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2. 蒼紅≪Unknown≫

Author: Mr.Z
last update Last Updated: 2025-07-25 13:56:36

「ここね、こうやってどこからでも入れるんだよ!」

「「おぉ~!」」

 まさかの壁だった場所が自動ドアのように開いた。大学関係者なら、L.S.を提示するだけで、どこでも開くそうだ。

「私も初めてこっちに来たけど、中はこんな風になってるんだねぇ」

 視界に真新しい世界が広がった。まさに近未来とでもいうのか、各々の研究内容が壁に沿うように、プロジェクションマッピングで流れている。こうして興味を持って貰えるよう、工夫しているのだろうか。

 静かな廊下で三人の足音だけが響く。周りを見ながら歩いていた時、ふと一瞬、左奥の通路に数人が過ぎ去るのが目に留まった。

「⋯⋯あれって」

「ん? ザイ?」

「ごめん、ここで待っててくれ」

「え? ちょっと!?」

 なんであいつらが今日いるんだ⋯⋯?

 ここに来るのは昨日だったはず、それになんで日岡知事が⋯⋯?

 静寂を裂くように俺は走り続け、後を付けた。何とも言えない胸騒ぎと好奇心が、自分を掻き立てる。

 どこ行ったんだ⋯⋯3人揃って歩いていたはずなのに。

 さらに研究棟の奥へ進むと、1か所だけ"変な場所"があった。【ProtoNeLT ONLY】と記載された大きな扉、そこへ3人が入っていく様子が微かに見えた。

 行こうとした瞬間、

「ザイ! 勝手に動かないでよっ!」

 腕を引っ張られ、そこにはスアがいた。

「どうしたの、急に」

「⋯⋯さっきいたんだ。コウキと大井さんが」

「栖原君とリンカが? その二人って昨日じゃないの?」

「そのはずだろ? それに⋯⋯日岡知事もいた」

「!? あの"行方不明中"の!?」

「共通点の無い3人が、あの中へ入って行った。おかしいだろ?」

 意外にも俺を疑わなかったスアは、一つ提案をしてきた。

「⋯⋯それが本当なら、入って確かめる?」

 バカな事言わないで戻れって言われると思ったのに、スアは憑り付かれたように興味津々になっていた。

 あの"蒼紅が交錯する扉"の先に何があるのか⋯⋯

 ― 吸い込まれるように俺たちは足を踏み入れた

「⋯⋯なんだ、これ⋯⋯」

 そこには、大きな薄暗い講義室に並ぶように、謎の人体模型のようなものが後ろ向きで置かれていた。左右の壁には"コレら"の簡単な紹介映像が立体的に流れ、天井には大きく"未知なるAIを目指して"とある。

「これって、全部AIなの⋯⋯?」

 スアと近くに寄ってみると、これらには肩から腕にかけて"ProtoNeLT"と書かれており、いかにも不気味な雰囲気を感じる。

 数体を見回していた時、ある3体だけ突然変異し始めた。その姿は、俺が"さっき見かけた3人"と同じ姿だった。

「どういう⋯⋯ことだ⋯⋯?」

「ねぇ、なんか怖いよ⋯⋯。もう出よう⋯⋯?」

「⋯⋯スアは先に出てろ。俺はアレを確認する」

「やめた方がいいってッ! ここ、ヤバいよッ!」

「だから先に出てろって。ちょっと確認したら、すぐ俺も出るから」

「やだよ⋯⋯一人の方が怖いぃ⋯⋯」

 怯える彼女を連れながら、意を決し、俺はアレらの傍へと寄る事にした。すると⋯⋯

 ― 首の無い死体が3つ置かれていた

 叫ぶ事を必死に抑えるスアの横で、薄暗い中、俺はもっと詳しく確認してみる事にした。そこには、"ドライアイスが漂う冷凍の棺桶?"に入っている事が判明し、それぞれには⋯⋯

【窒息死:栖原コウキ】

【毒薬死:大井リンカ】

【失血死:日岡オウ】

 と、意味不明な事がホログラムパネルで表示されていた。

 その時、さらに奥辺りから大きな物音がし、さすがにヤバいと感じた俺はスアの手を引いて、足音をなるべく立てないようにこっそりと出口へ向かった。

 今にもこれらが動き出しそうな怖さを感じながらも、何とか出られた俺たちは、エンナ先輩の方へと向かった。

「あ、やっと帰って来た! そんなに気になるものがあったの~?」

「⋯⋯はい。ちょっと面白そうな研究がありまして」

「へぇ~! ここは最新AIに特化した研究が多いからねぇ。喜志可くんがそんな気になるなんて、どんなものだったのかな?」

「えっと⋯⋯これからのARのe-Sportsについて、みたいなやつ?」

 帰りに見かけたものを適当に言うと、

「喜志可くん、"次に来る日本プロプレイヤー30名"に選ばれてるんだったっけ? 卒研にはそんな感じのテーマ選ぶといいかもね!」

「あ、あはは⋯⋯」

「そういえば、明日の≪急催R.E.D.//SUMMIT≫にプロとしてイベントに出るんだよね? 顔ぶれ見たらいるから驚いたよ~! スアちゃんも!」

 隣のスアを見ると、明らかに顔色が悪くなっていた。

「え、スアちゃん!? 大丈夫!?」

「⋯⋯すみません、ちょっと気分悪くて⋯⋯」

「どこか座る? 何か飲む? 救急車呼ぼうか!?」

「す、すんませんエンナ先輩! 俺たち、明日の準備もしないとなので、そろそろ帰ります! スアは俺が面倒見ますので、今日はありがとうございました!」

「分かった。何かあったらすぐ連絡して!」

 この後、俺たちはスアの父が経営する病院へと、自動運転タクシーで向かった。その車内、スアの具合を見ながら、俺はさっき見た"アレ"を思い出していた。

 あの【ProtoNeLT ONLY】と書かれた蒼紅の大扉、その内部に並んでいた"ProtoNeLT"という謎の人型AIたち、姿を突然変異させた3体と冷凍棺桶に包まれた首無し変死体、そしてそれらに刻まれた死因と名前⋯⋯。

 ⋯⋯何もかも意味不明すぎる。あれは本当に死体だったのか?

 分からない、何も⋯⋯

 コウキと大井さんに連絡してみても返事は無く、次に学校で会うまで不明なまま。

 そして、俺は忘れていない。最後に一番奥で見た、【Diversity KiLLer ONLY】という扉が、微かに見えたのを⋯⋯。

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