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第7話

作者: ゴブリン
真司は彼女を連れ、人里離れた廃ビルへと向かった。

周囲には雑草が生い茂り、人の気配はない。

真司に手首を掴まれた菜々子は、廃ビルの奥へと急かされた。

今の彼女の体力ではもう、ついていくのがやっとだった。菜々子は足をもつれさせ、荒い息を吐きながら歩いた。

真司はまるでそれが見えていないかのように、ただ、ひたすらに先へと急いだ。

ついに、彼は足を止めた。

菜々子が顔を上げると、天井から手首を縛られ、中に吊るされた菖蒲がいた。

「真司、助けて……」彼女は声を上げて泣き出した。

「菖蒲!」真司は彼女をなだめた。「大丈夫だ。俺がいるから。何も心配しなくていい」

「ハハハハ、噂通りの溺愛っぷりだな」

数人の拉致犯が姿を現し、ニヤニヤと笑いながら言った。「金は持ってきたか?」

真司は冷たい声で言った。「こんな短時間で、1億も用意できわけないだろ」

「じゃあ、話にならないな。縄を切って、奥さんが地面に落ちるところを見てるんだな……」

「待て!」

真司は菜々子の腕を乱暴に引っ張り、地面へ突き飛ばした。

「代わりにこいつをやる」

犯人は顔をしかめた。「何を言ってるんだ?俺たちをバカにしてるのか?」

真司は言った。「こいつの臓器を全部売れば、1億なんて簡単に超えるはずだ」

菜々子は地面にへたり込み、信じられないものを見る目で、真司を見上げた。

だが真司の瞳には、菖蒲の姿しかなかった。

さらに真司は言葉を重ねる。「金をもらっても、国内じゃ使うにも困る。警察も嗅ぎ回るだろう。それより海外ルートに流せば、若い女の臓器は高値で売れる。お前たちにとっても安全な商売になるはずだ」

犯人たちは顔を見合わせ、真司の提案に心を動かされたようだった。

拉致は重罪だ。警察も血眼になって追っている。このまま国内を逃げ回る生活など、もうこりごりだった。

それなら、生かしたまま海外に連れて行って、臓器を売った金で、一生遊んで暮らせる!

菖蒲がなおも泣き叫ぶ。「真司、手が痛いよ……」

真司は急かした。「早く彼女を放せ!」

犯人たちは二手に分かれた。二人が菜々子を押さえ、もう二人が菖蒲を縛る縄を切り落とした。

落ちた菖蒲を、真司が駆け寄り、しっかりとその胸で受け止めた。

「大丈夫、俺がいるよ」

「真司……うぅっ、きっと助けに来てくれると信じてたわ」

もう片方では、菜々子が男二人に荒々しく引きずられていった。

彼女は激しく抵抗して泣き叫んだ。「騙されてる!本当の奥さんは私よ!」

犯人たちは大笑いした。「お前が奥さんだって?H市の誰もが、旦那さんがどれほど妻を溺愛してるか知ってる。本当にそうなら、こんな風に売り飛ばしたりしない」

菜々子の心は、瞬時に凍りついた。

溺愛?

それはかつての話、今の彼は、もう変わっていた。

その時、階下からサイレンが鳴り響いた。

瞬く間に、警察が廃ビルを完全に包囲した。

罠にかかったことを悟った犯人たちが罵声を上げる。「クソ野郎!よくも嵌めやがったな!」

真司は菖蒲を抱いたまま、すでに警察の後方へ下がっていた。

警察の拡声器が響く。「人質を解放しろ!そうすれば減刑もあり得るぞ!」

警察の包囲網の前では逃げ場がなく、犯人たちは大人しく手を挙げ、菜々子は救助された。

彼女の横を通り過ぎる時、真司は言った。「最初から通報しておいたんだ。お前が無事だと分かってたからこそ、ああやって人質を入れ替えれた」

菜々子は鼻で笑った。「もし警察が間に合わなかったら?犯人が自暴自棄になって私を上から突き落としたら?」

真司は眉をひそめた。「起きていないことを話して、何の意味がある?」

「そうね、もう意味なんてないわ」

菜々子は苦笑いし、何も返さなかった。

真司は菖蒲を抱えたまま、念を押すように言った。「いいか、病院へ行くのを忘れるなよ。俺が言った通り、済ませてこい」

彼はまた、お腹の子を「おろせ」と言っているのだ。

菜々子は頷いた。「分かってるわ。あなたが心配することにはならないから」

人質となった保護対象として、女性警察官が付き添うことになった。

女性警察官は言った。「念のため、怪我がないか病院で検査を受けましょう」

菜々子は軽く笑って、了承した。

病院に着いた途端、菜々子は告げた。「ここで結構です。ありがとうございました」

女性警官は心配そうな表情を見せる。「最後まで立ち会わせてください」

「いいえ、特に異常もありませんから。薬をもらえば済むことですので。お忙しいでしょう?」

「分かりました。何かあったら必ず連絡してくださいね」

「はい。ありがとうございます」

女性警察官の後ろ姿を見送ってから、菜々子は小さく笑みを浮かべ、全く別の棟へと向かって歩き出した。

そこには、献体登録室のプレートが掲げられていた。

菜々子はスマホの電源を切り、SIMカードを取り出して真っ二つに折ると、ゴミ箱へと捨てた。

最後に深く息を吸い込み、彼女はその施設の中へと入っていった。

この瞬間から、真司は二度と自分を見つけ出すことはできなくなった。

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