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第4話

ผู้เขียน: 平坂果音
翌朝、翔真はいつもより早く家を出ていった。残されたのは、冷蔵庫に貼られた一枚のメモだけだった。

【枝里、薬の研究開発の進捗を確認しに行ってくる。夜は戻れないかもしれない。待たなくていいよ】

枝里は、そのメモを淡々と剥がし、無造作に丸めてゴミ箱に放った。その一連の動作に、感情の揺れは一切見られなかった。

だが、その静けさを破るように、美羽から立て続けにメッセージが届き始めた。

【枝里さん、このドレスあんまり好きじゃないって言ったのに、翔真さんが『似合う』って言い張って、結局買ってくれたの】

【今日、翔真さんと遊園地に行ったの。彼の腕の中、本当にあったかくて、すごく安心できた。抱きしめられてたら、ジェットコースターも全然怖くなかったよ】

【それから、カップル専用のレストランにも行ったよ。でも誤解しないでね?他のカップルみたいにキスとかハグとかはしてないから。ただ食事しただけ】

指先が画面をスクロールするたびに、その動きはどこまでも冷ややかだった。挑発と独占欲が滲む文面に、枝里はわずかに唇を歪める。

これが、あなたの言う「薬の研究」?

似たようなメッセージは、その後も数日間、途切れることはなかった。

その間、翔真は一度も家に帰ってこなかった。

そんなある晩―

美羽からの着信が何度も鳴り響いた。拒否しても、またすぐにかかってくる。まるで執着のように。

うんざりした枝里は、ついに右へスワイプして通話を繋いだ。

電話の向こうから聞こえてきたのは、涙交じりで、それでいてどこか誇らしげな美羽の声だった。

「枝里さん……どうして出てくれなかったの?翔真さんが、事故に遭ったの!

私が車の中で、どうしてもイチゴを食べさせてって甘えちゃって……

彼、それで気を取られちゃったの。

気づいたら、暴走トラックが目の前に―

その瞬間、彼は真っ先に私をかばってくれたの。

私はかすり傷ひとつないのに、彼は血まみれで手術室に運ばれて……

丸一日一晩も必死に治療受けて、やっと危険な状態を脱したの。看護師さんが言ってたのよ、翔真さん、ずっと私の名前を呼んでたって……

あんなにひどい怪我なのに、心配してたのは私のことばかりだったの……」

その言葉に、枝里は心がぎゅっと締めつけられるような痛みが走った。

そして、ふと脳裏に浮かんだのは―三年前の記憶だった。

あの夜、彼と出席した華やかなパーティー。

会場の天井から、突然落下してきたシャンデリア。

誰よりも早く、彼は彼女を庇って飛び込んできた。

枝里は無傷。

彼は、肋骨を二本、折った。

そのとき彼女は、彼の病室のベッドのそばで泣きじゃくっていた。

「バカじゃないの……!?普通だったらああいう時、誰だって逃げるのに……どうして私をかばって飛び込んでくるのよ……

翔真の、大バカ、大バカ者!

この世でいちばんの、おバカさんだよ……」

彼はあまりの痛みに、まともに動くことすらできなかった。それでも微笑みながら身を起こし、彼女の頬に伝う涙をそっと指先でぬぐった。

その瞳には、深い慈しみと愛おしさが満ちていた。

「枝里……そんなに泣かないで。肋骨を二本やられたけど、痛いなんて一言も言わなかったのにさ。

でも、君がそんなふうに泣くと……本当に、半分、命が削られる気がするんだよ。

君は俺の人生でいちばん大切な人だ。命よりも大事な存在なんだ。だからこそ、どんなことがあっても守る、今も、これからも―」

でも、今の彼は、別の誰かのためにも命を懸けようとしている。

翔真は、本当に美羽のことを「親友の妹」としか思っていないのだろうか?

枝里はかすかに唇を引き上げた。

「そんなにひどい怪我してまで守ったんだから、ちゃんと看病してあげて。それじゃ、切るね」

そう言って、迷いも未練もなく電話を切った。

ツー、ツー……と鳴り続ける無機質な音。

思い通りの反応を得られず、美羽は怒りを露わにし、思わずスマホを床へと叩きつけそうになった。

それ以降、翔真は病院で静養していたが、枝里は一度も見舞いに訪れることはなかった。彼の容態を気にかける様子すら、見せなかった。

それを見かねた翔真のアシスタントが、何度もメッセージを送り続けた。

【東雲さん、高峯社長は研究所へ向かう途中で事故に遭いました。現在入院中で、東雲さんにお会いしたがっています。一度だけでも、顔を見せていただけませんか?】

もちろん、彼が「誰のために」怪我をしたのか、そのことは伏せられていた。

だが枝里は、すでにすべてを知っていた。

メッセージを見ては、黙って閉じる。無視を貫いた。

【東雲さん、社長は今日だけで十数回、東雲さんは来ないのかと尋ねていました。どうか、少しでも顔を見せていただけませんか?】

【東雲さん……社長は、本当に東雲さんを待ち続けています……】

数十件にも及ぶメッセージ。それでも彼女は、一通たりとも返信しなかった。

彼女には、もっと大切なことがあった―旅立ちの準備だ。

その夜、荷物を半分ほど詰め終えたころ、外から鋭いクラクションの音が響いた。

すぐにアシスタントの慌てた叫び声が続いた。

「社長、ダメですってば!まだ傷も塞がってないのに、勝手に退院なんて……医師も止めてるんですよ!」

その声に、枝里の手が一瞬止まった。

そして次の瞬間、玄関のドアが勢いよく開かれた。

現れたのは、血に染まった病衣姿の翔真だった。

背中の包帯は、すでに赤く染まり切っていた。それでも、彼の瞳には彼女の姿を見つけた瞬間の「安堵」しか映っていなかった。

まるで、生き返ったかのように―彼は駆け寄り、彼女を力いっぱい抱きしめた。

「枝里、ずっと会いたかった……

君が来てくれなくて、怖くて……何かあったんじゃないかって、気が気じゃなかったんだ」

彼は顎を彼女の肩口に埋め、そのぬくもりを確かめるように、強く、しがみつくように抱きしめた。その腕には、決して離さないという強い意志と執着がこもっていた。

強すぎるその抱擁に、息苦しさを覚えた枝里は、そっと彼の体を押し返した。

それを見て、アシスタントは気を利かせて静かに部屋を出た。

やつれた頬、血の滲んだ病衣。それでも、彼の整った面差しは変わらなかった。ただ、その瞳だけが、捨てられた子犬のように切なげに潤んでいた。

彼が何かを言いかけた、そのとき―

ふと視線の端に、開いたスーツケースが映り込んだ。

中には、きちんと畳まれた衣類が整然と詰められていた。

その光景を目にした瞬間、翔真の思考は止まった。世界の音が、すべて消えた。

彼は思わず彼女の手を握りしめ、震える声で言った。

「枝里、君、荷物をまとめてるの?なんで、何も言わずに?まさか……どこかへ行こうとしてるのか?」

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