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第259話
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永遠の毒薬 第322話
「乃亜、こんなことを言うのは違うとは分かっている。しかし、わしももう歳だし、体も思うようにいかない。もしかしたら、いつかの日寝ていたら、もう目を覚まさないかもしれない」 祖父はそう言うと、目に涙が浮かんでいた。 乃亜は胸が痛んだ。無意識に手に持った箱をぎゅっと握りしめる。「おじい様、そんなこと言わないでください！おじい様は長生きするに決まってます！」 祖父は微笑みながら言った。「この年まで生きてきたから、生死なんてもうどうでもいい。もしわしが先に行ったとしても、お前は悲しまなくていい。ちゃんと自分の人生を生きなさい」 祖父は乃亜に対して、多くの負い目を感じていた。それをどう償えばいいのか分からない。 だから、せめてこれからの人生では乃亜が愛されて幸せを感じてくれたらと思っていた。 乃亜は祖父の笑顔を見つめ、胸に不安がよぎった。まるで、後悔のようなものを伝えようとしているかのようだった。 「おじい様......」 乃亜が言いかけたその時、携帯が鳴った。 彼女は言葉を飲み込み、電話を取った。 「乃亜、どこにいるの？迎えに行こうか？」 拓海の声が、春の風のように心に温かく響いた。 「自分で車を運転して来たから、大丈夫。でも、ありがとう」 電話の向こうで、拓海は少し笑ったようだった。 「気にしないで！じゃあ、邪魔しないようにするよ。明日また連絡するよ」 実際には拓海は24時間乃亜と一緒にいたいと思っている。 以前、乃亜が離婚していなかった時は、ただ心の中でその願いを抱くだけだった。 しかし今は乃亜が離婚したから、少し希望を持てるようになった。 でも、これからはしっかり努力しなければならない。 乃亜は「うん」と答えて、電話を切った。 拓海は子供の頃から乃亜にとても親切で、今さら距離を取る理由もなかった。 「そうだ、乃亜。前に言ったけど、わしの養子にならないか？」 祖父は、乃亜が凌央に特別な感情を持っていることを感じていたが、それをまだ知らない。 彼は乃亜を自分の側に置きたかった。それは、凌央が自分の気持ちに気づくためのチャンスを与えたかったからだ。 「私たちがどんな関係になっても、私はおじい様を愛していますよ！」 乃亜は
永遠の毒薬 第321話
衣服を試着しては次々に捨てるうちに、時間は静かに流れていった。しかし、美咲の心の中には、これまで感じたことのない充実感が満ちていた。 今、彼女は凌央に会う。 どうしても、焦る！書斎の中では、薄暗い灯りが古風な家具に影を落とし、空気には重い歴史の香りが漂っていた。 乃亜は大きなデスクの前に立ち、無意識に手を組み合わせていた。その目は不安と緊張でいっぱいだった。 祖父はゆっくり立ち上がり、背後にある古いキャビネットから精巧な小箱を取り出した。その箱は、淡い銅は緑に覆われ、縁には細かい蓮の花が彫られていた。まるで、長い年月を経てきた物語を語るかのようだった。 祖父はその箱を乃亜の震える手のひらに優しく置いた。その手は、年齢を感じさせないほど力強く、重みを感じさせた。 祖父は軽く咳払いをし、静かに話し始めた。「これは凌央の母親が遺したものだ。家にも、凌央にも残された最後の品だ。お前にこれを託すのは、しっかりと凌央のために保管してほしいからだ。そして......母親の死因を調べてほしい」 その声は低く、響くような音で、乃亜の胸に重く響いた。 乃亜は手に持った箱をじっと見つめながら、心の中に湧き上がる感情を抑えきれなかった。顔を上げると、祖父に不安と疑念を含んだ目で尋ねた。「どうして......私に？」 その声はわずかに震えていた。自分がこの重荷を背負うことができるのか、信じられなかった。 これは、凌央の母親に関する大切なことだ！ 祖父は深いため息をつき、目を遠くに向けた。