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妊娠で発覚したこと

妊娠で発覚したこと

By:  麦畑Completed
Language: Japanese
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藤原継彦(ふじわら つぐひこ)と結婚して六年、ようやく彼の子を妊娠した。 だが、医者は継彦の名前を聞くと驚きを隠せなかった。 「藤原社長の奥様は二年前に当院で男の子を出産されています。よく覚えていますよ。奥様は当時人気絶頂の女優さんで、藤原社長とよくお似合いです」 私は信じられなかった。「何を言っているんですか。私たちはちゃんと婚姻届を出してます!」 「間違いありません。藤原社長は身分が高く、奥様との仲も良く、何事もご自分で付き添われて……」 怒りに震えながら病院を飛び出したが、弁護士から結婚証明が偽造されたと告げられたとき、私は完全に崩れ落ちた。 目の前が真っ暗になり、周囲の音が一切聞こえなくなった。 ようやく腑に落ちた。 彼は初めから私の夫ではない。私のお腹の子も望んでもいないのだ。 私は実家に電話をかけた。 この冷酷な詐欺師を地獄に落としてやると、私は誓った。

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Chapter 1

第1話

夫の藤原継彦(ふじわら つぐひこ)と出会って八年、結婚して六年にし、ようやく望んでいた子を授かった。

だがその矢先、彼にはすでに人気女優との間に二歳の息子がいると知らされた。

それでは、この長年の甘い日々は、全部嘘だったの?

……

どれほど外で座り込んでいたのだろう。

土砂降りの雨に我に返り、私は慌てて近くのショッピングモールへと駆け込んだ。

館内の至るところに、人気女優である篠野怜(しのの れい)の巨大なポスターが貼られている。彼女は傲慢に微笑み、その視線がまるで私の愚かさと無知を嘲っているようだ。

あの頃、私たちの婚約の報道が出たとき、確かに人々は「藤原家の奥様になるのは篠野怜だ」と噂していた。

だが継彦は鼻で笑った。「恵子(けいこ)、外の戯言なんて信じるな。たかが小さな芸能人が藤原家に入れるわけがない。

俺が生涯を共にする妻は君だけだ。

ただ、藤原家は目立ちすぎて敵が多い。君を守るためにも、結婚式は簡素に済ませよう。苦労をかけるが、必ず後で盛大な式を挙げてやる」

その言葉を信じ、私は披露宴も開かず、招待客も呼ばず、婚姻届受理証明書まで彼の秘書が代わりに受け取った。

医者や看護師の言葉が釘のように耳に刺さっている。胸の奥で、恐ろしい予感が静かに形を取っていった。

私は不安がいっぱいで、長年付き合いのある弁護士を訪ね、婚姻届受理証明書の真偽を確かめてもらった。

何度も確認した彼は、重い口を開いた。

「白石(しらいし)さん……あなたの婚姻届受理証明書は偽造です。

それに、調査によりますと、藤原社長の法律上の正式な妻は篠野さんです。彼らは六年前に羅崎市で婚姻届を出しています。しかも、あそこでは離婚ができない。つまり、二人は今も夫婦ですね」

確かに六年前、継彦は「出張」で羅崎市へ行ったとき、一ヶ月も戻らなかったことがある。

帰ってきた彼は私の好きなビターチョコを渡して言った。「恵子、会いたかったよ。今度一緒に羅崎市へ行こう。君の好きなチョコレート店を丸ごと買ってあげる」

なるほど、あれは怜との新婚旅行だったのだ。

彼はその約束をまだ果していない。そして、彼の怜との子は、もはや二歳を過ぎている。

私は全身が凍りつき、思考も感覚もなくなった。どうやって家に戻ったのかも覚えていない。

書斎の前を通りかかったとき、ふと自分の名前が聞こえた。

継彦の母親である藤原美和(ふじわら みわ)がためらいながら言った。「恵子はあなたと結婚してからずっと尽くしてきたじゃないの?あなた、私たちに内緒して怜と結婚して子どもまで作ったことはもういいとして、その子を家に連れてきて恵子に育てさせるなんて、さすがに酷すぎるわ」

継彦は低く冷たい声で返った。「俺が愛しているのは最初から怜だけだ。そんなの皆分かってるだろう?もしあの時、藤原家が白石家の支援を必要としていなければ……まあいい。俺はもう十分、恵子に優しくしてやったさ。

恵子は素直で疑い深くない。養子だと言っておけば何も気づかないだろう。

それに、あの子は藤原家の血を引いている、藤原グループの後継者だ。外に放っておけるか?

