしろ」

私は、もう何も言う気になれなかった。

この場では、私が傷つけられた挙げ句、笑顔で「私って本当にくじ運が悪いな」とでも言って見せなきゃいけないのだろうか。

宴会が終わる頃、隼人は透子を病院へ連れて行った。

彼女の首元が少し赤くなっていたらしい。

哲は私を送るために残った。

玄関まで来ると、彼は自分のマフラーを外し、私の首に巻いた。

「さっき風が強かったから。

風邪ひくなよ」

私は俯いて、そのマフラーを見つめた。

哲はいつもそうだった。

私が本当に失望しそうになる直前に、ちょうどいい優しさをくれる。

そして次の瞬間には、また元の場所へ押し戻す。

案の定、彼はマフラーを整えながら言った。

「南、今日のことは気にするなよ。

隼人って、ああ見えて冷たい奴じゃないから。

明日はちゃんと君のドレス試着に付き合うし、明後日には婚姻届も出すんだろ?

もう君の勝ちなんだから、透子とそんな小さなことで張り合うなよ」

私は彼を見つめた。

「私が何に勝ったの?」

哲は一瞬、言葉を失った。

だって彼自身にも、答えられなかったから。

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