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第49話
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永遠の毒薬 第572話
だが、すぐにまた同じ番号から着信があった。裕之は顔をしかめ、苛立ちを隠さず電話を取った。「莉子、今俺仕事中だってのに、何のつもりだ！」すると、冷たい声が返ってきた。「莉子は今日、亀田病院で中絶手術を受ける。夫のサインが必要だ。今すぐ来い」それは直人だった。裕之は思わず声を荒げる。「は？俺は手ぇ出してねぇっての！妊娠なんて有り得ねぇだろ。署名が欲しいなら、そのガキの父親を連れてこい！」莉子は、母親に無理やり押しつけられた女だった。裕之は初めから、彼女を好きになったことなど一度もない。結婚してからの数年間、酔った勢いで暴力を振るうこともしばしば。手を上げるのも珍しくなかった。あれで渡辺家のお嬢様なのか、と思うほど、莉子はいつも怯えていた。殴られても家族には何も言わず、ひとりで黙って耐えるだけ。だから、余計に酷くなっていって、どんどん手がつけられなくなった。泣いて許しを乞う姿を見ると、妙な快感が湧いてくる。上流家庭の娘だって、俺の前じゃ地面に頭をつけて懇願する。それが、たまらなかった。「裕之、俺は莉子じゃねぇ。口の利き方に気をつけろ」直人の声が、さらに低くなる。「莉子は手術を受ける。今すぐ署名に来い。てめぇが安藤家の社長だろうが、関係ねぇ。舐めてるとどうなるか、身をもって教えてやる」それだけ言って、電話は一方的に切られた。裕之の目が細くなった。その目には、薄暗い光が宿っている。チッ、今回は兄貴にチクったのか。家に戻ったら、どうなるか思い知らせてやる。そう思いながらも、彼はデスクに戻って書類をまとめ、そのまま病院へ向かった。その頃、亀田病院の一室。莉子はベッドに横たわり、顔色は真っ白だった。昨夜、裕之に腹を蹴られ、夜中からずっと腹痛が続いていた。朝になって病院で検査を受けたところ、妊娠が判明した。子どもは、まだ守れる状態だった。けれど、もう無理だ。裕之との結婚生活は、すでに終わっている。この先を考えたとき、子どもを産む理由なんて、どこにも見当たらなかった。この三年間で、莉子はまるで別人になってしまった。明るくて、よく笑っていた自分は、もうどこにもいない。これ以上、裕之と関わるなんて、考えただけで吐き気がする。だから、決めた。
永遠の毒薬 第571話
乃亜は電話を取ると、すぐに裕之の冷たい声が聞こえた。「今すぐ契約書を持って、安藤グループに来てサインしろ！」その口調は強引で、拒絶の余地はなかった。乃亜は唇を噛みながら、昨日直人が言ったことを思い出した。少し冷たく答えた。「安藤社長、すみませんが、私たち天誠は安藤グループとの契約を結ぶつもりはない」昨日、裕之はわざと直樹と陽子を呼んだのは、彼にもっと選択肢があることを見せつけたかったからだ。しかし、桜華法律事務所では彼にとって最良の選択肢ではなかった。直樹と陽子は長年桜華法律事務所にいるが、特に目立つ存在ではない。今の桜華法律事務所は、乃亜にとって十分な対抗力を持つ弁護士がいない。そのような桜華法律事務所がどうして彼女と競えるのか？安藤グループとの契約を結ばないことで、確かに収入が減るかもしれないが、それほど大きな問題でもないと気づいた。以前は悩んでいたが、今では気にしなくなった。電話の向こうで一瞬の沈黙があった後、再び裕之の声が響いた。「乃亜、お前は天誠の小さな弁護士に過ぎない。俺の提案を拒否する権利はない！今すぐ上司に電話して、お前を解雇させてやるぞ！」乃亜はその言葉を聞いて、思わず笑った。「今すぐ上司に電話してみなさいよ」そう言って電話を切った。裕之は天誠の上司が誰かすら知らないくせに、どうしてそんなことを言って脅すことができるのか。本当におかしい。安藤グループのオフィスで、裕之は怒りに満ちた顔で電話をデスクに投げた。乃亜という女が、どうして彼と対立できるのか！彼女は本当に、自分が電話して解雇させられると思っているのか？秘書が部屋に入ってきて、彼の怒りを感じ取り、慌ててファイルをデスクに置いた後、彼の後ろに回って、首に手を回しながら囁いた。「誰があなたを怒らせたのですか？教えて、私が代わりに怒りを晴らしてあげますよ」裕之は彼女をデスクに座らせ、指を彼女の唇に当てて、軽く笑いながら言った。「どうやって助けてくれるの？」「あなたが求めるなら、何でもします」彼女の声は甘く、柔らかかった。裕之はその声に惹かれ、思わず息を吸い込んだ。その後......オフィスの温度が上がった。しばらくして、裕之は椅子に座り、煙草を吸いながら静かに考え込んだ。その瞬間、彼は喜びを感じること
