เข้าสู่ระบบあの日、カフェで無理に霊視を試みたあと、阿左美さんの体調は少しずつ悪くなっていった。お腹の赤ちゃんは元気だけど、阿左美さん自身が疲れやすくなったみたいだ。「遥花さん、ごめんね……また来てもらっちゃって」阿左美さんのマンションで、彼女はベッドに横になりながら言った。吉田さんは仕事で出かけていて、今日は私一人で付き添っている。「いいよ、気にしないで。阿左美さんこそ、無理しちゃダメだって言ってるのに」私は彼女の手に触れた。少し冷たい。阿左美さんは弱々しく笑った。「百合子の霊の気配が、ますます強くなってるの……夜、夢で出てきて、赤ちゃんを睨んでるのよ。怖くて、眠れない日が増えちゃって」「阿左美さん……私には霊というものが本当にいるのかはわからないけれど、きっと今はそれだけじゃなくて、出産前の不安が悪影響を及ぼしているところもあるのかも。私も出産前は不安だったし……」いい機会だ。彼女に、私が妊娠中、子宮頸管無力症と診断されたことを彼女に告げた。お医者さんにくれぐれもストレスは避けてと伝えられていたけれど、さまざまなトラブルが重なった結果か、早産になってしまったことも。ただ、未熟児のまま生まれてきた蓮と菖蒲も、いまは普通の小学生として立派に成長している。不安な未来もあるけれど、きっといい結果になる、希望を持つことが大事だ――と。「遥花さんにもそんなことが……そうか、思い出したわ。私、前に一度、悠真さんに憑りついている生霊を見たことがあるの。あなたと、あなたのお腹にいる二人の魂だった。私、あなたに出会うより前から、あなた達の生霊に会っていたの」「へっ……そうなの?」阿左美さんが悠真に憑りついている生霊を……どうしてそんな経緯になったのかわからないが、双子がお腹にいる間、生霊を飛ばしていたなんて。しかも双子も一緒になんて、恥ずかしいやら何やら、だ。「とにかく……もう少し休んで。出産まであと少しだよ。きっと無事に生まれてくるよ」私は彼女のお腹を撫でながら言う。でも、心の中では不安が募る。百合子の霊が本当に子を呪っているなら、どうしたらいいの……?数日後、阿左美さんから緊急の連絡が入った。「陣痛が来たの……病院に向かうわ」と。私はすぐにタクシーを飛ばし、病院へ駆けつけた。病室で、阿左美さんは汗だくでベッドに横たわっていた。吉田さんが手を握り、励ましている
【2025年5月】「遥花さん、見て、私のお腹! まるでスイカみたいで笑っちゃう」初夏の陽気が心地よい季節、阿左美さんはカフェのテラス席で、大きくなったお腹を撫でながら言った。吉田さんとの間にできた子を身ごもって、もう臨月だ。私たちは週に一度、こうして会うのが習慣になっていた。蓮と菖蒲の面倒は、奥野さんや田中さんなど、長い付き合いのある大人たちが見てくれている。特に今日は、悠真と吉田さんが、2人を遊園地に連れていくらしい。蓮は自作のアプリを開発したことへの、菖蒲は撮影中のドラマの演技を監督から褒められたことへのご褒美だ。相変わらず忙しい悠真だが、「たまには俺も羽を伸ばさないとな」と、時間を作ってくれた。悠真も阿左美さんの妊娠を知ってから、私たちの友情を尊重してくれるようになった。「ところで遥花さん、聞いてよ。ユナイトコーポレーションの買収騒動、ますます深刻みたいで。うちのパパ――信孝社長も毎日頭抱えてるわ」阿左美さんはスマホをいじりながらため息をついた。いつも明るく振る舞っている阿左美さんだけど、最近の彼女の顔色は少し優れなかった。今日は特に、険しい表情をしている。「私の霊能力で、何か助けられないかなって思うんだけど……妊娠中は、どうも調子が出なくて」彼女はお腹を撫でながら苦笑いした。阿左美さんの霊感は、事件解決の鍵になったこともある。だがエネルギーを大量に使うため、母体に負担がかかるらしい。出産が近づくにつれ、ますます使えなくなっていると、前にも言っていた。「無理しちゃダメよ。赤ちゃんが大事なんだから」私は彼女の手を握った。阿左美さんはうなずきながら、でもどこか悔しそうだった。「わかってるけど……パパの会社がなくなったら、私の生活も変わっちゃうかも。悠真さんの会社も影響出るでしょ? 遥花さんだって心配よ」確かに、最近はステアリンググループの株価も低迷し始め、悠真を苦しめていた。夜遅くまで仕事部屋にこもってため息をつく姿を見ると、心が痛む。でも、私は悠真を信じている。彼なら乗り越えられるはずだ。阿左美さんはスマホを置いて、目を閉じた。「……ちょっと、試してみようかな。ユナイトの未来、霊視で覗いてみるわ」「え、でも妊娠中は危ないって……」「大丈夫、少しだけだから」彼女は深呼吸をし、手を組んで集中し始めた。数分後、額に汗が浮かび、顔色
