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第7話

Author: むぎこ
陽子は航空券を手に、出発しようとする。しかし玄関で、使用人に行く手を塞がれた。

「申し訳ありませんが、旦那様のご指示で、奥様がお目覚めになるまで外出はご遠慮いただくことになっております」

仕方なく自分で病院へ向かい、心を込めて作ったスープを手に取った。

だが、病室の前では警備員に止められる。「奥様のお腹の赤ちゃんは無事でした。面会はお控えください」

ガラス越しに見えたのは、青白い顔で眠る美優の姿だった。その傍らでは、文彦が一睡もしていないらしく、深いクマを刻んだ目で彼女を見守っていた。

物音に気づいた文彦が顔をしかめ、病室から出てくる。彼は陽子の姿を認めると、表情を険しくした。「……何の用だ?」

「お詫びです」陽子はランチジャーを差し出した。

「必要ない」文彦は怒りを込めて言った。「二度と美優を傷つけるようなことはさせない――」

「陽子さん?」美優が弱々しい声で呼びかける。「入ってきてください」

文彦は一瞬ためらい、仕方なく道を空けた。

陽子は病室に入り、穏やかな声で言った。「あの時は言い過ぎました。あなた方の生活に干渉するべきではありませんでした」

そう言いながら保温ジャーの蓋を開けた瞬間、文彦が素早くその手首を掴んだ。「また、何か企んでいるのか?」

「陽子さんは、私を傷つけたりしないよ」美優が優しく口を挟んだ。「ちょうどお腹も空いていたところだし……ねえ、少しだけ二人にしてもらえない?」

文彦はしばらく沈黙した後、しぶしぶ背を向け、病室を後にした。

陽子は苦しさを押し殺し、かつて自分の夫を奪った女に一匙ずつスープを運ぶ。

美優は静かに飲み込み、唇の端に意味ありげな笑みを浮かべた。

「ねえ、今『お腹が痛い』って言ったらどうなると思う?文彦はきっと、あなたがスープに何か入れたって疑うわね。

五年前、あの写真をパパラッチに撮らせたのは私。あなたが逆上して出ていくに違いないって、賭けてたの。まさか当たったわ。

……あの夜、私たちに何があったか知りたい?」

「もうどうでもいい」陽子は静かにスプーンを置き、落ち着いた声で言う。

「私は行くわ。あなたたちの幸せを祈ってる」

美優の笑みがすっと消える。

「遅いのよ。邪魔するなって言ったのに、あなたは来た。

五年も消えていたくせに……私がどれだけ彼の心の中で自分の居場所を作ろうとしてきたか、知らないでしょう?

でも、あなたが現れた途端、彼はあなたを家に連れ帰ろうとしたのよ。どうして?私が妻で、この家の女主人なのに!」

「彼は京藤家と朝日家の――」

「関係ない!」美優の声が鋭く響く。

「あなたが彼に近づくのを許さない。八年も付き合ってたからって、過去を盾に彼を奪おうとするなんて、絶対に!」

その瞬間、ベッドサイドのコップが弾かれ、熱湯が陽子の腕にかかる。

じりじりと皮膚が焼け、痛みに息が止まった。陽子は声も出せず、震える手で腕を押さえる。

文彦が物音に気づき、ドアを開けた瞬間――陽子の腕に赤く腫れ上がった火傷が目に飛び込む。

その刹那、彼の瞳にわずかな動揺がよぎった。

「私が……もっと早く熱いって陽子さんに伝えていればよかったのに」美優が俯き、申し訳なさそうに呟く。

文彦はすぐに穏やかな声で返した。「君のせいじゃない……そちらに怪我は?」

彼は陽子には一瞥も与えず、冷たく言い放った。「出て行け。痛いふりをしても無駄だ。お前の痛みなんて、知ったことじゃない」

陽子は腕を押さえ、静かに背を向ける。

彼が誰かを愛するとき、こんなにも簡単な嘘さえ信じるほど――その愛は盲目なのだ。

その瞬間、胸の奥に残っていた未練も、わずかな期待も、すべて霧のように消えていった。

病室を出るとき、ポケットから航空券がするりと落ちたことに、彼女は気づかない。

警備員がそれを拾い上げ、声をかける。「朝日さん、これ、あなたの航空券でしょう」

文彦が振り返り、低い声で問う。「……何の券だ?」

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