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第102話

Auteur: 月影
乃亜はにっこりと笑って、「うん」と答えた。

おじい様はこれでようやく満足し、病室を出て行った。

おじい様は凌央がどう振る舞おうと気にしなかった。ただ、乃亜が元気でいることが大事だった。

おじい様が病室を出た後、美咲は急いで凌央に目で合図を送った。「凌央、出て行って。乃亜、私たち姉妹で少し話しましょう」

凌央が何か言おうとした瞬間乃亜がそれを遮った。「出て行かなくていいわ、証人になって」

美咲は腹黒いため、「謝られていない」などと言いかねない。そうなれは、また面倒臭いことになる。だから、乃亜は凌央に居て欲しかった。

凌央の黒い瞳が乃亜に向けられた。

この女、どういうつもりだ?

乃亜は髪を耳の後ろにかけ、優雅に歩いて美咲のベッドに近づき、見下ろすようにして言った。「ごめんなさい」

彼女は最初、この言葉を言うのは難しいと思っていたが、実際に言ってみればそれほど難しくはなかった。

口を開けば、すぐ終わったのに。

美咲が少し顔を上げた。顔には涙痕が残っており、少し悲しげに見えた。「乃亜、どうして私を傷つけたの?そんなに私が憎かったの?」

乃亜が謝ったことで、事実上、彼女が罪を認めたことになる。美咲の問いも当然だった。

乃亜は無意識に背筋を伸ばし、美しいアーモンドアイで凌央を見て、「謝ったから、これでいいでしょ?もう出ていっていい?」と聞いた。

彼女はただ謝りに来ただけで、美咲の質問に答える義理はない。

ましてや、彼女はこの二つの質問の意図を誰よりもよく理解していた。

証拠を手に入れてから美咲にきちんと清算する。

美咲は乃亜があまりにも堂々としていて、何も恐れていない様子に心底憎たらしさを感じた。

乃亜は何も後悔していないし、堂々としている!

「乃亜、最近凌央は私によく付き添ってくれてるじゃない。あなたはそのことで気を悪くしてるかもしれないけど、私は妊娠してからずっと体調がすぐれないの。それに、そばに居てくれるのは凌央だけなの......」

美咲がここまで言ったところで、乃亜が言葉を遮った。「いいよ、もう言わなくていい。全部わかってるわ」

凌央は気づいていなかったが、美咲のその茶番じみた言い回しは乃亜にとってもううんざりだった。

彼女は昔、凌央のことが愛していたが、今ではすっかり失望し、離婚を決意している。だから、もう凌央のことなど気
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