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第712話

作者: ザクロ姫
健吾は杏奈に言われたとおり、キッチンに戻って換気扇のスイッチを入れた。

すると、キッチンの煙は、すぐにパワフルな換気扇に吸い込まれていき、

空気も幾分かクリアになった。

杏奈はそれでようやくほっと息をついた。

しかし、鍋の中の何かが、ますます焦げ臭くなっているのだった。

すると、杏奈はたまらず、キッチンに駆け込むと、コンロの火を消した。

健吾は、杏奈がキッチンに入ってきたのが不満だったのか、何か言いたげな顔をした。

でも、杏奈はもう彼の手を引いてキッチンから連れ出していた。

「松本さん、キッチンの後片付け、お願い?」

杏奈は申し訳なさそうに使用人の松本に言った。

一方、松本はとっくにキッチンに入りたかった。彼女はこの橋本家の御曹司が、中をどれだけめちゃくちゃにしたか、気になって仕方なかったのだ。

だから、杏奈に言われると彼女は適当に返事をして、急いでキッチンへ向かった。

一方、杏奈は健吾を寝室に連れて戻し、バスルームを指差して言った。「シャワーを浴びて、キレイにしてきて」

健吾も、自分が何かやらかしたことは分かっているようで、おそるおそる杏奈の顔色をうかがった
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