Mag-log in「???」その言葉を聞いた慎吾は、ますます容赦なく相手を叩きのめした。一直線な性格の彼の考えは単純だった。社長に「頼りない」と思われたのなら、自分の力を証明するしかない。自分には高い給料をもらうだけの価値があり、彼女に信頼してもらうだけの資格もあると。ドンッ!ぐあっ!バキッ!岸では、あちこちから激しい物音と悲鳴が響いていた。慎吾は相手から奪った鉄パイプを手にすると、武器を得たことでさっきよりもさらに動きが冴え渡る。倒される仲間が次々と増えていくのを見て、リーダーらしき男は険しい顔になり、ついに決断を下した。「第三チームを呼べ!泳げる奴は川へ入れ!残りはあいつを足止めしろ!狙いは柚香だ、間違えるな!」その号令と同時に、何人もの男が次々と川へ飛び込んだ。慎吾は追いかけて引きずり上げようとしたが、残った連中に取り囲まれ、身動きが取れなくなる。「お嬢様」康平は勢いよく迫ってくる男たちを見て、自分が足手まといになることを悟った。「俺のことは放っておいて、一人で泳いでください。お嬢様なら、水の中じゃあいつらも追いつけません」柚香は彼をちらりと見た。「気を遣わなくていいです」「溺れずにいられる?」柚香は頭をフル回転させながら尋ねた。「……正直、厳しいです」「だったら、あとはどっちが速く泳げるか勝負ね」慎吾が岸の連中を片づけるまで、絶対に捕まるわけにはいかない。ここで捕まれば、今までの頑張りがすべて水の泡になる。だが彼女の体力は限界に近づき、身体は寒さで震え始めていた。真冬の川の水は、骨まで凍るような冷たさだった。康平もそれに気づいていた。だからこそ、あんな提案をしたのだ。無理やり手を振りほどくことはできる。けれど、一度離れれば、彼女の性格からして何としてでもまた自分をつかもうとする。そうなれば、余計に彼女の体力を奪うだけだ。「追ってくるやつは俺が何とかします」男たちがどんどん距離を詰めてくるのを見て、康平は賭けに出ることを決めた。「その代わり、少しだけ頑張ってください」「……?」柚香がその意味を考える間もなく、康平は追いついてきた男の顔面を思い切り殴りつけ、その腕をつかんで勢いよくひねり上げた。一人は吹き飛ばしたが、一連の動きのせいで康平は大量の川の水を飲み込んでしまう
この作戦なら、自分はまず間違いなく生き残れる。だが、社長は?泳ぎがあまり得意ではない康平を連れたまま、自分が岸の連中を片づけるまで待ち、終わったら合流するつもりなのだろう。彼女自身が滝へ流される可能性があることを、ちゃんとわかっているのか?「問題ないなら、行動開始よ」柚香は彼の考えを一瞬で読み取り、きっぱりと言った。「行こう!」ザブンッ!柚香は皆を連れて、一斉に川へ飛び込んだ。全員が岸へ向かって必死に泳ぐ姿は、周囲からもよく見える。予想どおり、その様子を見た岸の連中は、少しずつこちらへ集まり始めた。「行って」柚香は言いたそうにしている慎吾を見て、あっさりと言う。「私と康平は、あなたが助けに来てくれるのを待ってるから」「待ってて」慎吾はもう時間を無駄にしなかった。あいつらを片づけなければ、自分たちに生き残る道はないと分かっていたからだ。そのまま頭から水中へ潜る。柚香はすぐに手を伸ばし、慌てた声を上げた。「慎吾!」康平も芝居に合わせて叫ぶ。岸までは二、三十メートルほどしかなく、その声は当然、岸の連中にも聞こえていた。慎吾が水中を右方向へ泳いでいく一方で、柚香は康平を引き連れ、流れに逆らいながら左側の岸を目指す。そうすれば少しでも時間を稼げる。すぐに流されずに済むからだ。「お嬢様……」康平は初めて、チーム以外で心から信頼できる相手を見つけた気がした。「大丈夫、私が引っ張るから」柚香は彼の手をしっかり握り、まっすぐな目で言う。「あなたはできるだけ体力を温存して。岸に着いたら、今度はあなたたちが私を連れて帰ってくれないと困るんだから」康平は胸が詰まり、複雑な思いでうなずいた。「……はい」彼女は、本当にお人よしだ。今ここで自分の手を放して一人で泳げばいい。慎吾だって何も疑わないだろう。流れは速いし、180センチを超える男を引っ張りながら泳ぐなんて、途中で手が離れてしまっても不自然じゃない。それなのに……彼女はずっと自分の手を離そうとしない。その姿を見ているうちに、康平の表情は自然と柔らかくなった。「もし今日、生きて帰れたら……俺たちがあなたのそばに来た本当の目的を話します」そう決意して口にした。「いいよ」柚香は岸に集まる人数がどんどん増えていくのを見つめながら、それでも慎吾のこと
