第464話

乃亜と凌央のことは、もうすっかり過去の話だ。彼女の心の中には、もう彼の存在はない。だから、凌央のために自分を守ろうとする気持ちなど、全くなかった。

それでも、拓海とはうまくいかない。

「どうしようか、他の医者を探してみたら？」乃亜のこの状態に、紗希もどうすればいいのか分からなかった。ただ、医者に頼るしかないと思っていた。

「もっと調べてみるよ、どこか治療できるところがないか」乃亜はいつもそう思っていた。拓海には申し訳なく思い、どうにか自分を治して、拓海との新しいスタートを切りたいと考えている。

でも、拓海のように、こんなに優しくて、心から愛してくれる人は他にいない。

「明日、ビジネスパーティーがあるから、その時に桜華市で一番の心理学者を探してみるね」紗希は乃亜が幸せになることを願って、できる限り手助けしたいと思っている。

拓海は、乃亜にずっと優しく接してきたし、彼の愛はずっと変わらない。

乃亜が拓海と一緒に最後まで歩んでいけば、きっと幸せになれると紗希は信じている。

「昔、あなたは凌央のことが嫌いだったよね？私たちの関係に反対していたくせに、今は拓海のことを応援してくれてる。あなたは拓海のこと認めてるのね？」乃亜は笑いながら、少しからかうように言った。

紗希は彼女に睨みをきかせた。「凌央は、あなたと一緒にいる時、いつも冷たかったじゃない。食事もあなたが世話して、彼はそれを当たり前だと思ってた。あなたが愛しているから。そんな男、どうして好きになれるの？」

凌央のことを思い出すと、紗希の心の中に怒りが湧いてきた。

そんな男に、乃亜がどれだけ尽くしていたのか。考えるだけで腹が立つ。

「でも、拓海は小さい頃からあなたを見守って、ずっと優しくしてくれてる。演技じゃない、本当の気持ちであなたに接している。あなたが抑うつ症状だった時、拓海は一緒にいて、治してくれた。そのことだけでも、拓海は本当に素敵な男だと思う」

紗希は、拓海がこんなに良くしてくれているのは、あなたに恋しているからよと言った。

彼女は思う。「もし凌央がそんな風に接してくれてたら......」

でも、残念ながら、彼との関わりは今後一生ないだろう。

紗希の言葉を聞いて、乃亜は昔のことを思い出した。

子供の頃、家で怒られるたびに、拓海のところに駆け込んでいた。

拓海は本当に優しかった