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潮騒に消えた愛の言葉
潮騒に消えた愛の言葉
Auteur: カノン

第1話

Auteur: カノン
7歳の時、私は竹内豪(たけうち ごう)に拾われた。それからずっと、彼の影として生きてきた。

8歳で暗殺術を学び、15歳で豪の敵を潰した。大学入学共通テストの日には、犯人のアジトに一人で乗り込んで彼を救い出し、全身に17か所もの傷を負った。

その日から、豪は私をまるで宝物のように、大事にしてくれるようになった。

私が結婚できる年になるとすぐ、彼はすぐに結婚式を挙げた。そして、耳元でこう誓ってくれたんだ。「美希(みき)、永遠に君を愛するよ」って。

体中に残る醜い傷跡ごと、私は毎晩豪に抱きしめられた。彼は温かい唇で一つ一つの傷をなぞり、強く抱きしめながら、ささやいた。

「美希、君は誰よりも純粋だ。絶対に、俺のそばを離れないでくれ」

私はその言葉を、ずっと信じていた。

彼が外に囲っていた、「清らかな恋人」の存在を知ってしまうまでは。

豪は完璧に隠せていると思っていたみたい。でも、私が彼に内緒で大学に受かっていたなんて、夢にも思わなかったんだろう。

そして、豪が宝物のように大切にしているその女は、私のいちばんの親友だったんだ。

……

怪我をした足を引きずって大学に戻った日、私は盛大なプロポーズの場面にでくわした。

校門から寮へ続く道は、白いバラで埋め尽くされていた。真ん中には、まるで湖のきらめきを砕いたような青いカーペットが敷かれていた。

その女性は白いドレス姿でカーペットの先に立っていた。その姿は、まるで優雅な白鳥のようだった。

そして、その前で跪いているのは、海外へ出張だと言っていた、豪だった。

私はマスクで顔を隠して人ごみに紛れ、二人が抱き合ってキスをするのをただ見ていた。胸に氷を抱いているみたいに、骨の髄まで冷たかった。

昨日の夜まで「君の上で果てたい」と囁いていた人が、今は真剣な顔で他の女に「うん」と言ってくれと頼んでいる。

その時、やっと気づいた。豪は、私を表に出すつもりなんて全くなかったんだ。

私たちのデートはいつも夜中だったし、関係を公にしたこともなかった。

3年前、一度だけ彼から離れたことがある。竹内家や私たちの関係を知る人たちは、みんな口をそろえて言った。「大学も出ていない孤児が、海市の竹内家の御曹司にふさわしいわけがない」って。

でも豪は人脈をすべて使って、7日間も寝ずに私を探し続けて、ついに連れ戻した。

あの時の彼の顔は今でも覚えている。苦しみに満ちた、死んだような目で言った。「美希、俺を捨てて、どこへ逃げるつもりだ?」って。

豪は部下に命じて、彼自身の体を99回も鞭で打たせた。そして、私を見つめるその瞳には、光が宿っていた。

「美希、君を不安にさせた俺が悪い。罰を受けるべきだ」

血だらけになった豪の背中を見て、私は胸が張り裂けそうで、涙が止まらなかった。

その時、豪は私にW国の永住権と、プライベートジェットの航空機登録証明書をくれた。

「美希、俺はW国への入国を永久に禁止されているんだ。もし俺が君を裏切ったら、罰として、もう二度と君に会えなくなる」

それを受け取った瞬間、私は彼に強く引き寄せられ、まるで骨の髄まで溶け合わせるかのように、力いっぱい抱きしめられた。

「美希、俺は生涯、君にこれを使わせるようなことはしない」

なのに今、裏切りは明白な形で目の前に突きつけられた。

結局、馬鹿だったのはずっと私の方だった。

私はぼうぜんとしたまま、豪の仕事用の別荘まで歩いた。豪を問い詰める前に、中から彼の親友の木村悠斗(きむら ゆうと)の祝いの声が聞こえてきた。「豪さん、おめでとう。ついに美人を手に入れたな」

豪は酔っているようだったけど、その目は急に鋭くなった。

「このことは誰にも言うな。もし美希に知られたら……」

グラスがテーブルに強く叩きつけられ、悠斗は口をつぐんだ。でも、おそるおそる尋ねた。

「豪さん、お祖父様から結婚をかなり急かされているみたいだけど、美希さんと正式に入籍しては?」

全身の血が逆流するような感覚に襲われ、私は思わず息を止めた。

すると豪は口の端を吊り上げて言った。「祖父は千佳のことをとても気に入っていて、もう家宝まで渡したんだ」

私は呆然と立ち尽くした。耳鳴りが止まらなかった。

二人はもう入籍した?