しばしの静寂の後、封印された過去の物語が語られた。 祖父は、凌央の母親がどれほど温かく、強い女性だったかを語り始めた。多くの年月を経て、彼女が凌央の父親と出会い、苦しい時期を共に過ごした話が続いた。運命に翻弄されながらも、彼女は愛を信じて生きていた。 その話を聞いて、乃亜は物語の中に引き込まれていった。まるで目の前でその場面が再現されるかのように感じた。 そして、凌央の母親が命を落としたあの夜の話になると、祖父の声はさらに低く、重いものを感じさせた。 その夜、嵐の中で起きた出来事、そしてその後続いた無限の追跡と絶望。それを聞くうちに、乃亜の心は凍りつくようだった。 乃亜は、震える手でその箱を握りしめ
永遠の毒薬 第320話
祖父の声を聞いて、乃亜は一瞬固まった。しかしすぐにその意味に気づき、顔を赤くしながらテーブルの下を見た。 祖父の足を踏んでしまった！ さっき怒りでどこを踏んだか気にしていなかったから、無意識に踏んでしまったのだ。 「おじい様、すみません！」乃亜は恥ずかしそうに何度も謝った。 「全部お前のせいだ！ふん！」 祖父はすぐに状況を理解した。若いころのことを思い出しつつも、二人のことよくわかっているから、凌央に向かって怒りをぶつけた。 「おじい様、贔屓しすぎです！」 凌央は不満そうに言った。 祖父は昔から乃亜との仲を取り持とうとしていたのに、今日は一言も言わない！ 「さっさと食事を続けろ！」 祖父は二人を見ながらため息をつき、言った。 祖父は乃亜を睨んだが、乃亜はその視線に気づかず、黙々と食べ続けた。 「お前もだ、食べろ！」 祖父は凌央に再び言った。 凌央は仕方なく食べ始めた。 食事が終わりに近づくと、テーブルの上の食器が軽く触れ合い、澄んだ音が響いた。 祖父は乃亜をしばらく見つめ、期待と観察のまなざしを送った。その後、ゆっくり立ち上がり、乃亜の肩を軽く叩いて言った。 「乃亜、書斎に来なさい。話がある」 二人は上の階へと向かった。 凌央が立ち上がろうとしたその時、携帯の音が鳴った。眉をひそめながら、ポケットから携帯を取り出すと、画面に「美咲」の名前が表示されていた。 少し考えた後、凌央は電話を取った。 すぐに、美咲の泣き声が聞こえ、後悔と無力感を感じさせる声で言った。 「凌央、ごめんなさい......ライブ中にあんなことを言ってしまって、結果を考えずに話して。本当にごめん......」 彼女の涙声に、心からの謝罪が伝わってきた。 凌央はその場で立ち止まり、無意識に携帯を握りしめながら、黒い瞳で二階の書斎の扉を見つめた。胸の中は複雑な感情でいっぱいだった。 深く息をつき、冷静に話すように努めた。 「美咲、謝罪だけでは解決しないこともある。これが最初で最後だと思ってほしい」 電話を切ると、携帯をしっかり握りしめた。顔は冷たく、表情は硬かった。 ライブの件については何も知らないが、必ず山本に調べさせるつもりだ。
永遠の毒薬 第319話
「1%の創世グループの株を乃亜に渡したんだから、少し世話をしても問題ないでしょう？」 凌央は当然のように言った。 お金があれば何でもできると言うじゃないか。 乃亜が金を受け取ったのなら、当然その分何かしないと！ 「彼女に株を渡して、なにかしてもらおうとは思っていない！」 祖父は思わず凌央に手をあげたくなった。 前回は軽く済ませたが、次回はもっと厳しくしてやろう。 乃亜は凌央を見ながら、軽く微笑んだ。 「もう私たち離婚したのよ。だから貴方は好きな人を家に迎えて、おじい様の世話でもしてもらったらどう？」 以前、凌央と離婚を考えたときは、まるで世界が崩れるような気がした。 でも今、実際に離婚してみると、悲しみを感じることはなく、むしろ凌央をからかっている自分に気づいた。 愛していないと、こんなにも......平穏でいられるんだと実感した。 凌央の顔色が急に暗くなった。 「離婚したいって言ったのはお前だろ！別の男と浮気してたのもお前だ！今、お前が責めるなんて、乃亜、お前、本当にやるな！」 「もう食べないで、さっさと帰れ！