とにかく、俺はもう決めた。誰が反対しようと、怜との息子を迎え入れ、俺の手で育てる」

それを聞いた私は部屋へ駆け戻り、そのまま床に崩れ落ちた。

お腹をそっと撫でるが、この子は望まれない命なんだ。今朝、妊娠を知ったときの喜びがまだ鮮やかに残っている。まさか一日で、すべてが崩れ去るなんて。

涙は止まらない。何度拭っても、次々と溢れ出てくる。

寝室には継彦との思い出が溢れている。彼に撮ってもらった私の写真、私が描いた彼の肖像画……

どれも、彼が私を欺くために編んだ罠だ。

もう、未練なんてあるはずがない。

突然、外から足音が近づいてきた。私は慌ててバスルームに隠れ、震える手でスマホを取り出した。長く連絡を絶っていた相手に、短いメッセージを送った。

【白石恵子という人間を、この世から消して】
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KuKP
クズ女に騙されるクズ男に騙された主人公が、自分の手できっちり復讐を遂げる話 去った後にクズが落ちぶれるのを見届けるだけじゃなく自ら手配するのは意外と珍しいかも?
2025-11-04 12:01:20
1
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松坂 美枝
クズ女の言うなりの調査を怠るいつものダメ男の話 失うものが何もなくなった主人公の覚醒と無双状態が 華麗だった
2025-11-04 11:13:54
1
9 Chapters
第1話
夫の藤原継彦(ふじわら つぐひこ)と出会って八年、結婚して六年にし、ようやく望んでいた子を授かった。だがその矢先、彼にはすでに人気女優との間に二歳の息子がいると知らされた。それでは、この長年の甘い日々は、全部嘘だったの?……どれほど外で座り込んでいたのだろう。土砂降りの雨に我に返り、私は慌てて近くのショッピングモールへと駆け込んだ。館内の至るところに、人気女優である篠野怜(しのの れい)の巨大なポスターが貼られている。彼女は傲慢に微笑み、その視線がまるで私の愚かさと無知を嘲っているようだ。あの頃、私たちの婚約の報道が出たとき、確かに人々は「藤原家の奥様になるのは篠野怜だ」と噂していた。だが継彦は鼻で笑った。「恵子(けいこ)、外の戯言なんて信じるな。たかが小さな芸能人が藤原家に入れるわけがない。俺が生涯を共にする妻は君だけだ。ただ、藤原家は目立ちすぎて敵が多い。君を守るためにも、結婚式は簡素に済ませよう。苦労をかけるが、必ず後で盛大な式を挙げてやる」その言葉を信じ、私は披露宴も開かず、招待客も呼ばず、婚姻届受理証明書まで彼の秘書が代わりに受け取った。医者や看護師の言葉が釘のように耳に刺さっている。胸の奥で、恐ろしい予感が静かに形を取っていった。私は不安がいっぱいで、長年付き合いのある弁護士を訪ね、婚姻届受理証明書の真偽を確かめてもらった。何度も確認した彼は、重い口を開いた。「白石(しらいし)さん……あなたの婚姻届受理証明書は偽造です。それに、調査によりますと、藤原社長の法律上の正式な妻は篠野さんです。彼らは六年前に羅崎市で婚姻届を出しています。しかも、あそこでは離婚ができない。つまり、二人は今も夫婦ですね」確かに六年前、継彦は「出張」で羅崎市へ行ったとき、一ヶ月も戻らなかったことがある。帰ってきた彼は私の好きなビターチョコを渡して言った。「恵子、会いたかったよ。今度一緒に羅崎市へ行こう。君の好きなチョコレート店を丸ごと買ってあげる」なるほど、あれは怜との新婚旅行だったのだ。彼はその約束をまだ果していない。そして、彼の怜との子は、もはや二歳を過ぎている。私は全身が凍りつき、思考も感覚もなくなった。どうやって家に戻ったのかも覚えていない。書斎の前を通りかかったとき、ふと自分の名前が聞こ
