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異常のダイバーシティ
異常のダイバーシティ
Author: Mr.Z

1. 視察≪Visit≫

Author: Mr.Z
last update Last Updated: 2025-07-25 13:37:01

 これが新大阪大学か!

 昨日も気になってずっと調べていたが、結局何も分からないままに今日が来た。

 一緒に来たスアも興奮してる様子。

 この大学だけは他と違う。

 なぜか成績上位者のみにオープンキャンパスが行われるという、何とも変則的な場所で、男女2名ずつが選ばれる。

 2日目に選ばれたのが俺とスア。ここは外からも内部が見えないようになっており、全てが謎に包まれている。閉塞大学や新大阪駅大学なんて言われていたりもする。

 様々な大学の優秀者がここへ編入を希望しているらしく、これからの新たなAI社会に興味を持っている学生が、それだけいるという事だ。

 それもそうで、2か月前に突然就任したAI総理の影響があまりに大きい。街中は一気に最新鋭のAIが導入され、何もかもが変わっていった。

 この社会に付いていくには、より"新しい価値や人間らしさ"が重要視されるのと同時に、"AIを上手く使える能力が必須"とされている。

 特に、AI総理によっていきなり配布された"コレ"

 L.S.と呼ばれる腕時計のような小型デバイス、通称"Linked Someone"。こいつとAIをどれだけ上手く使えるかが、問われている気がする。あまりに高性能で多機能すぎるため、2か月以上経った今ですら、新たな機能が発掘されている。それを教える事で稼ぐ人もいたりする。

 そしてL.S.を付けている事は、この新大阪大学でも重要らしい。これが無いと大学内にすら入れない。

「私たち、見て回っていいんだよね⋯⋯?」

 スアがきょろきょろしながら聞いてくる。

「いい⋯⋯はずだけどな。今日は見放題って言われてるし」

「だよね。どこから見よっか」

 一応、見たいところは事前に決めてきた。

 俺が行きたいのは、"三船コーチ"が行っている学部と似たところ。あの人が行く場所に間違いは無いだろうし、そこから自分のやりたい事を見つけたい。

 当初は同じ大学にしようと考えた。けど、あの場所は難易度が高すぎるッ! 俺じゃ無理ッ!

 だから、何とかギリギリで行けそうなここにした。正直ここも行けるか分からないけど⋯⋯まぁやるだけやってやる。"三船コーチ"にも良い報告したいし。

「さっそく学際理工学部から行く?」

「おう!」

「あ! 走んないでよ!」

 興奮しすぎてもう頭痛い。なんせ、やっと見られるんだからな。一体どんな事をこそこそやってんのか、俺に見せやがれ!

 んー、ここでいいんだよな?

 近くの大きなホログラムキャンパスマップには、ここがそうだと書いてあるけど⋯⋯これ、どっから入ればいいんだ⋯⋯?

 ドアらしきものが全く見当たらないぞ?

「あら? もしかして、喜志可(きしか)くん?」

「へ?」

 その声に振り向くと⋯⋯

「やっぱり~! なになに!? ここに決めたの!?」

「え、エンナ先輩!? なんでここに!?」

「私ね~、呼ばれてこっちに編入したの! 何もかもが新体験で楽しいよ! ここ!」

 突如現れたエンナ先輩が笑顔で話す。

 この人は俺たちの2つ上で、部活の先輩だった人だ。

 ずっと生徒会長もしながら、容姿端麗で運動神経も抜群だった。今靡かせている綺麗なポニーテールと、左サイドにあるピンクの時間変化バレッタに、目を奪われる男を何人見たか。

