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第1207話

Auteur: 楽恩
華やかでまばゆい光が夜空を彩った。

清孝はふと、ある方向を見上げた。

煙火が弾ける瞬間、その方角の窓に、ひとつの人影が映った。

紀香は清孝が火傷を負ったことで、どうにも寝つけなかった。

ベッドの中で何度も寝返りを打っていると、窓の外がふいに明るくなった。

彼女は窓辺へと歩き、窓を開けると、夜空いっぱいに広がる花火が目に入った。

海辺には何人かの人影があったが、その中でも清孝の姿は際立っていた。

彼の背は高く、一目で分かる。

彼女は花火に見惚れることも忘れていた。

清孝が空を指差して、ようやく上を見上げた。

すると、煙火で形作られた文字が浮かび上がった。

——香りん、ごめん

——誕生日おめでとう

本来なら、紀香は今年の誕生日を駿弥や来依と一緒に過ごすつもりだった。

清孝に連れ去られてから、すっかりそのことも忘れていた。

時計を見ると、ちょうど午前0時。

彼女の誕生日が始まったのだった。

……

夜空が再び静けさを取り戻し、月と星が顔を出した。

明かりが消えると、紀香のいる位置からは清孝の姿がはっきり見えなくなった。

実際、彼女はこれまで一度も、清孝のことを本当に見ていなかったのかもしれない。

若い頃に抱いた理解や思いは、今ではただの笑い話のようだった。

あのときの「心が動いた」気持ちが、本当に愛だったのかどうか――それすら分からない。

清孝は、カーテンが閉められたのを見て、黙って煙草に火を点け、自室に戻った。

医者が再び薬を塗り、抗炎症の点滴を準備した。

清孝の不機嫌な様子を察した医者は、そっと入口に控えて、点滴が終わるのを待った。

その夜、たった一枚の壁を隔てて、二人は眠れぬまま時を過ごした。

翌日、南は昼過ぎにようやくベッドから起きた。鷹はすでに会社へ出かけていた。

彼女は昼食をとり、支度をして来依の家を訪れた。

来依は一人だった。

以前、海人がちゃんと仕事に出るよう約束していたため、健診の日以外は家にいなかった。

何かあれば五郎がすぐに連絡することになっていた。

「海人はなんて言ってた?」

来依は、昨日の会話を南にそのまま伝えた。

南は彼女の襟元に目をやり、からかうように言った。

「聞き出せなかったんじゃない?その代わり、しっかりおいしく食べられちゃったってわけね」

彼女は襟を整えながら、来依
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