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第2話
「恵子、中にいるの?大丈夫?」継彦が洗面所のドアをノックしている。その声はいつものように優しく、少しの綻びもない。スマホの向こうから肯定の返事が返ってくると、私はなんとか立ち上がりながら、ドアを開け、継彦を見つめながら言った。「平気よ、ちょっと吐き気がしただけ。ねえ、継彦、もしかして私……妊娠してるのかしら?」継彦の顔色が一瞬で変わった。「そんなはずない!」だが、彼はすぐに取り繕うように言い直した。「いや、俺が言いたいのは……君はずっと体が弱いだろう?無理に子どもを持つ必要はない。君の体が一番大事なんだ。俺はそれが心配なんだよ」私は確かに体が弱く、結婚して何年も経っても子どもができなかった。美和はそのことで何度も私を病院に連れて行き、結果はいつも同じだ。つまり、「妊娠しにくい体質で、長期の調整が必要」だ。継彦はそのことを知ると美和と大喧嘩になった。「恵子は俺の妻だ。子どもを産むかどうかは関係ない。彼女の身体こそが一番大事なんだ!」その時の私は、感動で涙が止まらなかった。だが今思えば、あれは私がちょうど彼と怜の関係を「円満に」してあげたようなものだった。継彦という男、本当に「優しい人」を演じるのが上手い。継彦の表情はすぐに元に戻った。だが、その一瞬を見ただけで、私の心は奈落に落ちた。以前なら彼がこんなふうに言えば、私は感激して彼の胸に飛び込んでいただろう。今はただ、無理に笑みを作って後ずさることしかできない。その拍子に、背後の花瓶を倒してしまった。その花瓶は、かつて私と継彦が一緒に作ったものだ。底には、二人の名前のイニシャルが刻まれている。割れた破片が床に散らばると、私たちは同時に動きを止めた。継彦はすぐに私の腕を掴み、頬を撫でながら優しく言った。「大丈夫、新しいのを買えばいい。妊娠できないことで自分を責めているんだろう?無理して産まなくてもいい。養子を取ろう。海外に友人がいて、その人、事故で家族と亡くなって、二歳の男の子だけが残っている。恵子、あの子のこと、きっと君も好きになるよ」あなたと別の女の子どもを、どうして好きになれるの?私は冷笑して問い返した。「そんな友達、知らないけど?もし私が嫌だと言ったら?」継彦は一瞬、苛立ちを隠せなくなり、強く私の手首を掴んだ。「恵子、これは話し合うこと
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第3話
私は、子どもの無邪気な平手打ちで目を覚ました。まだ何が起きたのかも分からないうちに、怜が慌てて駆け寄り、その子を抱き上げた。「翼はまだ小さくてね。好奇心の盛りの年頃だから、白石さん、どうか気にしないでくださいね」継彦も後を追って入ってきた。私がまだベッドにいるのを見ると、眉をひそめ、あからさまに不快そうな顔をしながら言った。「昨日言ったよな?今日は翼が藤原家に来る歓迎パーティーの日だ。こんな時に寝坊するな!さっさと起きろ!怜、行こう。放っておけ。お客様に主人を起こさせることはないぞ」私は明け方になってようやく少し眠れたばかりだ。悪夢にうなされ、今は頭が割れるほど痛い。「篠野さんも……翼のこと知ってるの?」そして、彼はどこか言葉を詰まらせながら答えた。思わず口をついて出た言葉に、継彦は一瞬動きを止め、顔つきを和らげた。「あ、ああ。翼の両親は……俺たちの共通の友人だ」怜と翼の顔立ちは、どう見ても瓜二つだ。それでも継彦は、私をバカのままにしておくつもりらしい。その時、リビングから「ママ」という澄んだ子どもの声が響いた。それに続き、怜の優しい返事も聞こえた。