永遠の毒薬 第570話
晴嵐は元気よく答えて、嬉しそうに走り出した。乃亜はその背中を見つめ、複雑な気持ちを抱えた。もし凌央が晴嵐を力づくで奪おうとしたら、彼女は本当に晴嵐を守りきれないかもしれない。桜華市で最も力を持つのは、やはり凌央だ。そのとき、拓海は晴嵐の開けたドアの音で目を覚ました。目を向けると、ドアの前で小さな影が動いていた。心が温かくなった。カーテンを開けると、小さな顔がすぐに明るく浮かび上がった。「晴嵐、こんなに早く起きたのか！」拓海は穏やかに声をかけた。「おはよう、パパ！」晴嵐は元気よく駆け寄り、小さな足で一生懸命に蹴りながら、大きなベッドに飛び乗り、拓海の腕の中に飛び込んだ。「パパは大きな怠け者だね、早く起きて！」拓海は手を伸ばして彼をくすぐった。「君こそ、大きな怠け者だ！」晴嵐はくすぐられて大笑いしながら、「パパが大きな怠け者だよ！」と言った。乃亜は洗面を終え、リビングに向かう途中、拓海の部屋から楽しげな笑い声が聞こえた。そのまま足を進め、ドアを開けると、二人が遊んでいる姿を見つけた。その光景を見て、胸が少し熱くなり、目が少し潤んだ。そのとき、拓海は乃亜に気づき、静かに小さな晴嵐に言った。「ママが来たよ、シーっ......」晴嵐はママが来たのを聞いて、急いでベッドから跳ね起き、走り去った。「僕は先に部屋に戻るね、じゃあ二人でお話ししてて」乃亜とすれ違うとき、晴嵐は足を止めず、ママが言った通り部屋に戻った。ママが言ってた通り、部屋に戻って顔を洗う。晴嵐は遊びに夢中で忘れていたけど、ママに怒られたくなかった。彼が急いで部屋に戻る姿を見て、乃亜は思わず笑みを浮かべた。どうしてこんなにママを怖がっているのか？拓海はベッドに寄りかかり、上半身をだらんとさらけ出して座った。朝の日差しがガラス越しに差し込み、その肌に優しく黄金色の輝きを与えていた。彼の胸は浅い呼吸と共に静かに上下し、引き締まった肌が長年の鍛錬で作り出した力強さと美しさを感じさせた。目の前の拓海はまるで神話に登場する戦神のようで、力強くて神秘的だった。その姿に心が震え、乃亜は思わず顔を赤らめた。部屋の中が急に静まり返った。拓海の熱い視線が乃亜の顔に落ち、その唇が軽く動いて、彼女に声をかけようとした。乃亜
永遠の毒薬 第569話
乃亜は一瞬戸惑った。「創世のネットワークがウイルスに攻撃されたってやつ？もしかして、君がやったの？」でも、処理しているとき、彼女はそれが晴嵐の仕業だとは気づかなかった。晴嵐は首を横に振った。「違うよ。あのとき、あの人と少し遊んでたんだ。でも、あの人、かなり強かったよ！もう少しで負けそうだった！」乃亜は軽く眉をひそめた。昨日の夜、処理しているとき、彼女も相手がかなりの実力者だと感じていた。「心配しなくていいよ、ママ。午後、学校が終わったら、その人について調べてみるよ。誰なのかきちんと確認するから！」晴嵐は自信満々に言った。「そのことはママが調べるから、君は大丈夫よ」乃亜は彼を優しく抱きしめて、小さな声で言った。晴嵐の顔から急に笑顔が消えた。「わかった」僕だってできるのに......不満げな晴嵐を見て、乃亜は言った。「そんなに不機嫌にならないで。さ、パパが起きてるか、隣の部屋を見てきて」乃亜は今、あることが心配だった。創世だけでなく、拓海の会社も狙われている可能性がある。もしかしたら、盛世も......その目的は何だろう？桜華市の支配を目指しているのか？考えてもわからないが、乃亜はそれ以上考えず、布団をめくり、晴嵐を抱き起こして座らせた。「ママ、今日は病院に行って、璃音を見に行きたいんだ。いいかな？」晴嵐は昨日届いたプリンセスドレスを持って、璃音に試着させたいと思っていた。「保育園終わったら行こう。それでいい？」乃亜は実は行きたくなかった。それは、凌央の娘だから、行けば彼と会うかもしれないからだ。凌央は晴嵐を奪おうとしている。彼と会いたくなかった。「ママ、実は璃音がすごく好きなんだ。彼女と一緒にいると、まるで本当の兄妹みたいだよ」晴嵐はそれが本当の気持ちだと言っていたが、自分でも驚いているようだった。乃亜は思わず笑って、彼の柔らかい顔をつねった。「君は本当に口が達者ね」晴嵐はため息をついて、「璃音をうちに呼んで、毎日一緒に学校に行って、帰ってきて、ご飯食べて寝ればいいのに」と言った。乃亜は、もし彼女が生きていたら、毎日晴嵐と一緒に過ごせて、きっと幸せだろうと思った。「ママ、本当に璃音をうちに呼べないの？」晴嵐は期待の眼差しで乃亜を見つめた。乃亜は少し迷った後、首を振った。「無
