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第7話

Auteur: アカリ
彼の顔には、最初は思わず寵愛に満ちた笑みが浮かんだが、やがて何かを思い出したように表情が次第に冷たくなり、やや慌てた様子で蘭子に説明し始める。

「蘭子、ついさっき清子が生きてることを知ったんだ。でも安心してくれ、俺はもう清子のことは完全に吹っ切って、家庭に戻った。今の俺にとって一番大事なのはお前なんだ」

蘭子は口元をわずかに引きつらせる。信之が自分に芝居を打っているだけだということを、彼女は痛いほど理解している。

その嘘を暴く気にもなれず、彼女は店員のほうを向く。

「このブレスレットは私が先に目をつけたものです。包んでいただけますか」

店員はさらりと職業的な笑顔を見せて清子を見た。だが彼女は譲る気などさらさらなく、むしろ柔らかく微笑んで言う。

「このブレスレット、私もとても気に入ったわ。倍の値段で買うわ」

その様子は、いささかの譲歩もするつもりはないと告げているようだ。

もし他のことなら、蘭子はきっとあっさりと譲っただろう。だが、このブレスレットだけは譲れない。

蘭子は一瞬の迷いもなく言い放つ。「三倍払う」

「四倍」清子は即座に値を跳ね上げ、嘲るような眼差しで蘭子を一瞥すると続ける。

「何でそんなに無理するの、白野さん?いつだって、あなたは私に勝てないでしょう。その事実、とっくに分かってたんでしょう?」

蘭子は思わず拳を握りしめたが、清子には何も言わず、店員を見据える。「百倍」

清子がこの数年、信之の庇護のもとで生きてきたことは、蘭子はよく知っている。金はあっても、湯水のように使えばすぐに尽きてしまう。

一方の彼女は、両親の死後、白野家の遺産をすべて相続していた。だからこそ、このブレスレットを手に入れるだけの十分な資金がある。案の定、彼女が百倍に値をつけたと聞いた瞬間、清子の顔色はみるみる曇っていく。

店員はにこやかに問いかける。「秦野様、続けて値上げなさいますか?」

清子の頬は青ざめたり紅潮したりを繰り返しながらも、蘭子に負けるのがどうしても我慢ならず、口を開いたものの、結局「もう上げない」とは言えなかった。

そのとき、館内にアナウンスが流れる。

「S様より秦野清子様のために全館貸切とのことです!ただいまより、すべてのサービスは秦野様を最優先といたします!」

周囲が一斉にどよめく。

「S様って誰だ?たった一人の女のために貸し切るなんて、太っ腹だね!」

「きっと誰かが秦野さんと競っていたんだろう。S様はそれを見かねて動いたに違いない」

清子はその放送を耳にすると、たちまち得意げに蘭子を見やり、言う。

「白野さん、さっき私が言った通りよ。いつだって、私に勝てないのよ!」

蘭子は彼女に返事をせず、代わりに信之のほうへ視線を移した。彼は清子を慈しむような目つきで見つめていたが、蘭子の視線に気づくと慌てて表情を整え、気まずそうに彼女を見つめて言う。

「蘭子、ただのブレスレットだよ。買えなくても気にすることない。あとでオークションで、もっといいものを落としてあげる。清子には貸し切ってくれる人がいるんだ。勝てない勝負なら、無理に争うことはないさ」

その口調は、まるで子どもをあやすように優しかった。

しかし蘭子には、ただ心の底から込み上げる冷たいものがあった。

――ふん、S様か。

信之はもう忘れてしまったのだろうか。S様という呼び方――結婚後、二人で手紙を交わしていた頃、彼女だけが使っていた、二人だけの秘密の呼び名だったのに。

爪が掌に食い込み、痛みが走る。蘭子はかすかに自嘲気味に笑い、くるりと背を向けてその場を去った。

涙が不意に頬を伝い落ちた。みっともない姿を見られたくなくて、蘭子はデパートの化粧室へと身を隠し、必死に気持ちを整えようとした。

ようやく心が落ち着き、扉を押して出ようとしたその瞬間、外から清子の声が聞こえてきた。

どうやら電話をしているらしい。

「さっきの白野のあの様子、まるで負け犬みたいだったわ。きっとS様が誰なのか、もう気づいてるのよ」

蘭子の足がその場で止まり、扉に手をかけたまま動けなくなった。

「交通事故の偽装死は、私が仕組んだの」清子の声には得意げな響きがあった。

「信之に思い知らせてやりたかったのよ。私がいなければ彼は駄目になるってことね。ついでに、白野が私を殺そうとしたと思わせるの。

信之は私が死んだと信じ込んで、白野にどれだけ酷い仕打ちをしたか知ってる?雪山やサメの話なんて、聞くだけで胸がすっとするわ!

彼が白野と離婚していないからって、何だっていうの?焦ることないわ」

彼女はどこか軽蔑を滲ませて笑った。「今のこの状況こそが理想よ。信之は、失った私をまた手に入れたと思ってるから、私の言うことをなんでも聞いてくれるのよ。

この前の誕生日パーティーでも、私が『白野に私が着たドレスを着せて』って言ったら、信之はすぐにそうさせたのよ。

見てなさい。白野を十分に弄んだら、最後は信之に自ら彼女を追い出させるわ。その時、佐藤夫人の座は、結局また私のものになるのよ」

蘭子はスマホを握りしめ、指の関節が白く浮き上がる。息をするのも忘れるほどだった。

交通事故の偽装死は、やはり彼女自身の仕掛けだった。あの誕生日パーティーでのドレスも、彼女が信之に命じて無理やり着せたもの。

そして自分は、彼らに翻弄され、苦しみさえも彼らの自慢の種にされていたのだ。蘭子は思わず拳を固く握りしめる。

外からの物音はすぐに途絶え、清子が去ったのだろうと察して、彼女はそっと扉を押し開ける。

少し離れたところに清子が立っていた。細い煙草を指先で軽く操り、紫がかった煙をゆっくりと吐き出している。蘭子に気づくと、その真っ赤な唇が意地悪そうに弧を描いている。

「白野さん、やっぱり中にいるよね」

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