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第617話

Auteur: 雨の若君
それを見た瞬間、素羽の無表情だった顔に、ほんのわずかな変化が走った。

長いまつ毛がかすかに震え、彼女はゆっくりと視線を上げる。

「さっさと食え。あとで食器を下げに来る」

――早く読め。

そんな無言の合図だった。

看守が立ち去るのを確認すると、素羽はしゃがみ込み、床に落ちていたメモを拾い上げた。

食事を手に取ったものの、口をつけることはせず、先にメモを開く。

密かに手紙を寄こした相手は、なんと――幸雄だった。

静かな瞳に、わずかな波紋が広がる。

やはり幸雄も琴子と同じ考えだった。素羽を、この場所から遠ざけようとしている。

本当に、誰も彼も見事なくらい同じ結論にたどり着くものだ。

メモをしまい込むと、素羽の表情は再び何事もなかったかのような冷たさを取り戻し、味気ない夕食を機械のように口へ運び始めた。

志乃との交渉を終えた司野は、逸る気持ちを抑えきれず、その足で素羽のもとへ向かった。

「夕飯は食べたか?傷の手当はちゃんとしたか?」

どれだけ気遣う言葉を並べられても、素羽の心は一切動かなかった。

むしろ煩わしいだけで、その感情は隠すことなく表情に表れていた。

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    それを見た瞬間、素羽の無表情だった顔に、ほんのわずかな変化が走った。長いまつ毛がかすかに震え、彼女はゆっくりと視線を上げる。「さっさと食え。あとで食器を下げに来る」――早く読め。そんな無言の合図だった。看守が立ち去るのを確認すると、素羽はしゃがみ込み、床に落ちていたメモを拾い上げた。食事を手に取ったものの、口をつけることはせず、先にメモを開く。密かに手紙を寄こした相手は、なんと――幸雄だった。静かな瞳に、わずかな波紋が広がる。やはり幸雄も琴子と同じ考えだった。素羽を、この場所から遠ざけようとしている。本当に、誰も彼も見事なくらい同じ結論にたどり着くものだ。メモをしまい込むと、素羽の表情は再び何事もなかったかのような冷たさを取り戻し、味気ない夕食を機械のように口へ運び始めた。志乃との交渉を終えた司野は、逸る気持ちを抑えきれず、その足で素羽のもとへ向かった。「夕飯は食べたか?傷の手当はちゃんとしたか?」どれだけ気遣う言葉を並べられても、素羽の心は一切動かなかった。むしろ煩わしいだけで、その感情は隠すことなく表情に表れていた。その露骨な拒絶に司野は胸を痛めたが、すぐに気持ちを立て直す。嫌われるのも当然だ。彼女の心を、ここまで傷つけたのは他ならぬ自分なのだから。司野は机の上に置かれた彼女の手へ、そっと手を伸ばした。しかし、指先が触れる寸前、素羽は素早く手を引き、彼を避けた。宙をさまよう自分の手を見つめ、司野の表情に影が差す。それでも無理に笑みを作り、静かに言った。「もう少しだけ我慢してくれ。すぐにここから出してやる」素羽は淡々とした口調のまま問い返す。「用件は、それだけ?」「素羽。言ったはずだ。これからは俺がお前を守るって」もう二度と、あんな悪夢のような出来事は繰り返させない。だが、司野の必死な想いにも、素羽は何の興味も示さなかった。そのまま静かに立ち上がると、一度も振り返ることなく面会室を後にする。司野は去っていくその背中を見つめながら声をかけた。「素羽。明日、迎えに来る。待っていてくれ」返ってきたのは、一度も振り返ることのない冷たい背中だけだった。拘置所の外。岩治が車のドアを開け、司野は身をかがめて車内へ乗り込んだ。煙草に火をつけると、

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