継彦の顔が一瞬こわばった。「子どもはまだ何も分からない。親しければ誰にでも『ママ』って呼ぶんだ。気にするな」すると、翼は「パパ」と叫びながら駆け寄り、私に変な顔をしておもちゃの車を投げつけ、継彦の手を取って走り去った。リビングのソファには、あの三人が並んで座っている。その光景は、あまりに温かく、そして痛ましい。長年暮らしたこの家の部屋をもう一度見回したが、ここに私が未練を抱く理由なんて、もう何ひとつない。静かに出て行こうと、着替えて部屋を出たその瞬間、腹部におもちゃの剣の鈍い衝撃が走った。翼は私の前に立ちふさがっている。「パパとママは仲良しだよ。悪いおばさんは出てけ!」じわじわと痛みが広がっている。私は翼の視線を追い、ふと気づいた。いつも閉ざされているはずのシアタールームの扉が、わずかに開いている。そこは継彦のプライベート空間だ。仕事のストレスを一人で解消する場所だと、彼は言っていた。私はそれを信じ、彼を尊重し、一度も踏み入れたことがない。だが、知らなかった。その部屋の中に、怜のポスター、写真集、CD、広告パネルが所狭しと飾られているなんて。
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第4話
「そんなはずがない!毎回君が薬を飲むのをちゃんと見ていた!ありえない!」その言葉が口をついた瞬間、継彦はその場で凍りついたように動きを止め、揺れる視線で私の反応を見ている。真実をこの耳で聞いても、胸の痛みは刃のように鋭い。継彦が眉をひそめ、私を支え起こそうとしたが、怜は素早く彼の腕をつかんだ。彼女の声は怯えに震えている。「継彦、翼を見て!発作が出てるみたい!」見ると、翼は息が詰まり、顔を紫に染めながら泣きじゃくっている。怜は宝物のように翼を抱きしめ、涙声で叫んだ。「白石さんって本当に恐ろしい人ね!翼が喘息持ちだって知ってるのに、家中に花を飾って泣かせたりして……もし翼に何かあったら、私、生きていけない……」継彦は慌てて怜の口を塞いだ。「やめろ、翼は大丈夫だ!もうすぐ医者が来る!」そして彼は翼の頬に優しくキスをすると、私を冷たく睨みつけた。「君……もう誰だかわからないよ。君に心底がっかりした。子どもは嘘をつかない。特に翼は素直でいい子だ。君がそんな態度じゃ、どうやって翼を導ける?どうやって俺の妻でいられるんだ?」彼の一言一言が、私とお腹の子を罪人のように地面へと押しつけた。翼の泣き声は止まらず、継彦の怒りも収まらない。「執事、恵子を地下室に閉じ込めろ。自分の過ちを悟り、翼とどう向き合うべきか理解するまで、決して出すな!」その瞬間、私の心は完全に死んだ。体は力を失い、ぼろ布のように地下室まで引きずられた。床には赤い筋が一本、長く残っている。目の前には、継彦と怜、そして翼、幸福そうな「家族」がいる。数日後、幸福な家庭生活の中でふと私を思い出した継彦は、執事に尋ねた。「恵子は、反省したか?」執事は顔を伏せ、詰まった声で答えた。「……奥様は、もう亡くなられました」「今なんて言った?」
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第5話
継彦は、暗く狭い地下室をめちゃくちゃにひっくり返した。だが見つかったのは、拭き取られずに残った一面の血痕だけだ。それが、私とお腹の子が確かに存在していた証だ。彼は激しく医者の胸倉をつかんだ。「本当に死んだのか?じゃあ遺体はどこだ!」「篠野さんが……『亡くなったなら処理して』と……ですから……」継彦は信じられない。何度も怜に電話をかけたが、応答音はずっと「通話中」のままだ。そのころ、怜がホストと夜を共にしたというニュースが、またもやメディアを賑わせている。もはや今月何度目のスキャンダルか、誰も数えきれない。