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第4話

Penulis: イレブン
それから数日、夜の浩平はもう現れなかった。

書斎で寝るようになった。

私はなんだか、そんなことに慣れなかった。

あの人懐っこい男が耳もとで甘えてこないから、だだっ広い寝室はがらんとして寒々しかった。

眠れない夜が続いた。

頭の中では、ずっと彼との関係について考えていた。

でも、どう考えてみても、いい答えなんて見つからない。

気持ちがぐちゃぐちゃで、どんどん不安になっていく。

抑えきれないこの感情が、私たちの結婚生活を変なものに変えていく気がした。

そして私たち二人は、そんな変化を望んでいなかった。

いつからか、私たちは示し合わせたわけでもないのに、お互いを避けるようになった。

気持ちを整理する時間が必要だ。冷静にならなくちゃ。

それに、彼の顔を見たら、またくだらない期待をしてしまいそうで怖かった。

……

そんな日々は、望月グループの創立記念パーティーの日まで続いた。

望月グループの社長夫人として、私も出席しなければならなかった。

私は念入りに選んだシルバーのドレスに着替えた。メイクもばっちり決めて、「氷の王子様」みたいな夫とおしどり夫婦を演じる準備は万端だ。

会場へ向かう車の中で、浩平はずっと不機嫌そうな顔で、一言も口をきかなかった。

この重い空気を変えようと何度か話しかけようとしたけど、彼の冷たい視線に言葉を飲み込むしかなかった。

もういいや。私はただの飾り。それでいい。

パーティー会場はきらびやかで、たくさんの招待客で溢れかえっていた。

浩平が姿を見せた途端、会場中の視線が彼に集まった。

ビジネス世界の有名人や、着飾った令嬢たちが次々と彼を取り囲んで、お世辞を並べたてている。

そして私は、まるで透明人間みたいに、あっさりとその輪の外に置き去りにされた。

でも別に気にならない。むしろ好都合だ。私はそそくさと隅っこに移動して、シャンパン片手にその様子を眺めていた。

「あら、柚さんじゃない?どうして一人でこんな隅っこで飲んだくれてるの?」

耳に障る甲高い声が、背後から聞こえた。

振り返ると、知り合いの伊藤玲奈(いとう れな)だ。

夫のことをもう何年も追いかけてるくせに、まったく相手にされていない令嬢だ。

今日は真っ赤なベアトップのドレスを着て、派手なメイクをしている。私を見る目には、あからさまな嫉妬と軽蔑の色が浮かんでいた。

「苦労して浩平さんと結婚するなんて、あなたも大した玉の輿ね」

彼女は、ねちっこい言い方で続けた。「でも、あなたみたいに汚い手を使って成り上がった女なんて、浩平さんが本気で好きになるはずないけどね」

相手にするのも面倒で、私は背を向けてその場を離れようとした。

でも玲奈は、しつこく私の前に回り込んだ。

「なに?図星でしょ?やましいことがあるのね?」彼女は勝ち誇ったようにあごを上げた。「あなたみたいになりふり構わず男に媚びるような下品な女は、とっとと消えるべきなのよ!」

玲奈は、周りの人にわざと聞こえるような声で、意地悪く言った。

その瞬間、面白い見世物を見つけたという好奇の視線が、一斉に私に突き刺さった。

「伊藤さん」

私は冷たい目で彼女を見つめた。

「私と浩平は法律上の夫婦です。言葉には気をつけてくださいね。名誉毀損で訴えることになりますよ」

「名誉毀損?」

玲奈は、まるでとんでもない冗談でも聞いたかのように、大げさに笑い始めた。

「あなたが母親の治療費のために、お金目当てで浩平さんと結婚したことなんて、みんな知ってるわよ」

私の顔から、さっと血の気が引いた。

このことを、どうして彼女が知っているの?

私が驚いているのを見て、玲奈はもっと得意そうに笑みを浮かべた。

「私、なにか間違ったこと言ったかしら?」

彼女の言葉は、鋭いナイフみたいに、私の心にぐさりと突き刺さった。

この道を選んだときから、プライドなんて捨てたつもりだ。

ずっと、何でもないふりをして、必死に取り繕ってきた。

でも……

「あなたみたいな、金のためなら何でもする女なんて、マジで引くわ!」

こうしてメッキをはがされて、隠してきた醜い真実をみんなの前にさらけ出されると、自分が思っていたより、ずっと弱かったんだって、思い知らされた。

平気なわけ、ないじゃない……

私は怒りで体が震えて、思わず手を振り上げていた。玲奈を、叩こうとする。

でもその手は、途中で氷のように冷たい大きな手に、ぐっと掴まれた。

振り返ると、そこには浩平がいた。底の知れない、深い瞳で私を見ていた。

いつからそこにいたんだろう。

どこまで、聞いていたんだろう。

私はわからない。

ただ、彼が唇をきつく結んで、恐ろしいほど険しい顔をしているのだけが見えた。

玲奈は浩平の姿を捉えた瞬間、さっと表情を変えた。そして、いかにも可哀そうに、彼の胸に飛び込んだ。

「浩平さん、やっと来てくれた!この人が、私を殴ろうとしたの!」

私は鼻で笑って、浩平がどう対処するか見物することにした。

いつもの冷たい彼なら、玲奈を突き放すはずだ。そして「くだらない」と一言吐き捨てて、この茶番を終わらせるに違いない。

でも、浩平はそうしなかった。

彼は胸に飛び込んできた玲奈には触れず、静かに私を見ていた。その目つきはとても複雑で、私の心をかき乱した。

周りのひそひそ話が、だんだん大きくなっていく。

「やっぱりね。望月社長が、あんな女を本気で相手にするわけないわ」

「ちっ、結局、金目当てかよ。厚かましい奴だな」

「伊藤さんと望月社長のほうがお似合いよね」

耳障りな言葉が、針のように耳に突き刺さる。

まるで裸にされて舞台に立たされたピエロのように、大勢の人々の視線と嘲笑を浴びているような気がした。

私がもう我慢できなくなりそうになった時、浩平は、突然口を開いた。

その声は低かったけれど、誰も逆らえないようなすごみがあった。

「どけ!」

玲奈は凍り付いて、信じられないという顔で彼を見つめた。

「浩平さん……いま、私に……どけって?」
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