これ以上話したら、誰が食事を続けられるんだ！」 祖父は顔を真っ青にしながら怒鳴った。 自分が間違えて家を壊しておいて、それを乃亜にすべて押し付けるなんて、本当にバカげている！ 乃亜は冷笑しながら言った。 「じゃあ、美咲が妊娠してるってことについてはどう説明するのかしら？」 この結婚が終わった理由、彼の浮気が原因じゃないのか？ どうしてまだ私を責めるのか！ 「美咲のことを引き合いに出すな！」 凌央は不快そうに顔をしかめた。 どうしてこの女は、いつも美咲の話を持ち出すんだ！ 祖父は冷ややかに笑いながら言った。 「乃亜に美咲の話をさせなければ、わしだってお前と乃亜の話をするつもりはなかった。でも、もし美咲と結婚するなら、わしは死んでやるぞ！」 凌央は眉をひそめ、うろたえた。 「俺が美咲と結婚すると言ったか？」 自分と美咲には何も関係がないのに、なぜそんなことを言われるのか！ 「お前は言ってないかもしれないが、やってることがそれだ！」 祖父は力強く言った。 「もうお前の面倒な話はやめ
永遠の毒薬 第318話
乃亜の歯を食いしばった顔が凌央を楽しませていた。彼は唇の端にさらなる笑みを浮かべて指先で乃亜の太ももに円を描くように触れながら、低い声で言った。 「久遠さん、そんなに見つめてどうした？俺のこと、かっこいいと思ってるのか？」 その言葉にはかなりの厚かましさが感じられた。 乃亜は歯をぎりぎりと磨きながら、凌央の手を掴んで思い切りつねった。 もう元夫と元妻の関係だというのに、いまだにこうしてからかうなんて。どうして凌央がこんなに無神経な男だと気づかなかったのだろう！ 凌央は目を細めた。 この女、力が強すぎる...... 痛い...... しかし痛いのは痛いが、手を引くことはしなかった。 その時、祖父がスープを乃亜の前に置きながら、彼女の顔が怒って赤くなっているのを見て、思わず凌央を睨んだ。 「さっさと食べて、帰れ！ここで邪魔しないでくれ！」 祖父はただ乃亜と食事をしてゆっくり話がしたかっただけで、なぜ凌央が突然現れたのか、理解できなかった。 あれだけ乃亜を傷つけた凌央をかばうつもりはなかった。 「おじい様、俺こそあなたの実の孫です！どうして他人に手を貸すのですか！」 凌央は言いながら、手と足を動かして乃亜をからかい続けた。 以前、乃亜が目の前にいる時は面白くなかったし、むしろ邪魔だと思っていた。 でも今日は一日家にいて、家が静かすぎた。そしてつい祖父に会いに来て、乃亜を説得しようとしたのだ。 予期しないことに、ここで乃亜に会った。 祖父も本当に依怙贔屓している。 乃亜を食事に呼ぶのに、どうして俺を呼ばないんだ！ まったく、贔屓にもほどがある！ 乃亜は凌央が楽しそうにしているのを見て、歯を食いしばりながら心の中で思った。 さっきのつねりが足りなかったな。もう少し強くしてやろう！ 「わしにとって、乃亜こそが実の孫だ。お前は外の人間だ！」 祖父は箸で鶏肉を取って、乃亜の皿に入れながら、凌央に冷たく言った。 「黙ってろ！もし乃亜が怒って帰ったら、俺は寺に行って、死ぬまで戻らないぞ！」 祖父は自分の結婚生活のために三年間も心を痛め、そんな中で孫もできなかったことに怒りを感じていた。 結局、凌央のことには関わらないと決めた。
永遠の毒薬 第317話
雰囲気が一瞬で微妙で緊張したものに変わった。 凌央は眉を少し上げ、口元にさらに笑みを浮かべ、わざと乃亜に近づいた。低い声で言う。 「別れてからまだ数時間しか経ってないのに、もう気が変わったのか？戻りたくなったのか？蓮見夫人、あまりにも薄情すぎるな。こんなことが広まったら、誰がお前に訴訟を頼むんだ？」 その言葉は、鋭い視線となり、乃亜の胸を突き刺すようだった。 乃亜は無意識に拳を握りしめ、爪が手のひらに食い込む感覚を覚えた。しかしそれでも冷静さを保とうとした。 彼女は軽く体を横に向け、凌央との距離を避けて、冷徹で決然とした声で言った。 「誤解しないで、蓮見社長。私はあなたと再び関わりを持つつもりはない。