ANMELDEN結婚式の1週間前、妊娠が発覚した私・黒崎栞(くろさき しおり)のもとに、見知らぬアカウントからメッセージが届いた。 差出人は、自分が7年後の私の子供だと言う。 【ママ、僕をおろして】 【僕は生まれつき両足が不自由で、ママとパパはいつも僕のことで喧嘩していた。結局ママは心の病気にかかって、薬を飲んで自殺しちゃったんだ】 【ママにそんな苦しい思いをしてほしくない】 私はすぐに病院へ行き、中絶手術を受けた。 藤原蒼佑(ふじわら そうすけ)は怒り狂い、病院に駆けつけて私と大喧嘩したあと、ドアを乱暴に閉めて立ち去った。 退院して家の前に着いた途端、中から蒼佑が執着している女、桐生遥(きりゅう はるか)の得意げな声が聞こえてくる。 「未来からのメッセージ?そんな馬鹿げた話を信じる人が本当にいるとはね。ふふっ。 たかがデタラメなメッセージ一通で、自分の子供まであっさり捨てるなんて」 蒼佑は淡々とした表情で警告した。 「今回は大目に見てやる。次にまたこうして栞をいじめたら、ただじゃおかないぞ」 ドアの外にいる私は、異常なほど冷静だ。 もう二度と「次」はない。 あのメッセージが嘘だということは知っている。 けれど私自身は、嘘偽りなく、絶望に打ちひしがれた7年後からこの「過去」に戻ってきたのだ。
Mehr anzeigen蒼佑は振り返って私を見つめ、まだ何か言おうとするが、私は彼にそれ以上隙を与えることなく、バタンと車のドアを閉め、車を走らせる。その後の1ヶ月間、彼から自発的に会いに来ることはなくなり、花を贈って許しを請うこともなくなる。ただ、私の通勤の道のりで、まるでストーカーのように、黙って私の後ろをつけてくるのだ。私が立ち止まれば彼も止まり、私が歩き出せば彼も歩く。私はふと、ずっと昔、彼もこんなふうに私を追いかけていたことを思い出す。彼は私に話しかけるのが恥ずかしくて、ただ黙って後ろから私の登下校を見守っていた。それを偶然見かけた母は、「あんな女の子の追いかけ方、聞いたことないわ」とからかっていた。私は母にからかわれて顔を真っ赤にし、慌てて腕の中に顔を埋め、「蒼佑のバカっ!」とくぐもった声で返したものだ。当時の光景は、今でもはっきりと目に浮かぶ。なのに、あっという間に、何もかもがすっかり変わってしまった。10月最後の日。めっきり肌寒くなり、秋風が私の足元の落ち葉を巻き上げると、宙でクルクルと舞い、カサカサと音を立てて蒼佑の足元に落ちる。私は立ち止まり、彼を見ないまま、落ち着いた声で言う。「入って座っていけば」彼は一瞬呆然とした後、感極まったように慌てて頷く。「はい!」そして、私について家の中に入ってくる。蒼佑は落ち着かない様子でソファに腰を下ろす。頭の中で何度も練習してきたかのように、口から出る言葉は早口で淀みがない。「ごめん、栞。全部俺のせいだ。お前に申し訳ないことをした。子供とお義母さんを死なせた俺は、最低なクズだ……今まで遥がお前たちを虐げるのを見逃していたこと、本当に反省している。あいつにはもう償わせた。栞、安心してくれ、あんな間違いはもう絶対に二度と犯さない。俺はこれまで、ずっと遥のことが好きだと思い込んでいた。ただ、あいつが俺の母親を死なせたから、その好きな気持ちを認めるのが怖くて、お前に別れを切り出せずに一緒にいただけだったんだ。俺は本当に愚かだ。自分の本心すら分かっていなかった。俺が本当に好きだったのは、ずっとお前だ。遥と……あいつと一緒にいたのは、ただ刺激が欲しかっただけなんだ。許してくれ、栞。俺に償うチャンスを……」その言葉は途中でプツリと途絶え、彼は血の気の引いた顔