じゃあ、私との結婚式は、一体なんだったの?

悠斗もきょとんとした。「じゃあ、美希さんはどうするんだ?」

豪はしばらくグラスを揺らしてから口を開いた。

「昔、美希、結婚したいって言った時、祖父に猛反対されたんだ。だから婚姻届は出さなかった」

彼は言った。「結婚式だけ挙げて、彼女を安心させるしかなかった。美希は気性が激しすぎるから、竹内家の嫁には向かない。俺が可愛がってやれば十分だろ」

悠斗の目に、複雑な色が浮かんだ。

「豪さん、美希さんは一筋縄ではいかない人だよ。もし彼女がこのことを知って……またいなくなってしまったら、どうするんだ?」

豪の漆黒な瞳が鋭く光った。「じゃあ、永遠に知らせなければいい。伊藤に伝えろ、美希をしっかり見張っておけと」

私は声もなく笑った。喉の奥が、苦さでいっぱいだった。

伊藤正人(いとう まさと)に何度も絡まれて怪我をしたのは、全部、豪の指示だったんだ。どうりで今日、大学へ向かう途中で正人が狂ったように私の邪魔をしてきたわけだ。彼を振り切ろうとしたせいで、足の怪我が悪化したのに。

心をえぐられるような真実から立ち直れないでいると、悠斗が、私も聞きたかった質問をした。「豪さん、あなたは一体、誰を愛してるんだ?」

豪は何かを思い出したように、優しい目を向けた。「もちろん、美希だ。でも、これからの3年間は、千佳にも誠心誠意尽くすつもりだよ」

彼は指先でグラスの縁をなぞった。「千佳はあまりに純粋で、まるで18歳の頃の美希のようだ。俺のために横山家に乗り込むようなことがなければ、美希も今頃はこうだったはずなんだ。

美希をもう一度育て直すことはできない。だから千佳を育てるんだ。そうすれば、美希に対しても心残りはない」

悠斗は黙って酒を煽ると、また尋ねた。「豪さん、正直に言って。美希さんがあなたを救うために横山家で過ごしたあの3日間を、まだ根に持ってるのか?」

私の心は、どこまでも沈んでいった。

横山家で過ごしたあの3日間は、確かに悪夢のようだった。

私が純潔なままそこから出てきたなんて、誰も信じてくれなかった。豪だけが、信じると言ってくれたのに。

その後も、数え切れないほどの夜、彼は私の涙にキスをして、「君が一番きれいだ」と言ってくれた。

今回、豪は何も言わなかった。ただ、グラスの酒をぐいっと飲み干しただけだった。

その沈黙が、何よりも残酷な肯定だった。

私は固く目を閉じた。涙は、流れるままに頬を伝った。

彼は、私を信じてなんかいなかった。それどころか、汚らわしいとさえ思っていたんだ……

豪のかすれた声が、また聞こえてきた。「7日後の結婚式は、美希に隠し通さないと。いっそ、彼女には『事故』で怪我でもしてもらって、しばらく病院にいてもらうのが一番だ」

心の中で張り詰めていた糸が、ぷつりと切れた。

豪の言葉は鋭いナイフのように、私の心の奥深くに突き刺さった。私の痛みは、彼にとって利用価値のある弱みでしかなく、私をコントロールする手段になっていたんだ。

ブーッ――

スマホに三件のメッセージが届いた。

一件は竹内千佳(たけうち ちか)から。婚姻届と指輪の写真と、楽しげなスタンプがついていた。

【美希、私は憧れの人とゴールインしたよ!見て、この指輪、私たちにぴったりでしょ】

もう一件は豪から。【美希、会いたい。こっちの用事が片付いたら、すぐに帰るから】

最後は、指導教官の植田蓮(うえだ れん)からだった。【高木さん、本当にW国の音楽院への留学を辞退するのか?君の才能を埋もれさせてはいけない。もう一度、考え直してほしい】

婚姻届の写真と、豪の【会いたい】というメッセージ。それはまるで、私の愚かさをあざ笑うかのように、顔をひっぱたかれたような衝撃だった。

心臓が、針で刺されるようにチクチクと痛み始めた。指先まで震えが伝わってくる。

私はゆっくりとトーク画面を開き、返信を打ち始めた……
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