いつも彼女は甘えた声で、「誰かに陥れられたの」と言い訳し、継彦はそのたびに彼女のために火消しをしてきた。だが今思えば、それが本当に冤罪だったのか、もう分からない。彼は頭の中がぐちゃぐちゃだ。誰の言葉が真実で、誰が嘘をついているのかさえ分からない。ただひとつ確かなのは、自分が取り返しのつかない過ちを犯したということだ。継彦は長い時間、地下室の片隅に座り込んだ。外に出たときには、すでに深夜になっている。彼は低い声で執事を呼んできた。「君に罪滅ぼしの機会をやる。怜の居場所を調べろ。今、誰とつながっているのか、一人残らずだ!」……数日後、藤原家の裏門に一台の車が止まった。サングラスとマスクで完全に顔を隠した怜が、中へと入っていった。窓辺にもたれる継彦の姿は、まるで別人のようにやつれている。彼の手には、怜が複数の男と親しげに過ごす写真が何枚も握られている。あの女のために、自分が妻と子を失ったのかと、彼は信じられない。怜は冷たく艶やかに微笑んでいる。「継彦、最近なにしてるの?私のスキャンダル、あんなに長くトレンドに残ってるじゃない?」「恵子はどこにいる?」彼は手の中の写真と報告書を握りしめながら震えている。ようやく、すべてを知ってしまったのだ。怜の表情が一瞬だけ強ばった。「知らないわよ、急にその人の名前なんて。まさか、まだ未練でもあるの?あなた、私に何を約束したか忘れたの?」その瞬間、継彦は手にした写真束を思い切り彼女に投げつけた。一枚一枚が、彼女の頬を切り裂くように散らばった。「じゃあ君、自分の責任を取ったのか?藤原家の女になった瞬間から、仮面を脱いだな。これは今月で何度目だ?ホストとの夜遊び、藤
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第6話
地下室に入って三日目に、私は誰かに助け出された。神田蓮(かんだ れん)だった。母親が雇ってくれた、私のボディーガードだ。彼はかつて傭兵で、体格がたくましいだけでなく、機転が利く。継彦と結婚してから、私はほとんど家と絶縁状態になっている。母親は藤原家が私の背後にある白石家の資産を目当てにしており、ずっと私を利用していると言い、継彦が無口に私を妻にしたことにも反対していたからだ。それで私は家族と決裂した。今にして思えば愚かなことだった。だが母親は口では厳しいことを言いつつ、藤原家の仕事を陰で支え、私が藤原家で辛い思いをしないかと心配していたのだろう。まさか、彼女が蓮を文野市に送り込み、私を密かに守らせていたとは。だからこそ彼はこんなに早く来られたのだ。蓮は母親の指示で藤原家の家政婦と警備員を買収し、私とほぼ同じ体格の女性の遺体とすり替えて私を連れ出した。救出された後、体の治療は遅れ、赤ちゃんは私のもとを去った。点滴を二十日ほど受け、ようやく少し力が戻った。手が無意識に平らな下腹部に触れるたび、そこに本来いるはずだった子を思い出す。そんな時、いろいろな感情が澱のように沈む私の心に波立ち、憎しみが喚き立てる。どうして?どうして何年も待ち望んだ私の子が簡単に傷つけられ、彼らの子があっという間に成長してしまったの?夢の中で、私はいつも目の前に広がる鮮やかな赤を見ている。そこでいつも飛び起きる。それは、まるで子が私に「どうして私を捨てるの?」と問うているようだ。母親は私が毎日沈んでいるのを見かね、有名な医者を片っ端から呼んだが、どの医者の結論も同じだ。心の病は心で癒さねば、と。母親は、私が回復さえすれば何をしても支援すると言ってくれた。でも、私にはまだ何ができるというのか。毎日やることがなく、晴れた日は庭で日向ぼっこをし、雨の日はあずまやで雨宿りをするだけだ。人と話すのを好まず、他人の騒がしさを煩わしく思う。ただ、隣家の子どもたちが庭で遊んでいるときだけは、私はつい視線を追い、かすかな笑みを浮かべることがある。手が無意識に平らな下腹部に滑り、そこにかつて命が宿っていたことを思い出すと、胸が張り裂けるように痛む。突然、おもちゃのボールが私の足元に転がり、隣に住んでいる兄妹がぴょんぴょん跳ねながら
