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第5話

Author: イレブン
「失せろ!」

浩平の目が、急に冷たくなった。その声は、心からの嫌悪に満ちている。

後ろにいた秘書が素早く前に出て、玲奈を引きはがした。

その力はとても強くて、玲奈が体勢を崩し、無様に床に倒れ込んだ。

会場は、どよめきに包まれた。

あまりに突然の出来事に、誰もが呆気にとられていた。

私も、呆然としてしまった。

これ……本当に、あの冷たくて理性的な浩平なの?

人前で取り乱したり、面倒ごとになったりするのが一番嫌いな人じゃなかったの?

浩平は周りの驚きを気にもせず、自分のジャケットを脱ぐと、近くのゴミ箱に捨てた。

そして、大股でこちらへ歩いてきて、私をぎゅっと腕の中に抱きしめた。

その動きはすごく自然で、手慣れていて、まるで、何千回も練習したみたいだ。

まさか……夜の浩平なの?

心臓が、ドキドキと高鳴る。

「この人は、俺の妻だ」

彼は顔を上げ、周りを見回した。

その目は、まるで獲物を守るオオカミみたいに鋭い。肌を刺すように冷たくて、殺気さえ感じる。

会場は、一瞬で静まり返った。

私は呆然と、浩平の胸に寄りかかっていた。

彼の力強い鼓動を感じる。いつものシダーウッドの香りに包まれて、すごく安心する。

今の言葉……

「俺の女に手出しするなんて。望月家を敵に回したいってか?」

あの言い方、独占欲、そして私を庇うところ……

夜の浩平だ。

でも、今はまだ昼間なのに。

それに、さっきは昼の浩平として私を守ってくれたのだ。

いったい、どうなってるの?

私ははっとして顔を上げ、目の前の男を見た。

彼も私を見下ろしていて、視線が絡み合う。

その深い瞳は、昼の浩平みたいに冷たくもないし、夜の浩平みたいに純粋でもない。

そこには、今まで見たこともない、複雑で苦しそうな感情が渦巻いていた。

まるで正反対の二つの感情が、必死にせめぎ合っているみたいだ。

彼は眉をきつく寄せて、おでこには汗が滲んでいた。顔色もなんだか青ざめている。

「浩平、あなたは……もしかして……」

私が言いかけると、彼はその言葉をさえぎった。

「大丈夫」

その声は少ししゃがれていて、よく聞かないとわからないくらい、震えていた。

「俺がそばにいるから」

浩平は私の手を取ると、くるりと背を向けた。周りの人たちの驚いた視線やひそひそ話なんて、まったく気にしていないみたい。

彼の歩くスピードはすごく速くて、私は小走りでついていくのがやっとだ。

握られた手には、まるで私が逃げだすのを怖がっているみたいに、ぎゅっと力が入っている。

その手のひらは汗でびっしょりで、かすかに震えているのがわかった。

この男は、もしかして……すごく緊張してる?

車に乗り込むと、浩平はやっと私の手を離した。

彼は運転席に寄りかかると、目を閉じて、はあはあと大きく息をついた。まるで、何か大変な戦いを終えた後のようだ。

その青白い横顔を見ていると、私の心は疑問と心配でいっぱいになった。

「大丈夫?」と私はそっと声をかけた。

浩平は何も答えずに、ただ首を横に振った。そして、エンジンをかけた。

車はスピードを上げて走り、窓の外の景色がどんどん後ろに流れていく。

車の中は、しんと静まり返っていた。

彼の引き締まった横顔を見て、何度も話しかけようとしたけど、何を言ったらいいのかわからなかった。

家に着くと、浩平は何も言わずに私の腕を引いて二階へ上がり、寝室にぐいっと押し込んだ。

バタン、と大きな音を立ててドアが閉められた。

何が起きたかわからないうちに、私はドアに強く押し付けられていた。

そして、彼の激しいキスが降ってきた。

夜の浩平みたいな、優しくて、機嫌をとるようなキスじゃない。

かといって、昼の浩平みたいに冷たいわけでもない。

それはまるで罰を与えるみたいに、狂おしくて、めちゃくちゃなキスだ。

まるで私を飲み込んでしまいそうな、すごい力だ。

突然のことにびっくりして、私は必死でもがいた。でも、浩平の腕にがっちり捕まって、全然動けない。

「浩平!あなたは、おかしいよ!」私はくぐもった声で叫んだ。

私の言葉にハッとしたのか、浩平の動きがぴたりと止まった。

彼が顔を上げた。充血した目で、私を睨みつけてくる。その目は、まるで鋭いナイフみたいだ。

彼は冷たく笑った。声は恐ろしいほどかすれている。「ああ、そうだよ。俺はおかしくなった!

おかしくなっちまったんだ。お前のことなんか、気にするなんて!

おかしくなったから、お前のせいで、あんな人前で取り乱したりするんだ!

柚、お前はいったい俺に何をした?」

浩平は骨が砕けてしまいそうなほど、強い力で私のあごを掴んだ。

痛くて、涙が出そうだ。

「あなたが何を言ってるのか、全然わからない!」

「わからない、だと?」

彼がぐっと顔を近づけてくる。熱い息が顔にかかる。

「じゃあ、これはなんだ?」

浩平は急に私を離すと、机の方へ歩いていった。そして、引き出しから写真の束を取り出すと、私の目の前に叩きつけた。

写真が、床一面に散らばる。

私は思わず目を落とし、その瞬間、言葉を失った。
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