「木村先生、研学の交流視察の件ですが、参加させてください」水村晴美(みずむら はるみ)は頭の飾りやイヤリングを苦労して外しながら、電話の向こうの木村先生の安堵した吐息を耳にした。「晴美、参加してくれて本当にうれしいよ。でも本当にいいの?今回行ったら、もう京市には簡単に戻れない。確かにこの枠は貴重だけど、君は新婚でしょ?大丈夫なの?」「お気遣いありがとうございます、木村先生。ちゃんと考えて決めました。半月後なら、大丈夫です。手続きもきちんと引き継ぎますので、そのとき合流しましょう」電話を切ると、彼女は鏡の中の自分を見つめ、少し動揺していた。ついさっきの結婚式でのことを思い出した。「恒志!琴星さんが自害した!」晴美に指輪をはめようとしていた米村恒志(よねむら ひさし)は手を止め、すぐに背を向けてステージから駆け下りた。新婦のことを全く気にせず、彼は介添人のスマホを手に取り、必死に画面を見ていた。一緒に立ち上がったのは晴美の両親もだった。彼らも焦って恒志の手元のスマホを覗き込み、柳本琴星(やなぎもと ことせ)の様子を確認しようとしていた。バイオリンとピアノの演奏はぴたりと止まり、会場ではざわめきと噂話が飛び交った。「琴星はどこにいる?」恒志は介添人の腕を掴み、切羽詰まった声で問い詰めた。介添人が小声で答えた。それを聞くと、恒志はすぐに外に出ようとし、晴美が慌てて彼の腕を掴んだ。「恒志、これで今月8回目よ?今日は私たちの結婚式なのに、それでも行くつもりなの?」恒志は晴美の手を振り払った。「たとえわずかでも危険があるなら、俺は行く。命が関わってるんだ。お前はどうしてそんなに冷たいんだ?」両親も口を挟んだ。「晴美、結婚式はまたできるけど、琴星に何かあったら、取り返しがつかないよ」結婚式はまたできる?晴美の心は少し崩れかけていた。一生に一度の結婚式だ。「じゃあ私が結婚するたびに、あの子が騒げば、全部中止にするの?」「もういい加減にしろ!」恒志は怒りを露わにし、目は血走っていた。晴美の目の光は次第に消えていった。「恒志、もし今日あなたが行くなら、もう別れよう」恒志は彼女の手を再び振りほどき、叫んだ。「お前はどうしてこんなに思いやりがないんだ!本来なら、今日ここに立って
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