承輝は一瞬、言葉を失った。そこまでは想定していなかった。あらかじめ手は打ってあり、その時間帯にあの道へほかの車が入らないようにしていたはずだった。「問題ない。今から向かったところで、もう間に合わない」承輝は少しも焦る様子を見せなかった。「あいつらにはちゃんと話を通してある。遥真が調べても、行き着く先は拓海だ。俺にはたどり着けない」秘書の表情には、不安の色がよぎる。遥真の実力や手腕は多少なりとも耳にしている。本当に彼を欺ききれるのだろうか。「まだ何かあるのか?」承輝がその様子に気づいた。「手がかりをたどれば、確かに拓海に行き着きます」秘書は計画が露見することを心配していた。「ですが、柚香はついこの前まで神崎家にいました。拓海が手を下したと言っても、信じる人は多くないかと」ここまで露骨に証拠を残す人間はいない。ましてや神崎家の当主ならなおさらだ。「誰かが罪をなすりつけた可能性もあるだろう?神崎家には、衝動的に動く拓哉もいるのを忘れたのか」承輝は終始落ち着いていた。「それに、このところ俺はずっと海外で仕事だった。柚香のことに関わる時間なんてあるはずがない」その一言で、秘書はすべて理解した。「予定どおり実行させろ」承輝は一刻も早く柚香に何かあったという知らせを聞きたかった。「もし運悪く遥真に疑われたとしても構わない。証拠もないのに、俺に手出しはできないだろう」秘書は軽くうなずいた。「承知しました」彼はすぐに蒼海市の部下へ、「どんな手を使ってでも、柚香を始末しろ」と指示を出した。川の流れはますます速くなり、川岸には「この先一キロ、滝あり」という標識が見えた。柚香たちは車ごと流されてから、すでにかなりの時間が経っている。このままなら十分ほどで滝へ流れ着く。三人とも胸の奥で冷や汗をかいていた。「慎吾、康平」柚香は川岸でナイフや鉄パイプを手にした男たちを見つめた。二人が同時に彼女へ視線を向ける。柚香は落ち着いた声で尋ねた。「私を置いて動けば、岸にいる連中を片づけられる?」片づけられる。二人の頭に最初によぎった答えは、それだった。「何言ってるんですか」康平は質問には答えず、あえて軽い口調で笑った。「俺たちはお嬢様のボディーガードですよ。お嬢様を置いていくわけないじゃないですか」二人が柚香を守れ
康平は表情ひとつ変えずに言った。「得意です」慎吾は反射的に彼をちらりと見た。そのわずかな視線の動きに柚香は気づいた。だが、今はそんなことを気にしている余裕はない。何よりも先に、全員が車から脱出しなければならない。このまま水が車内に流れ込めば、本当に手遅れになってしまう。その一部始終を、上から見張っている者たちはすべて見ていた。黒い車から一人の男が降りてくる。全身黒ずくめでサングラスをかけたその男は、近寄りがたいほど冷たい雰囲気をまとっていた。「向こうに連絡しろ。始めていい」道路を塞いでいた男が答える。「はい」黒服の男は低い声で言い放った。「上からの命令だ。あの三人は必ず始末しろ。失敗したら……消えるのはお前たちだ」「承知しました」道路を塞いでいた男は慌てて返事をした。その頃。健太はまだスマホを握りしめたまま、何度も呼びかけていた。「柚香さん!?柚香さん!大丈夫ですか!何かあったんですか!」ツーツーツ――通話は途切れた。健太は眉をひそめる。嫌な予感しかしない。電話越しでは向こうの音ははっきり聞こえなかったが、かすかに衝突音が聞こえた。それに、柚香のボディガードが「慎吾!君が社長を連れて先に……」と叫んでいた気もする。健太は川へ視線を向けた。まさか、川に落ちたんじゃ……運転席の男は、健太が電話を終えたのを見て、ワイヤレスイヤホンに手を伸ばし報告しようとした。だが、その手がイヤホンに触れる前に、健太が先に拳を振り下ろし、男を気絶させた。この男はここに残しておけば、あとは警察が対処してくれる。仲間に連れ去られたとしても、その後は社長が何とかするはずだ。今、一番大事なのは、柚香が無事かどうかを確かめること。健太は車に飛び乗ると同時に、遥真へ電話をかけた。「社長、南浜大通りで事件です……!」時間は刻一刻と過ぎていく。五分はあっという間だった。健太が柚香たちの事故現場へ駆けつけた時には、そこにいた人間はすでに全員姿を消しており、壊れたガードレールだけが残されていた。彼はガードレール越しに下をのぞき込む。見えるのは激しく流れる川だけ。川沿いには木々が生い茂り、視界を遮っているため、車が転落しているのかどうかまでは確認できない。だが、この壊れ方を見る限り……