あの人のことはもう、私には関係ないんだ。私は母の遺骨を携えて、海沿いの小さな町へと移り住んだ。景色の良い場所を見つけて母を納骨した後、面接を受けて幼稚園の教諭として働き始めた。ここは都会の喧騒からも、蒼佑からも遠く離れていて、とても気に入っている。時折昔のことを思い出すと、もうずいぶん長い年月が過ぎたような錯覚に陥る。ある週末、母の墓参りから帰る途中、タクシーのラジオから久しぶりに蒼佑の声を聞いた。彼はあらゆる手段を使って私を捜しているらしく、その謝罪の言葉はいかにも切実だ。「栞、俺が悪かった……戻ってきてくれ、もう全部俺のせいだと分かったんだ……あんな過ちは二度と犯さない。子供なら、またいつか授かるさ。栞……頼むから、せめて償うチャンスをくれ……」私は一瞬、呆然とする。運転手さんが気さくに話しかけてくる。「最近、このゴシップが結構話題になってましてね。このラジオの男、あの藤原グループの社長らしくて。浮気して奥さんに逃げられてから、ようやく後悔したらしいんですよ。今は不倫相手との争いも泥沼になって、共倒れ状態だとか。噂じゃ、愛人の子供は彼に無理やり中絶させられて、愛人本人も酷い目に遭わされて障害が残ったって話です。まったく、自業自得だ。あの藤原って男もいい気味ですからね!そばにいる時は大切にしなかったくせに、今更ここで泣き喚いたって何の意味もないでしょうに……」私はまるで他人の話を聞いているかのような気分で、フッと小さく笑って頷く。「ええ、その通りですね」だが、車を降りてマンションの入り口に差し掛かった時、まさか蒼佑と鉢合わせするとは思ってもみなかった。彼がこんなに惨めな姿をしているのは、見たことがなかった。身につけている白いワイシャツはしわくちゃで、得体の知れない汚れがいくつもついている。髪は鳥の巣のようにボサボサで、目の下にはくっきりと真っ黒な隈ができている。視線が交差した刹那、彼の目はすぐに赤く潤む。吐き気を覚えるほどの嫌悪感が込み上げ、私は彼など視界に入っていないかのように、まっすぐ奥へと歩みを進める。「栞!」彼は私の名を呼びながら駆け寄ろうとするが、入り口の警備員に阻まれる。それからの数日間、彼が姿を現すことはなかった。ただ、私が仕事を終える時間を見計らったかの
秘書の仕事は迅速で、間もなくしてあの日の病院の防犯カメラの映像を送ってきた。画面の中で、膝が血だらけになるまで跪いている栞の姿を凝視していた蒼佑は、ついにガクガクと足の力が抜け、床に崩れ落ちる。当時、栞がどれほど絶望していたか、彼は想像することすら恐ろしかったに違いない。「遥……っ!」彼は歯を食いしばってその名を吐き捨てると、まっすぐ家へと引き返す。その頃、遥はすでに眠りについている。真っ暗な部屋は、不気味なほど静まり返っている。蒼佑は、かつて栞がこの家にいた頃のことを思い出す。どんなに帰りが遅くなっても、彼のために必ず明かりを一つ残しておいたのだ。激しい後悔が押し寄せる。遥のような性悪女のために、栞にあんな仕打ちをするべきではなかった。蒼佑の目はみるみるうちに赤く充血し、ついに大粒の涙がこぼれ落ちる。「蒼佑、どうしたの?」水を飲みに1階へ降りてきた遥は、一瞬ためらったものの、ひとまず苛立ちを押し殺して優しい声で尋ねる。