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第7話
再び文野市の地を踏みしめ、私は複雑な思いに胸が詰まった。少し聞き回ればすぐ分かることだ。継彦は日々、永遠に失った愛への悲しみに沈み、会社のことには心を向けず、怜ともすでに顔は合わせても心は離れている。私は思わず冷笑した。もし継彦が以前、もっと私に心を向けてくれていたら、遺体が私でないことに気づいたのだろう。もし彼にわずかでも良心が残っていたなら、私の哀れな子が血の塊でしかなかったはずがない。私は人を遣ってDNA鑑定書を継彦の書斎の机に置かせた。時間を考えれば、今ごろ彼はすでに目にしているはずだ。程なく、藤原家の灯りがすべて点いた。疑い深い継彦なら、自らDNA検査を行い、翼が彼の実子でないことを確認するに違いない。そもそも私が疑念を抱いたきっかけは、翼と怜があまりにも似ているのに、継彦に似た点がまったく見当たらないことだ。さらに、最近の怜のゴシップ報道が飛び交っているため、以前も彼女はひとりの男性に心を寄せていたわけではないと推測した。案の定、DNA検査の結果が私の推測を裏付けた。その時、怜は藤原家の庭で花を愛でながら、継彦がアカデミー賞のトロフィーを手渡すのを心待ちにしている。しかし、向かってくる継彦の一撃で地面に倒された。怜は訳が分からず起き上がり、文句を言おうとしたが、継彦に壁際に押さえつけられた。「アカデミー賞が欲しいのか?相続権が欲しいのか?お前、俺を馬鹿にしてるのか!今日こそ俺を騙した報いを思い知らせてやる!」執事はその言葉を聞き、翼を抱えて外に放り出した。「出て行け!」「継彦、どうしてこんなことを!」子どもの泣き声と女性の叫び声が入り混じる中、継彦は顔を上げて笑いながら涙を流し、口の中で私の名前をつぶやいている。なんて不吉だ。継彦は物を壊し始めた。リビングから、最後にはかつて大切にしていたシアタールームまで。ただひとつ踏み入れなかったのは、かつて私たちが寝起きした寝室だけだ。床にはあらゆるものの破片が散乱し、かつて清潔整頓されていた家は瞬く間に廃墟と化した。怜は彼の狂気を罵り、混乱に乗じて翼を抱えて逃げようとした。しかし怒りに燃える継彦に一気に引き戻され、二人がもみ合う間に怜は地面の雑物の山に頭をぶつけ、鋭い陶器の破片が額を突き刺すと、鮮血が再び藤原家を染めた。怜
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第8話
怜が死んだあと、継彦はそこから立ち直れず、藤原グループは文野市のビジネス界で危機的状況に陥った。それだけでは足りない。私は彼らの醜い素顔を世間の面前に曝してやるつもりだ。真実を知らない人々が怜の死を悲しむ中、複数のゴシップ記者が爆弾ニュースを流した。【著名女優の篠野怜は三角関係を承知で関係を持ち、息子を連れて名門の奥様に】【篠野怜、藤原継彦、因果応報】【篠野怜、惨死の真相】……すべてをつなぎ合わせると、ここ数日私が人を遣って撮影し記録させた真実になる。彼らが何を最も重んじているかを見定め、私はそれを奪ってやる。一夜にして怜の評判は一転し、彼女に関わった多くの人々が次々と彼女の人柄や礼儀のなさ、演技の拙さを暴露した。怜は芸能界の恥さらしと化した。藤原グループの株価も急落し、創業以来の最大危機に直面している。ネット民も警察も継彦を追い、だがどうしても見つからない。