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第12話

Author: もう頑張れない
晴美は実験をしている手を止めた。

彼女は恒志を無視できても、木村先生を無視できなかった。

彼女は振り返って木村先生を見つめた。

「先生、彼には会いたくありません」

木村先生は顔を上げて晴美に窓の外を見るよう合図した。

雪が一面に降る中、見覚えのある背中が立っていた。

「彼を説得できるなら、とっくに帰っているはずよ。

彼はただあなたに会いたいと言っているので、あなたの意見を聞きに来た」

その時、晴美のスマホが鳴った。

警備員からの電話だ。

「水村先生、お探しです。彼はあなたの夫だと言っています」

晴美は落ち着いて答え、感情の欠片も見せなかった。

「彼に帰らせてください。私は結婚していませんし、彼とは関係ありません」

彼女は窓辺に立ち、入口に立つ恒志を見た。風雪の中で、コートはすでに濡れていて、震えが止まらなかった。

遅れてきた愛情なんて雑草よりも価値がない。

今のこの偽りの愛情は、一体誰に見せているのだろうか。

恒志は数日間入口に立ち続けたが、晴美は現れなかった。

晴美はまだ怒っているだけで、もう少し頑張れば、きっと許してくれると、彼は自分に言い聞かせていた。

まもなく、チームに休暇が訪れた。

翔は晴美の手を自分のポケットに入れ、二人で近くの通りに鍋を食べに行く計画を立てた。

晴美は恒志がもう諦めていると思っていた。なぜなら琴星の方が彼を必要としているからだ。

しかし近くにいた恒志は、眉をひそめ、ポケットに入れた両手を握りしめていた。

晴美は無意識に振り返り、彼の姿を見た。

翔は本能的に彼女を後ろにかばった。

恒志は歩み寄った。

「彼のために、婚約破棄したか?」

「あなたはもう琴星と結婚しているはずでしょ?どうしてここに?」

恒志はこの数日の疲れを隠せず、感情は爆発寸前だった。

「晴美!俺が結婚したいのはずっとお前だけだったんだ!」

晴美は冷笑した。

「あの結婚式で、私を置き去りにして琴星のところへ走った時点で、もう私たちの縁は尽きたのよ」

恒志は弁解しようとしたが、その視線は二人が握る手に止まった。

「だから、お前は彼と一緒になったのか?それが何だかわかってるか?それは裏切りだ!」

理不尽な非難に晴美の心に波紋が広がった。

彼は相変わらずで、彼女が傷つくことなど考えていなかった。

翔は反論しようと
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