永遠の毒薬 第568話
「保育園に迎えに行ったとき、先生は何か言ってた？」「先生は何も言わなかったわ。子供を迎えた後、そのまま帰っただけ」「じゃあ、後で二人のベビーシッターに聞いてみるよ。今日、晴嵐に何か変わったことがあったか」「それはいいわ、わざわざ聞かなくても、明日の朝、直接彼に聞いてみるわ」乃亜は、ベビーシッターに聞くと逆に気を使わせると思ったので、そう言った。「うん、それがいいね。じゃあ、君は休んでて、僕は会社に行ってくる」拓海は乃亜の額に優しくキスをし、愛情を込めて微笑んだ。「運転気をつけてね」乃亜は少し不安そうに言った。「分かってるよ、じゃあお休み」拓海はそう言って、名残惜しそうに彼女から手を離した。「早く帰ってきてね」乃亜は心配そうに見送りながらも、何もできない自分にモヤモヤしていた。拓海は微笑んで振り返り、大きな足取りで外へ出て行った。ドアが閉まると、乃亜は浴室へ向かう。シャワーを浴びて出ると、携帯電話の画面が点滅していた。彼女は電話を手に取ると、見慣れない番号からだった。眉をひそめ、すぐに電話を取った。「直人だ。今、時間大丈夫か？話したいことがある。妹の離婚訴訟を頼みたい」直人ははっきりとした口調で言った。乃亜は少し驚いて、答えた。「妹さんが離婚を考えているの？」「はい」「今は家だから、明日彼女を事務所に来させて。詳しいことはその時に話すわ」乃亜は気を遣って、なぜ妹が離婚したいのか聞かなかった。離婚の理由なんて、だいたい予想がつくからだ。浮気やDV、または義母との関係が悪化して、夫婦の絆が壊れる......ただ、もし直人の妹の離婚を担当することになった場合、もし裕之が天誠との再契約を提案してきたら、それを断らなければならない。その損失は大きいから、慎重に考えなければならない。「実は彼女、裕之に殴られて今、病院にいる。もしよければ、今すぐ見に来てもらえるか？」直人の声には、抑えきれない怒りがにじみ出ていた。乃亜は少し驚いて、言葉を失った。裕之がDVを？そんなこと、全く予想していなかった。「心配しないで、弁護士費用はきちんと支払うよ」直人は乃亜が躊躇していると考え、すぐに保証した。乃亜は唇を少し噛み、ゆっくりと答えた。「もし彼女が離婚を決意しているのであれば、まず警察に通報して、警
永遠の毒薬 第567話
凌央の冷たい表情が少し和らいだ。「山本、今すぐその人に連絡して！すぐに来てもらえ！」山本は「わかりました」と答え、指定された番号に電話をかけ始めた。その間、乃亜の携帯電話も鳴り始めた。乃亜は目を開け、拓海の優しい視線と目が合う。少し驚いたが、すぐに反応した。「どうして私が寝ているのに起こしてくれなかったの？」「君がぐっすり寝ていたから、起こすのが可哀想で」拓海は穏やかに答えた。「電話を取らないと」乃亜は目をこすりながら、携帯電話を手に取った。「社長、創世のネットワークが攻撃されています。大金を払うから助けてほしいと頼まれました。どうしますか？」電話の向こうから興奮した声が聞こえる。「いくら？」「金額はお任せすると言っています」「じゃあ、20億円で」乃亜があっさりと20億円と言ったのを聞いて、拓海は思わず笑ってしまった。乃亜は電話を切ると、拓海が笑っているのを見て、少し顔が赤くなり、髪をかき上げながら言った。「何を笑ってるの？」「家に二人のハッカーがいることを忘れていたよ！今、田中グループのネットワークがダウンしてるんだ。もし時間があれば、手伝ってくれないか？報酬は20億円だよ」拓海は優しげに彼女を見つめ、穏やかな声で言った。「あなたの会社も攻撃を受けたの？」乃亜の表情が急に真剣になった。凌央のことで不機嫌だったので、わざと彼を困らせたことがあった。でも、拓海の会社はどうだろう？「さっきアシスタントから電話があって、社内のネットワークが未知のウイルスに攻撃されて、かなり厳しい状況だと言われたんだ。まずは確認してくれないか？」乃亜は真剣な顔で、「晴嵐を部屋に連れて行って、私は書斎で対応する」と言った。拓海はうなずき、乃亜が上の階に向かうのを見守った。その後、拓海は晴嵐を抱き、後を追った。しばらくして、木咲と琴子が部屋を出て、マットの上の物を片付けながら、小声で話していた。「今日のトレンドは、奥様が訴訟に勝った話ばかりよ。コメントを見たけど、すごいって言ってるわ！」「奥様は見た目が優しそうなのに、実は弁護士なんですね！」乃亜は下で二人が何を話しているか気にせず、書斎に戻ると、パソコンを開けた。20時間後、乃亜はパソコンを閉じ、深く息を吐きながら立ち上がり、伸びをした