ただ、おじい様と食事をするだけ。あなたに会ったのは偶然よ」 言い終わると、乃亜はその場にとどまらず、まっすぐ奥に向かって歩き出した。 凌央はその背中をじっと見つめながら、言葉では表せない感情を胸に抱えていた。 この予期しない再会は、まるで戦争のように二人の間に広がった。 最終的に誰が勝つのか、誰にも分からない。 「乃亜、お前がまだ来ないと、俺は人を派遣して迎えに行くよ！」 祖父の力強い声が耳に届き、胸の中の陰鬱な気分が吹き飛んだ。 乃亜は急いで祖父の前に立ち、袋を渡しながら微笑んだ。 「すみません、渋滞に巻き込まれて遅れました。それと、これ。膝を守るために買ってきたものです。膝がお悪いでしょう？寒くなったらきっと役立つと思いますよ！」 凌央は部屋に入ってきた。祖父が乃亜に優しく接しているのを見て、少し不快感を覚えた。 本当に誰が実の孫なのか、分からないものだ。 祖父はその視線を感じ取り、顔の笑顔がすぐに消えた。「お前、何しに帰ってきたんだ？」 嫌悪感を込めた目で凌央を見た。 「物を取りに来ただけです。あなたたちは食事してください」凌央はそう言って、すぐに食事場に行った。 「気にするな、あいつはすぐに機嫌が悪くなるんだ」祖父は小さく文句を言ってから、乃亜に笑いかけた。 乃亜はその仕草を見て、思わず微笑んだ。 「さあ、行こう。ご飯を食べよう」 祖父は乃亜の手を引き、食事の場所に案内した。 テーブルには美しく盛り付けられた
永遠の毒薬 第316話
「行けばわかるよ！絶対気に入るから！」拓海は自信たっぷりに言った。 彼は乃亜のことをよく理解している。何が好きで、何が嫌いかも知っている。 「じゃあ......」そう言いかけた時、電話が鳴った。画面に「蓮見家」の文字が表示されていた。 乃亜は軽くため息をつき、言った。「拓海さん、大丈夫？ちょっと電話を受けるね。後でかけ直してもいい？」 離婚したとはいえ、祖父からの電話は無視できない。もし何かあったら、心配だから。 「わかった、先に電話に出て。待ってるから」拓海は温和で、どんな時でも王子様のような雰囲気を持っている。 乃亜は画面をタッチし、すぐに電話を取った。 「乃亜、今夜は必ず帰って来るんだ。一緒に食事をしよう。市場で新鮮な食材を買ってきたんだ」祖父の声は、少し強いが優しさを感じさせた。 「おじい様、私はもう凌央と離婚しましたよ！」乃亜は、以前凌央が言っていたことを思い出してもし実家で彼に会ったらどうしようと不安になった。 凌央が、彼女が心変わりして戻ってくると思って、祖父のところに行くのではないかと心配だった。 「それは知っているよ。でも、それと一緒に食事することが何か関係あるのか？」祖父は怒らず、むしろ楽しそうに笑いながら言った。 心の中では、この食事の機会に乃亜に良い男性を紹介しようと考えているが、それはまだ言わない方がいいと思っていた。 乃亜は「わかりました」とだけ答え、電話を切った。気持ちは複雑だった。 もし凌央に会ったら、気まずくなりそうで不安だった。 考えを整理し、ようやく拓海にかけ直す。 「乃亜、行くかい？」 「ごめん、おじい様がご飯に招待してくれたから、今回は行けないわ」 「大丈夫、先に用事を片付けて。それが終わったら、また行こう！」拓海は理解があり、プレッシャーをかけてこない。 「拓海さん、ごめんね！」乃亜は謝った。 これは偶然の一致に過ぎなかった。 「気にしなくていいよ、謝らないで。先に行くべきことを片付けて」拓海は電話を切りながら、眉をひそめた。 心の中で、もし乃亜が祖父に言いくるめられて、凌央の元に戻る決断をするのではないかと心配していた。 拓海の悩みの中、時間は過ぎて夜
永遠の毒薬 第315話