「さっきまで俺たちの後ろを走ってた車は、どうやら偶然だったみたいだな」康平は足早に歩きながら、できるだけ相手との距離を広げようとした。「もしあの車も仲間だったら、さっき前の車が突っ込んできた時点で、一気に加速して挟み撃ちにしてきたはずだ」前後二台とも自分たちを狙っていたなら、大事故にならなくても、多少は接触していたはずだ。柚香も同じ考えだった。ちょうどその時、スマホの着信がまだ震えていた。彼女は通話ボタンをスライドして電話に出る。「もしもし」「柚香さん、今あなたたちの後ろを走っている車は、さっき逆走して突っ込んできた連中の仲間です」健太は焦ったように早口で言った。「急いで知らせないと危ないと思って。気をつけてください」柚香は相手をあまり心配させないよう、落ち着いて答えた。「とりあえず振り切れたわ」健太「??」見間違いでなければ、あの車はずっとスピードを上げ続けていたはずだ。地図ではこの先にカーブが何か所もあるとはいえ、もう振り切ったのか?驚く間もなく、今度は柚香が尋ねた。「どうして知ってるの?」「それは……」健太は口ごもり、どうごまかそうか必死だった。陰で護衛していたと言うか?しかし本人に許可なく見守っていたとなると、尾行と言われても仕方ない。仕事でたまたま近くを通ったと言うか?だがこの辺りはほとんど神崎家の縄張りで、社長と神崎家に仕事上の関わりはない。「さっき私たちの後ろにいたのって、あなたの人だったの?」柚香は本人だとは思っていなかった。さっき見た人物は黒いロングヘアだったからだ。健太は一瞬固まる。変装用のウィッグに救われたと気づいた途端、頭が一気に回転した。「部下にちょっと用事を頼んであっちへ行かせてたんです。たまたま柚香さんたちと同じ道になっただけですよ。安心してください、部下にはもう警察へ通報するよう指示してありますから、柚香さんは気にしなくて大丈夫です」「ありがとう」柚香は短く礼を言い、電話を切る前に一言だけ付け加えた。「遥真に、『赤の他人』として最後まで通してほしいって伝えて」健太はほっと息をついた。「わかりました……」柚香はスマホを耳から離し、そのまま通話を切ろうとした。こんな手配をしたのは間違いなく遥真だとわかっていたから、それ以上は何も言わなかった。
「くれぐれも気をつけろ」恭介はそう念を押した。「またヘマをしたら、社長はもう容赦しないぞ」「大丈夫、わかってる」健太は状況をちゃんと把握していた。通話を切ったあとも、さらに五分ほど尾行を続けた。神崎家を出たあとの道は交通量が少なかったせいで、気づかれてしまった。柚香はすでに、自分を拓海か拓哉の差し金だと思っているはずだ。前回の件がまだ強く印象に残っていたからだ。康平は、後ろの車が追い越すことも車線変更することもなくついてくるのを見て、念のため柚香に声をかけた。「社長、後ろの車がいなくなるまではシートベルトをしっかり締めて、スマホもいじらないでください。何が起きるかわかりませんから」「うん」弘志と由奈の一件以来、柚香は交通事故に対してすっかり恐怖心を抱くようになっていた。もし相手が急加速して突っ込んできたら、この先には崖や川沿いの道もある。そうなれば、康平もかなり危険な回避操作を迫られるだろう。その時だった。ゴォォォッ――突然、対向車線からエンジン音が響いた。黒いSUVが時速百キロ近いスピードでセンターラインを越え、一直線にこちらへ突っ込んできた!慎吾は右側へ目をやる。すぐ脇には流れの速い川がある。ぶつけられれば、ガードレールを突き破って転落するのは間違いない。口を開こうとした、その瞬間、康平は相手の速度と進路を一瞬で見極め、アクセルを強く踏み込み、ハンドルをわずかに切って本来の走行ラインから外した。キィィッ!狙いが外れた相手は慌てて急ブレーキを踏む。しかし速度が出すぎていたうえ反応も遅く、車はそのまま脇のガードレールへ激突した。その後ろを走っていた健太は、思わず叫んだ。「うわっ、マジか!!!!!」あとほんの少しで自分の車にも突っ込まれるところだった。全身が一気にこわばる。反応が少しでも遅れていたら確実にぶつかっていた。だが、それ以上に背筋が寒くなったのは、もしさっき柚香たちの車が回避できていなければ、間違いなく川へ突き落とされていたということだ。速度も、ハンドルを切るタイミングも、ほんのわずかでもずれていたら避けられなかった。いったい何が起きた?故意なのか、それとも事故なのか?その時、一台の黒い車が彼の横を猛スピードで駆け抜け、巻き上げた風で落ち葉が舞い上がっ







