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第7話

Auteur: 流星
翌朝、大地が甘えるように凛音の胸に飛び込んできた。

「ママ、幼稚園で研修旅行があるんだって。保護者の同伴が必要なんだけど、パパと一緒に行ってもいい?」

これが、夕子の言っていた補償なのだろうか。

凛音は腕の中の息子を見下ろした。彼は無邪気に話しかけながら、こっそり夕子に向かって変顔をしている。

話し終えると、大地は親しげに彼女の頬に顔を擦りつけてきた。

凛音は彼の顔を両手で優しくなぞる。この子が、自分の息子だ。口元こそ父親に似ているが、その他はすべて彼女にそっくりだった。

もし風馬の浮気が刺激を求めた結果だとしたらでは、大地はどうして?

彼女は何も見えなかった。だからこそ、産婦人科医の説明一つひとつに耳を澄まし、どんな顔をして生まれてくるのかを想像していた。

見えない分、妊娠中は誰よりも慎重にならざるを得なかった。万一の事故を避けるため、凛音は尊厳さえ捨て、トイレに行くときですら付き添いをつけていた。

あらゆることを我慢して、十ヶ月かけてようやく産んだ子が、自分の目の前で愛人を「ママ」と呼ぶなんて。

もし彼の顔が自分に似ていなければ、誰かと取り違えられたのではと疑っていただろう。

ようやく凛音の沈黙に気づいた大地が、彼女を見上げた。

「ママ?」

風馬も横から口を挟む。「自らの足で各地を旅行したほうがいい。幼稚園の行事で他の親子も参加するから、君が目が不自由じゃなかったら、一緒に行きたかったんだけど」

彼らは凛音が拒めない理由をうまく選んでいる。風馬はもう自信たっぷりに秘書にチケットの手配を指示している。

いわゆる「意見を聞く」など、単なる知らせに過ぎなかった。

凛音は旅行先を見た。それは、視力を失う前にずっと憧れていたヨーロッパの町だった。

「いいわ、行ってきて」

出発前、風馬は家中の家政婦たちを集め、凛音の世話について一つ一つ細かく指示した。

「寝る前に、必ず水を枕元に置いて。夜に喉が渇かないようにね。

毎日、庭を一緒に歩かせて。運動になるから。

ブルーベリーは必ず食べさせて。フォークを使わせると危ないから」

風馬はまるで百億円規模の契約を交わすかのように、30分もかけて細かく指示を出し続けた。

最後に彼は凛音に軽くキスをした。「俺と大地、行ってくる。何かあったらすぐ連絡して。すぐに戻るから。

研修が終わったら、すぐ目の治療に付き添うよ」

大地も手を握りしめてくる。「ママ、おみやげ買ってくるからね」

凛音は窓際に立ち、風馬が夕子を抱き、大地の手を引いているのを見つめた。それはまさに幸せな三人家族のようだった。

彼女は家政婦が向けてくる哀れみの視線を無視し、部屋へ戻る。

彼らは外でよほど楽しんでいるようだった。

以前なら、仕事中でも一日に十回は電話をしてきた風馬が、今回は一度も連絡をよこさない。

大地も、すっかり母親の存在など忘れてしまったのだろう。

代わりに、夕子からは一日たくさんのメッセージが来る。

【今日は教会で、神父の前で風馬とキスしたの。彼、愛してるって言ってくれた】

【あなたの息子、外ではずっと私をママって呼んでるの。ホテルのスタッフも、私たちが理想の家族だって言ってくれるわ】

【もう妊娠してるのに、風馬ったら我慢してくれないの。コンドームが切れて、また大量に買いに出かけたのよ】

どの言葉も、風馬がどれほど自分を愛しているかを誇示するものばかり。

だが、凛音の心は微動だにしなかった。

彼女は待っている。約束の日が来るのを。

もうすぐだ。
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