彼が「発狂した」と言う者もいれば、「死んだ」とささやく者もいる。私はただ空を見上げ、死んだあの子にこう言った。もう恐れることはない。私はあなたのために復讐を果たした、と。だが、文野市を離れ、飛行機に乗ろうとしたとき、私は誰かに手首をつかまれた。その感触に嫌な予感が走り、振り返ると継彦の顔がある。彼は私の口を押さえ、興奮したように一方的に私を空港の外へ連れ出した。汗が肌にまとわりつき、なんという不快だ。継彦の手には陶器の破片が握られており、それで私を脅している。私はそれが、私が割った花瓶の破片だと見て取った。私たちが一緒に作ったもので、私の名前のイニシャルが刻まれている。私は角を一瞥し、仕方なく彼について行くふりをした。「恵子、君が死んでないって分かってたんだ。あの日、家の前で君を見たんだ!なんで俺を騙した?なんでみんな俺を騙した!」継彦は痩せて頬がこけ、目は虚ろで、以前の魅力的な男というよりは、まるで路上生活者のようになっている。彼は必死に問い詰めるが、言葉が耳に入るような様子ではない。「だって私はあなたを恨んでいる!私はあなたが憎い!」そう言うと継彦の手の力が少し強くなったが、私は目を逸らさず一歩も退かなかった。私は続けて言った。「なんで私たちの子を助けてくれなかったの?なんで私に六年間も避妊の薬を飲ま
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第9話
継彦は信じられないという顔で目を見開いた。「俺を罠にかけるつもりだったのか?どうしてそんなことをするんだ?君はいつも一番俺を愛してくれていたじゃないか……」彼は襲いかかって私を押さえつけようとしたが、駆けつけた蓮と警察に一気に押さえつけられた。私はイヤホンと小型カメラを外して警察に渡し、二歩ほど彼に近づいて言った。「あなたが私の栄養剤を避妊の薬にすり替えたとき、いつかこうなる日が来ると想像すべきだったのよ。言っておくが、誰もあなたのことを愛してないわ!家の前で私を見たのが偶然だと本気で思ってるの?今こそ因果応報だ。地獄へ堕ちろ!」これは私の計画の一部だ。私は知っていた。継彦が、三年近く心を注ぎ育ててきた翼が自分の子でないと知れば、絶望して激昂するだろう、と。怒りの後、一瞬でも私たちにいた子供のことを思い出し、取り繕おうと必死になって過去に戻ろうとするはずだ。ちょうど警察が私に協力を求めてきたので、私は自分の計画をすべて話した。それで、私は車を降りて藤原家の別荘の外を少し歩いた。継彦が確実に見える場所を確かめつつ、歩いたのだ。証拠は決定的で、継彦に立ち直る余地は一切残されていない。彼の残りの人生は刑務所で過ごすことになるだろう。彼の母である美和は一夜にして白髪になり、ここ数日私のもとを何度も訪れたが門前払いをされ、それ以来来なくなった。藤原グループには社長がいなくなり、誰もが手を伸ばそうとし、内憂外患で瓦解していった。私は目をしばたたかせ、これで本当に全てが終わったのだ。半年が過ぎ、幾晩もの悪夢ののち、ようやく深く眠れる夜が来た。三年後。私と蓮との二歳の息子は可愛いレインコートと長靴を履いて外で水たまりを踏んではしゃぎ、片足を滑らせて小さな水たまりに座り込んだ。家政婦が抱き上げようとすると、私は手を振って制し、息子はふーっと言って自分で立ち上がり、私の腕に飛び込んで甘えて「ママ」と呼んだ。聞けば、文野市の藤原グループは完全に破産し、文野市の刑務所には精神を病んだ男が収監されているらしい。私はにやりと笑って気に留めず、息子を抱えて家に戻り、風呂に入れた。誰かの人生が完全に終わった一方、私たちの人生はまだまだこれからなのだ。
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