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第112話

Auteur: フカモリ
天音の足について話している間も、智昭は一度も養子という言葉を口にしなかった。

説明を聞き終え、真琴は尋ねた。

「手術すれば、完全に治るんですか?」

「ああ、完治する。後遺症もないそうだ」

「それは良かったです」

車内では、それきり天音のことや仕事の話が続いた。

夜九時。車が芦原ヒルズの別荘の前に滑り込む。真琴は礼を言って車を降りた。智昭は最初から最後まで信行のことには触れず、安っぽい慰めの言葉もかけなかった。

彼はそういう気遣いができない男だし、そもそも仕事とプライベートを徹底的に区別しているだけだ。

智昭の車が遠ざかるのを見送ってから、真琴は家に入った。。

……

時を同じくして、病院の病室。

各種検査を終え、心臓に異常はなく拒絶反応もないという医師の言葉を聞いて、信行はようやく安堵の息を吐いた。

ベッドの上で、由美もようやく緊張を解いた信行を見てほっとし、笑って言った。

「だから大丈夫だって言ったじゃない。自分の体のことは、私が一番よく分かってるわ」

ベッドの脇に立ち、両手をポケットに入れたまま、信行は淡々と告げる。

「これからは、ちゃんと休めよ」

「分かってるわよ」

明るく返事をしたが、由美の顔から笑顔がゆっくりと消え、信行を見上げた。

信行は何も聞かず、ただ腕時計に目を落としただけ。それを見て、由美は静かに言った。

「ねえ信行。さっき病院で、真琴ちゃんを見たわ」

信行が口を開くより早く、畳みかける。

「エレベーターが閉まる時に見えたの。高瀬社長と一緒だった。あの二人、なんだか……」

そこまで言いかけて、由美は言葉を止める。

だが、信行は両手をポケットに入れたまま、視線を落とし、顔色一つ変えずに無表情で言った。

「帰る。早く寝ろ」

由美は背筋を伸ばし、両手をベッドについた。

「信行……残ってくれないの?」

「ここには医者も看護師もいる。大丈夫だ」

淡々と言い放つと、名残惜しそうな由美の視線も気にせず、医者や看護師に頼んで病室を出て、車で帰った。

六月の夜風は、すでに湿り気を帯びて蒸し暑い。しばらく窓を開けて熱風に当たっていたが、また窓を閉めた。

家に着いた時、舞子たちはすでに休んでいた。

寝室のドアを開けると、デスクの前で、真琴が眼鏡をかけてパソコンを凝視しているのが見えた。時折、手元のメモに何かを書
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