次々に質問が飛び交う。 美咲の顔が一瞬で変わった。 その後、体が後ろに反り返りて意識を失って倒れた。 現場は一瞬で混乱に包まれた。 「救急車を呼んで！」 「配信を止めろ！」 乃亜は唇を引き締め、目の奥に軽い嘲笑を浮かべた。 美咲の手口は相変わらず拙い。 しばらくして、リモコンのボタンを強く押した。テレビの画面が急に暗くなり、部屋には静寂が広がった。 それでも、乃亜の目は画面に残った。色を失ったスクリーンに視線を固定し、頭の中に次々と映像が浮かび、複雑な感情が胸をよぎった。 美咲はスクリーンの中で、凌央との甘い関係を演じていた。その演技は見事で、思わず感心した。 頭が少し痛くなり、乃亜は額を押さえて目を閉じてうとうとと眠りに落ちた。 その時、奇妙で色彩豊かな夢に沈み込んだ。 夢の中では空は厚い雲に覆われて雷が轟く。不吉な予兆のように感じた。 突然、二人の幼い影が霧の中から現れる。服はぼろぼろで、顔には恐怖と無力感が浮かんでいる。 彼らは必死に乃亜の足にしがみつき、「お母さん」と泣きながら叫ぶ。 その目は、安全を求め、未知の危険を恐れていた。 乃亜はその顔をじっと見つめ、慎重に手を伸ばして子どもの顔に触れようとした。 しかし、手を伸ばした瞬間、子どもは心の底から叫んだ。 「お母さん、助けて！あの人たちが私たちを殺すの！」 その声は乃亜の耳に響き、鋭い刃のように神経を引き裂いた。 乃亜は必死に手を伸ばして子どもを慰めようとするが、自分の手も震えているのがわかる。 周囲の空気が凝り固まり、見えない圧力が胸を締め付ける。 その時、遠くから足音が近づき、低く冷徹な笑い声が夢の中に響く。 乃亜は急いで顔を上げるが、そこにはぼやけた黒い影しか見えない。 その影は闇の中でちらつきながら死神のように一歩一歩近づいてくる。 乃亜の心臓は激しく鼓動し、胸から飛び出しそうだ。 未知の危機感が体を凍りつかせる。 乃亜は必死に二人の子どもを抱きしめ、全力で守ろうとするも、その力はまるで別の世界から来たかのように強大で抗えない。 呼吸が荒くなり、視界がぼやけていく。やがて、すべてが闇に飲み込まれた。 乃亜は突然、目を覚ま
永遠の毒薬 第314話
「乃亜、安心して、すぐに商業施設のネクタイの販売記録を調べるから」 紗希の声は画面越しに響き、わずかな優しさと力強さを含んで乃亜の心に届いた。 乃亜は頷き、自然と口元が緩んだ。心の中で感謝し、少し安心した。 誰がネクタイを買ったかが分かれば、その先にいる黒幕を見つけ出せる。 「今日はもう疲れたでしょう。先に休んで、元気になったらまた話そうね！」 紗希は乃亜が疲れているのを見て、優しく言った。 「うん、休むわ」乃亜はそう言って、ビデオ通話を切った。 画面が暗くなるのを見つめながら、紗希は少し悩んだ後に彼の番号を押した。 「何か用か？」男性の冷たい声が響く。 紗希は一瞬驚き、彼が意図的に距離を取ろうとしているのを感じた。 「話せ」男性は少し苛立った様子で言った。 「お願いがあるんだけど」紗希はどう切り出せば協力してくれるか慎重に考えた。 「お前、言っただろ？『ベッドから降りたら他人のふりをしよう』って。今、他人にお願いするのか？」 男性の声には少し楽しげな感じが混じっていた。 紗希は少し困ったが、すぐに「じゃあ、失礼したわね」とだけ言って電話を切った。 直人ならすぐに商業施設の販売記録を調べることができるが、彼は手を貸してくれなかった。 そのため、紗希は自分で調べるしかなかった。 その頃、乃亜は携帯を置いた。紗希と話した後、少し気持ちが軽くなった。 彼女は深いため息をつき、スリッパを脱いでソファに横になった。 毛布を引き寄せてテレビをつけると、ちょうど美咲のインタビューが生中継されていた。 テレビに映る美咲は優しく微笑んでいて、幸せそうな顔をしていた。 乃亜は自然と毛布をぎゅっと抱きしめてソファの背もたれに頭を預け、アーモンドアイで画面をじっと見つめた。 美咲は確か、最近流産したばかりではなかったか？ まだ体調が戻っていないはずなのに、インタビューを受けるなんて本当に無理をしている。 でも、美咲は無理をしなくても良いのでは無いか。 今、乃亜と凌央が離婚したから、すぐに美咲は凌央と結婚することになるだろう。 凌央が美咲をどれほど大切に思っているかを考えれば、結婚後に美咲はすべてを手に入れ、何も不自由しな