蒼佑は息をするのさえ痛むほどの苦しみに耐えながら呟く。「栞のお母さんが……亡くなったんだ。栞は本気で俺と離婚するつもりだ。俺が……俺が彼女たちにあんな酷いことを……全部俺のせいだ!」それを聞いた遥は目を輝かせ、興奮を抑えきれずに言う。「本当!?」だがすぐに自分の口調が不適切だったと気づき、慌てて彼を抱きしめる。「蒼佑、あなたのせいじゃないわ。人の生死は運命だもの。あいつの母親はもともと病気だったんだから、あなたが死なせたわけじゃない。あいつが離婚したがるのも、あなたへの愛が足りないからよ。あなたのせいじゃないわ。あんな女、出て行ったって構わない。蒼佑、あなたにはまだ私とこの子がいるもの」彼女は蒼佑の手を引っ張って自分の腹部に当てる。ちょうどその時、お腹の中の赤ん坊がピクリと動く。しかし彼女の予想に反して、蒼佑の気分が晴れるどころか、逆にその表情が一変する。遥の手首を荒々しく掴み、強引に外へと引きずり出す。遥は飛び上がらんばかりに驚く。「何するのよ!?蒼佑、頭がおかしくなったの!?」蒼佑の目は血走っている。「病院へ行って、子供を堕ろせ。栞の子供が失われたんだ。お前の子供が生きていいわけがない!」遥は目を見開き、狂ったように暴れる。
夕方、蒼佑は遥を連れて帰宅する。彼は玄関でしゃがみ込み、自らの手で遥の靴を履き替えさせながら、何気なく声をかける。「栞、帰ったぞ。遥が腹を空かせてるんだ。お前の作ったスープが飲みたいってさ」だが、家の中は不気味なほど静まり返っており、聞き慣れた返事は全く聞こえてこない。遥は眉を上げて笑い、足で彼の膝を軽く蹴る。「蒼佑、奥さんはいないみたいよ?どうやら、彼女もそこまであなたを愛してないのね。何日も経ってるのに、まだ拗ねてるなんて」蒼佑は眉をひそめる。胸の奥にわずかな不快感がよぎるが、ふと、以前栞が言っていた義母の病気のことを思い出した。重いため息を吐き出し、淡々と言う。「お義母さんが病気なんだから、栞は病院で看病しているはずだ」「そう?」遥は意味ありげに笑う。ソファに座った途端、彼女はローテーブルの上に置かれた離婚届に目を留める。「あら?」彼女はたちまち大笑いし、蒼佑に見るように促す。「もう、あなたの奥さん、本当に子供っぽいね!いい歳して、離婚を盾に脅してくるなんて!」蒼佑はさらに眉をひそめ、離婚届を手に取って見る。その署名欄には、確かに栞の直筆のサインがあった。彼はなぜか焦燥感に駆られる。栞がこんなことで冗談を言うような人間ではないと、彼も分かっているからだ。遥の甲高い嘲笑はまだ続いている。「こういう女って本当に気持ち悪い。自分のことどんだけ重要だと思ってるわけ?離婚届を家に残しておけば、あなたが犬みたいに尻尾を振って迎えに来てくれるとでも思ってるんじゃない?吐き気がするわ――」「もういい、黙れ」蒼佑はこれまで、遥の声をこれほど鬱陶しいと感じたことはなかった。怒りを抑えきれずに言い放つ。「その汚い口を閉じてくれないか?」遥の笑い声がピタリと止まり、信じられないというように彼を睨みつける。「私の口が汚いですって!?蒼佑、頭おかしいんじゃないの。黒崎栞みたいなクソ女のために、私に向かってそんなこと言うなんて――」彼女は怒りに任せてローテーブルの上の物をすべて床になぎ払い、グラスがガシャンと音を立てて粉々に砕け散る。だが今回、いつもなら優しくご機嫌を取るはずの蒼佑は、すぐに彼女をなだめようとはせず、嫌悪感を露わにして彼女を一瞥し、そのまま背を向けて家を出てい