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第213話

Author: 楽恩
山田先輩はふいに振り返り、まるで星の光を湛えたような澄んだ瞳でこちらを見た。そして、不意打ちのように言った。

「じゃあ、俺の彼女になってくれる?」

一瞬、頭が真っ白になった。

そんなこと、考えたこともなかった。

大学時代も、彼が帰国してからも、ずっといい友達だと思っていた。

私には泥沼のような結婚生活があり、彼には長年想いを寄せる女性がいる。そういう意味で、私たちはいちばん安心して付き合える異性の友達だった。

互いに、余計な期待もしない、気遣いもしない。ちょうどいい距離感。

そんな彼のまなざしを正面から受け止めてしまって、私は言葉に詰まり、思わず目をそらす。

「せ、先輩……」

「はは、ごめんごめん」

山田先輩は軽く笑って、冗談めかして言った。

「冗談だよ。なに、そんなに驚いてるの?俺のこといい男って言ってたの、嘘だった?」

「違うってば!」

私は安堵のあまり鼻先を掻きながら、慌てて言い訳する。

「ちょっと……急すぎて、びっくりしただけだよ」

ほんと、それだけだった。

まだ離婚すらしていない状況で、そんなこと考える余裕なんてあるはずがない。

それに、彼には好きな人がいるって分かってたから、そういう方向で考えたこともなかった。

「じゃあ、あれは本心で褒めてくれたんだ?」

「もちろん。嘘ついてどうするの」

私は笑って頷いた。

「ほんとのことだよ。誰がなんと言おうと、私はそう思ってる」

「……なら、これ見てみる?」

彼はそう言って玄関へ向かい、先ほど棚に置いていた封筒を手に取った。

「これを見たら、きっともっと俺のこと褒めたくなると思うよ」

「なにそれ?」

「南に返したかったもの」

そう言って、封筒を私に差し出した。

中を開けてみると、営業許可証と会社関連の資料が入っていた。最初は何のことか分からなかったけれど――

「……会社名を見て」

彼の綺麗な指先が、ある箇所を指し示した。

そこに書かれていたのは――

「南希」

その二文字を見た瞬間、胸がぎゅっと締め付けられた。

手の中の書類をめくっていくうちに、いつの間にかぽたりと涙が一枚の紙に落ちた。

――「ねえ、新しいブランドの名前、南希ってどうかな?」

――「南はパパとママの希望って意味があるんだもんね」

――「うん、きっと南希は、国内でトップクラスのブラ
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