「ここね、こうやってどこからでも入れるんだよ!」
「「おぉ~!」」 まさかの壁だった場所が自動ドアのように開いた。大学関係者なら、L.S.を提示するだけで、どこでも開くそうだ。 「私も初めてこっちに来たけど、中はこんな風になってるんだねぇ」 視界に真新しい世界が広がった。まさに近未来とでもいうのか、各々の研究内容が壁に沿うように、プロジェクションマッピングで流れている。こうして興味を持って貰えるよう、工夫しているのだろうか。 静かな廊下で三人の足音だけが響く。周りを見ながら歩いていた時、ふと一瞬、左奥の通路に数人が過ぎ去るのが目に留まった。 「⋯⋯あれって」 「ん? ザイ?」 「ごめん、ここで待っててくれ」 「え? ちょっと!?」 なんであいつらが今日いるんだ⋯⋯? ここに来るのは昨日だったはず、それになんで日岡知事が⋯⋯? 静寂を裂くように俺は走り続け、後を付けた。何とも言えない胸騒ぎと好奇心が、自分を掻き立てる。 どこ行ったんだ⋯⋯3人揃って歩いていたはずなのに。 さらに研究棟の奥へ進むと、1か所だけ"変な場所"があった。【ProtoNeLT ONLY】と記載された大きな扉、そこへ3人が入っていく様子が微かに見えた。 行こうとした瞬間、 「ザイ! 勝手に動かないでよっ!」 腕を引っ張られ、そこにはスアがいた。 「どうしたの、急に」 「⋯⋯さっきいたんだ。コウキと大井さんが」 「栖原君とリンカが? その二人って昨日じゃないの?」 「そのはずだろ? それに⋯⋯日岡知事もいた」 「!? あの"行方不明中"の!?」 「共通点の無い3人が、あの中へ入って行った。おかしいだろ?」 意外にも俺を疑わなかったスアは、一つ提案をしてきた。 「⋯⋯それが本当なら、入って確かめる?」 バカな事言わないで戻れって言われると思ったのに、スアは憑り付かれたように興味津々になっていた。 あの"蒼紅が交錯する扉"の先に何があるのか⋯⋯― 吸い込まれるように俺たちは足を踏み入れた
「⋯⋯なんだ、これ⋯⋯」
そこには、大きな薄暗い講義室に並ぶように、謎の人体模型のようなものが後ろ向きで置かれていた。左右の壁には"コレら"の簡単な紹介映像が立体的に流れ、天井には大きく"未知なるAIを目指して"とある。 「これって、全部AIなの⋯⋯?」 スアと近くに寄ってみると、これらには肩から腕にかけて"ProtoNeLT"と書かれており、いかにも不気味な雰囲気を感じる。 数体を見回していた時、ある3体だけ突然変異し始めた。その姿は、俺が"さっき見かけた3人"と同じ姿だった。 「どういう⋯⋯ことだ⋯⋯?」 「ねぇ、なんか怖いよ⋯⋯。もう出よう⋯⋯?」 「⋯⋯スアは先に出てろ。俺はアレを確認する」 「やめた方がいいってッ! ここ、ヤバいよッ!」 「だから先に出てろって。ちょっと確認したら、すぐ俺も出るから」 「やだよ⋯⋯一人の方が怖いぃ⋯⋯」 怯える彼女を連れながら、意を決し、俺はアレらの傍へと寄る事にした。すると⋯⋯― 首の無い死体が3つ置かれていた
叫ぶ事を必死に抑えるスアの横で、薄暗い中、俺はもっと詳しく確認してみる事にした。そこには、"ドライアイスが漂う冷凍の棺桶?"に入っている事が判明し、それぞれには⋯⋯
【窒息死:栖原コウキ】
【毒薬死:大井リンカ】【失血死:日岡オウ】と、意味不明な事がホログラムパネルで表示されていた。
その時、さらに奥辺りから大きな物音がし、さすがにヤバいと感じた俺はスアの手を引いて、足音をなるべく立てないようにこっそりと出口へ向かった。 今にもこれらが動き出しそうな怖さを感じながらも、何とか出られた俺たちは、エンナ先輩の方へと向かった。 「あ、やっと帰って来た! そんなに気になるものがあったの~?」 「⋯⋯はい。ちょっと面白そうな研究がありまして」 「へぇ~! ここは最新AIに特化した研究が多いからねぇ。喜志可くんがそんな気になるなんて、どんなものだったのかな?」 「えっと⋯⋯これからのARのe-Sportsについて、みたいなやつ?」 帰りに見かけたものを適当に言うと、 「喜志可くん、"次に来る日本プロプレイヤー30名"に選ばれてるんだったっけ? 卒研にはそんな感じのテーマ選ぶといいかもね!」 「あ、あはは⋯⋯」 「そういえば、明日の≪急催R.E.D.//SUMMIT≫にプロとしてイベントに出るんだよね。顔ぶれ見たらいるから驚いたよ~! スアちゃんも!」 隣のスアを見ると、明らかに顔色が悪くなっていた。 「え、スアちゃん!? 大丈夫!?」 「⋯⋯すみません、ちょっと気分悪くて⋯⋯」 「どこか座る? 何か飲む? 救急車呼ぼうか!?」 「す、すんませんエンナ先輩! 俺たち、明日の準備もしないとなので、そろそろ帰ります! スアは俺が面倒見ますので、今日はありがとうございました!」 「分かった。何かあったらすぐ連絡して!」 この後、俺たちはスアの父が経営する病院へと、自動運転タクシーで向かった。その車内、スアの具合を見ながら、俺はさっき見た"アレ"を思い出していた。 