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第8話

Author: むぎこ
陽子は傷口が裂けるのも構わず、さっと航空券を拾い上げ、胸元に押し当てて隠した。「見間違いです」

文彦の視線は、激しい反抗で傷口が再び開き、血がにじみ出ている陽子の腕に釘付けだ。

警備員に支えられ、廊下を歩く陽子。床に滴り落ちる血のしずくが、文彦の瞳に一瞬の揺らぎを映した。

手当てを終えると、陽子は迷いなく産婦人科へ向かう。「先生、お願いです。中絶手術をしてください。できるだけ早く……」

妊娠初期であるため、薬物による処置が可能だと医師から告げられる。陽子は静かに、しかし確かにうなずいた。

屋敷に戻り、彼女はベッドの縁に座ると、ためらうことなく中絶薬を飲み干した。

やがて眠りの中で、美優が冷たい刃を手に、彼女の腹部を突き刺す夢を見る。痛みはあまりに鮮明で、骨の髄まで焼きつくようだ。

もがけばもがくほど、赤が広がり、世界が血の海に染まっていく。

そして、暗闇の奥から、巨大な手が伸びてきた。

それは、文彦の手だった。

文彦は怒りに震えながら、陽子をベッドから引き起こした。

「警告したはずだ。それとも、どんな結果になっても構わないのか?」

陽子がぼんやりした視界を必死に凝らすと、文彦が突きつけたスマホの画面に、美優からのメッセージが表示されていた。

【文彦へ。このメッセージが届く頃、私はここにいません。陽子さんは、両親を失った彼女にはもうあなたを失うわけにはいかないと言いました。たとえ未練があっても、私が去らなければ私たちの子どもを無事に産ませないとまで言うのです。この五年間、あなたからいただいた幸せは一生の宝物です。そろそろ……あなたを陽子さんにお返しします】

「そんなこと、私は一言も……」

「ならば、なぜ彼女は体調が不安定なのに出て行くんだ!?」文彦の掌が、陽子の傷口を強く握りつぶす。紗布から鮮血がにじみ、赤い染みが広がっていった。

痛みに陽子は息を呑むが、虚ろな目でまっすぐ見つめ返す。「本当に、言ってないの」

文彦は、陽子が美優を追い詰めたと確信している。

だが彼には気づかない。陽子の腿のあいだを伝う鮮血――それが、彼らの子どもそのものだったということに。

文彦は陽子を地下室へ押し込み、歯を食いしばって言い放つ。「美優を見つけるまで、ここから一歩も出るな。もし彼女に何かあったら、お前も同罪だ」

そして近くの使用人に向かって命じる。「こいつらに水と食料だけ与えろ。だが電気は通すな」

陽子は閉所恐怖症だ。身体が勝手に震え、涙が止まらない。「だめ……閉じ込めないで!」

それでも重い扉が音を立てて閉まる。

狭い地下室の空気が一気にこもり、呼吸が浅く速くなっていく。

下腹部を締めつけるような痛みと、嫌な湿り気。まっすぐ立つことさえできない。首を伸ばして必死に空気を吸い込みながら、体の奥を引き裂くような激痛に耐え続ける。

この痛みと一緒に、文彦との子どもが少しずつ消えていく。

彼女の閉所恐怖症を、文彦は誰よりも知っているはずだ。それでも彼は、このやり方で罰することを選んだ。

まさか、彼がここまで美優を愛しているなんて――思いもしなかった。

息苦しさが首に絡みつくように広がる。陽子は自分の腕の傷を強く押さえ、痛みで意識をつなぎとめようとする。

心の中で祈る。文彦が早く美優を見つけて、そして――この場所から自分を出してくれますように。

三日後の飛行機に間に合わなければ、すべてが終わる。

一日目。文彦は来ない。息をするたびに、胸の奥が焼けるように痛い。

二日目。まだ来ない。頭の中で光と影がちらつき始める。

三日目。搭乗時刻が刻一刻と迫る。陽子は必死に扉を叩く。「出して……お願い……」

崩れ落ちそうなその瞬間、地下室の扉が開いた。差し込む光に向かって、這うように外へ駆け出す。

背後で使用人たちの声が聞こえる。「一日目に美優さん、見つかってたんですって。旦那様、すっかり忘れてたみたいですね」

ふらついて何度も転び、額から血を流しながらも、陽子は走り続ける。

タクシーの前によろめき出て、声を振り絞った。「空港まで!急いで!」
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