 その度に「この子の面倒見ないといけないから~」とか言って、俺にヘイト向けるんだよこの人。

 でも、そう言ってくれる時はいつも、背後からハグしてくれて、ひと時の幸せでもあった。正直、もっと話したいなって思った時には卒業だったんだよなぁ。

「おろ、スアちゃんも一緒だ!」

「師斎会長、元気そうで何よりです」

「うんうん、もう会長じゃないけどね~。相変わらず可愛いなぁ~スアちゃんは!」

 スアを見かけたらすぐ抱き締めて頭を嗅ぐ癖、何も変わってない先輩まんまだ。

「すぅ~はぁ~、やっぱ落ち着くなぁ~このいい匂い⋯⋯」

「⋯⋯同じシャンプーにすればいいのでは?」

「それじゃダメなんだよね~。スアちゃんのこの頭で、この匂いじゃないと」

「⋯⋯その2つが揃わないとダメなんですね」

「うん! 揃うと最っ高! 麻薬よりいいわぁ~」

「⋯⋯麻薬やったことないですよね」

「ないねぇ~」

 久しぶりに見る二人のやり取りで、なんか落ち着いてきた。せっかくだ、エンナ先輩にこの大学の事を教えて貰えないかな。

「それで、二人はオープンキャンパス? 案内してあげよっか。よく分かんないでしょ、ここ」

 聞く前に言われてしまった。

「そうなんっすよ。誰も案内してくれる人、いないみたいで⋯⋯」

「あ~、ここは"未知からの高揚感"をテーマにやってるそうなんだよ~。その最初が"マッピングを楽しむ"って事らしくてさ。ほら、ゲームとかで行ってないところはまだ行けない、みたいな? そういったゲーム感覚を重視してるみたい。後は座りすぎないように運動も兼ねてとか? いろいろ考えてるっぽいよ!」

 へぇ~、そんな大学今まで聞いた事無いな。

「たぶんL.S.に"新大阪大学のマップ"がもう追加されてるんじゃないかな? 二人とも、見てごらん?」

 L.S.からホログラムパネルを複数展開すると、一番右に"新大阪大学キャンパスマップ"が立体展開された。まだ黒い部分が多く、マップが埋まってないとでも言いたいのだろうか。

 お、説明アナウンスがあるぞ。

『ようこそ、新大阪大学へ。この新マッピングシステムに関しては、喜志可ザイ様がもう少し構内で迷われてから、自動で説明が入る予定だったのですが、師斎エンナ様のアシストが先に入ってしまったようですね。それもまた、人生の楽しいところですね』

 ⋯⋯なんかチート使って先に知っちゃったみたいな言いぶりじゃん

『ここ一帯は"学際理工学研究科ゾーン"になります。ここで詳しく話しても頭に入り辛いと思いますので、構内を探索してみましょう。その都度、必要そうであれば、こちらから説明致します』

 そう言うと、アナウンスは終わってしまった。

「まぁ~そんな感じのとこ! 大学ってさ、まだまだ受動的なところが多いじゃない? こうやって様々なイベントやプランが毎日あるみたいでさ、完了すると、単位になったり、お金になったり、専用アイテムが貰えたり、わざわざ人と交流しなくても、一人でも楽しめる工夫がいっぱいなんだよ!」

 こんな大学見た事ねぇ⋯⋯。まるでゲームの主人公になって進んでいくみたいな、それでここは国立大学でもある。つまり、国を挙げて取り組んでるって事になる。

 一人で出来るってのもいい。最近は一人で完結してる事が多く、それを大学でもしてくれるのはありがたい。結局、一番面倒なのは人間関係だし。

 ⋯⋯めっちゃいいAIの使い方してる。やっべぇ、絶対ここ入りてぇ、エンナ先輩もいるし!

「そういえば、先輩はどこの学部なんすか?」

「私はね~、法学部! ここからちょっと離れたところにあるんだよね~」

 エンナ先輩は、傍にある"バイクのような何か?"に乗り、こっちに来たという。こいつを使えば、軽く宙に浮き、AIで自動走行してくれるらしい。

 乗らせて貰ったが、凄く欲しくなった。ちょっとしか浮かないのもいい、飛び過ぎると怖いって人もいるって事も考慮して、女性でも乗りやすくなっている。しかも、免許いらずに乗れるってのがヤバすぎる。

「ちょっと相談したい先生がこっち側と兼任しててさ、来たら二人に会っちゃった~みたいな!」

「なんかすみません、俺ら邪魔でしたよね」

「ううん、ぜ~んぜん大丈夫だよ。今後の研究とか話したいだけだったしね~。それより、二人がここにいるって事は、学際理工学部志望なの?」

「俺はそうですけど、スアは違うよな」

「私は医学部です」

「そっかそっか! どっちかは法学部来てくれると思ったのに、ざ~んねん! 受験で困る事とかあったら何でも聞いてね! ⋯⋯っと言っても、私は編入組だから分かんないんだけどね。受験をするのは、君たち世代が初めてって形じゃないかな?」

「この大学、出来たばかりですもんね。今の内部生は全員、引き抜き編入生と自力編入生のみでしたっけ」

「そう! 別々の大学からめっちゃ凄い人ばっかりでさ! 学力も可愛さも負けられないって感じ!」

 他大学の優秀生の寄せ集めの場所。そして、受験で入る俺たちは1期生に当たる。だったら、その1期生は勝ち取るしかねぇ⋯⋯!

 その後、エンナ先輩と学際理工学研究棟ゾーンと呼ばれる構内へ、共に入る事となった。

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