あの【ProtoNeLT ONLY】と書かれた蒼紅の大扉、その内部に並んでいた"ProtoNeLT"という謎の人型AIたち、姿を突然変異させた3体と冷凍棺桶に包まれた首無し変死体、そしてそれらに刻まれた死因と名前⋯⋯。 ⋯⋯何もかも意味不明すぎる。あれは本当に死体だったのか? 分からない、何も⋯⋯ コウキと大井さんに連絡してみても返事は無く、次に学校で会うまで不明なまま。 そして、俺は忘れていない。最後に一番奥で見た、【Diversity KiLLer ONLY】という扉が、微かに見えたのを⋯⋯。「ここね、こうやってどこからでも入れるんだよ!」「「おぉ~!」」 まさかの壁だった場所が自動ドアのように開いた。大学関係者なら、L.S.を提示するだけで、どこでも開くそうだ。「私も初めてこっちに来たけど、中はこんな風になってるんだねぇ」 視界に真新しい世界が広がった。まさに近未来とでもいうのか、各々の研究内容が壁に沿うように、プロジェクションマッピングで流れている。こうして興味を持って貰えるよう、工夫しているのだろうか。 静かな廊下で三人の足音だけが響く。周りを見ながら歩いていた時、ふと一瞬、左奥の通路に数人が過ぎ去るのが目に留まった。「⋯⋯あれって」「ん? ザイ?」「ごめん、ここで待っててくれ」「え? ちょっと!?」 なんであいつらが今日いるんだ⋯⋯? ここに来るのは昨日だったはず、それになんで日岡知事が⋯⋯? 静寂を裂くように俺は走り続け、後を付けた。何とも言えない胸騒ぎと好奇心が、自分を掻き立てる。 どこ行ったんだ⋯⋯3人揃って歩いていたはずなのに。 さらに研究棟の奥へ進むと、1か所だけ"変な場所"があった。【ProtoNeLT ONLY】と記載された大きな扉、そこへ3人が入っていく様子が微かに見えた。 行こうとした瞬間、「ザイ! 勝手に動かないでよっ!」 腕を引っ張られ、そこにはスアがいた。「どうしたの、急に」「⋯⋯さっきいたんだ。コウキと大井さんが」「栖原君とリンカが? その二人って昨日じゃないの?」「そのはずだろ? それに⋯⋯日岡知事もいた」「!? あの"行方不明中"の!?」「共通点の無い3人が、あの中へ入って行った。おかしいだろ?」 意外にも俺を疑わなかったスアは、一つ提案をしてきた。「⋯⋯それが本当なら、入って確かめる?」 バカな事言わないで戻れって言われると思ったのに、スアは憑り付かれたように興味津々になっていた。 あの"蒼紅が交錯する扉"の先に何があるのか⋯⋯ ― 吸い込まれるように俺たちは足を踏み入れた「⋯⋯なんだ、これ⋯⋯」 そこには、大きな薄暗い講義室に並ぶように、謎の人体模型のようなものが後ろ向きで置かれていた。左右の壁には"コレら"の簡単な紹介映像が立体的に流れ、天井には大きく"未知なるAIを目指して"とある。「これって、全部AIなの⋯⋯?」 スアと近くに寄ってみると、こ
これが新大阪大学か! 昨日も気になってずっと調べていたが、結局何も分からないままに今日が来た。 一緒に来たスアも興奮してる様子。 この大学だけは他と違う。 なぜか成績上位者のみにオープンキャンパスが行われるという、何とも変則的な場所で、男女2名ずつが選ばれる。 2日目に選ばれたのが俺とスア。ここは外からも内部が見えないようになっており、全てが謎に包まれている。閉塞大学や新大阪駅大学なんて言われていたりもする。 様々な大学の優秀者がここへ編入を希望しているらしく、これからの新たなAI社会に興味を持っている学生が、それだけいるという事だ。 それもそうで、2か月前に突然就任したAI総理の影響があまりに大きい。街中は一気に最新鋭のAIが導入され、何もかもが変わっていった。 この社会に付いていくには、より"新しい価値や人間らしさ"が重要視されるのと同時に、"AIを上手く使える能力が必須"とされている。 特に、AI総理によっていきなり配布された"コレ"。 L.S.と呼ばれる腕時計のような小型デバイス、通称"Linked Someone"。こいつとAIをどれだけ上手く使えるかが、問われている気がする。あまりに高性能で多機能すぎるため、2か月以上経った今ですら、新たな機能が発掘されている。それを教える事で稼ぐ人もいたりする。 そしてL.S.を付けている事は、この新大阪大学でも重要らしい。これが無いと大学内にすら入れない。「私たち、見て回っていいんだよね⋯⋯?」 スアがきょろきょろしながら聞いてくる。「いい⋯⋯はずだけどな。今日は見放題って言われてるし」「だよね。どこから見よっか」 一応、見たいところは事前に決めてきた。 俺が行きたいのは、"三船コーチ"が行っている学部と似たところ。あの人が行く場所に間違いは無いだろうし、そこから自分のやりたい事を見つけたい。 当初は同じ大学にしようと考えた。けど、あの場所は難易度が高すぎるッ! 俺じゃ無理ッ! だから、何とかギリギリで行けそうなここにした。正直ここも行けるか分からないけど⋯⋯まぁやるだけやってやる。"三船コーチ"にも良い報告したいし。「さっそく学際理工学部から行く?」「おう!」「あ! 走んないでよ!」 興奮しすぎてもう頭痛い。なんせ、やっと見られるんだからな。一体どんな事をこそこそや