「……あ゛あ゛~! また0番に戻ってる……なにこれクソゲーじゃない!?」「ちょ……菖蒲ちゃん。あんまり"クソゲー”なんて言葉使わない方が。楽屋の外に聞こえちゃうかもしてないよ?」ドラマの撮影が終わり、Switchで『8番出口』を遊んでいた私を、マネージャーの奥野がいさめる。私、大道寺菖蒲。9歳、小学3年生。最近、オーディションで合格して芸能事務所に入り、新人気鋭の子役タレントとして売り出し中だ。「だってさぁ、このゲーム難しいんだもん! 奥野もやってごらんよ」「ゲームかぁ……サラリーマンやってた頃はよくやってたんだけどね。最近はあんまりもうやらなくなっちゃって」「ふぅん。趣味の料理のやりすぎで、腕が鈍っちゃったとか? つまんないの。奥野のざあこ」「う、うわ……どこでそんな言葉覚えてきたの? ざあこなんて言っちゃダメだよ」「ふふっ、ざあこ、ざあこ」奥野の反応が面白くてつい連呼してると、急に楽屋の扉が開いた。やばっ、偉い人に聞かれたかも? と思い、自然と背筋が伸びてしまうが――。「あ、なんだ、田中かぁ……お迎え、遅いんだけど」「す、すみませんお嬢様……道路が込んでおりまして」パパである大道寺悠真の専属ドライバー、田中だった。「じゃあ、帰るとしますかー……ちなみに田中、パパも一緒?」「いえ、悠真様はまだお仕事をされています。なんでも最近、会社の経営状況がかんばしくないとかで……」「あ、それお兄ちゃんも言ってた。なんか買収? とかされちゃいそうなんだっけ、パパの会社」「い、いや……! そんなわけないじゃないですか! 買収されそうなのは傘下のユナイトコーポレーションです」「ふうん。まぁ興味ないけど」と、車の後部座席に乗り込み、シートベルトを締める。田中の車はシトラス系の匂いがする。「……なんかこの芳香剤、キツイ。鼻にツンと刺さるような感じ」「ありゃ……良くなかったですか。すみません、昼間、車内でハンバーグ弁当を食べたもので……匂いを消そうと思ってこれにしちゃいまして」「ハンバーグ弁当!? オエッ! 私、お弁当の冷えたハンバーグ嫌い! 田中ももう齢なんだから、あんま脂っこいもの食べちゃダメよ!」「は、はぁ……お気遣いいただき、嬉しい限りで」「田中さん……今度、大豆ミートのハンバーグ作りますよ。一緒に食べましょう」奥野の提案に、田中が
物心ついたのはいつだったろうか。友達は3歳ぐらいだとか、4歳になって幼稚園に入ったころだとか言う。けれど僕の一番古い記憶は、まだ生まれて半年も経たないころのことだ。周りは薄暗い倉庫だった。赤ん坊の僕は、つばの広い帽子をかぶった謎の男に誘拐されてそこにいた。けれどそんな僕を、とあるヒーローが救ってくれたんだ。そのヒーローの名は、sophila――それが、母親である遥花に教えられた名だ。sophilaはかつて遥花のバディであり、僕と妹にとっては師匠だったという。僕の名前は蓮。蓮大道寺。9歳、今年の春で小学4年生になった。双子の妹である菖蒲と、母親の遥花と、父親の悠真と暮らしている。父親――か。悠真は確かに血の繋がりはあるようだけど、本当の父親じゃないと思っている。僕と菖蒲の本当の父親は、どこかにいるはずだ。それこそ、遥花の語るsophilaこそが僕の本当の父親ではないか。つまり、血の繋がりを超え、魂で繋がった存在ではないか、と。sophilaに抱かれていたときの温もりを、今でもはっきり思い出す。とても温かくて、それでいて柔らかくて……父親なら男性のはずだが、sophilaは性別にとらわれない、何か人智を超えるような、女性的な魅力も兼ねそろえた人物なのではないかと考えている。sophilaを思うと、胸がドキドキする。憧れか。ひょっとしたら恋にも似たような気持ちかもしれない。父親だと思いながら恋までしちゃうなんて冷静に考えれば気色悪いが、とにかく僕の中ではそういう特別な存在なのだ。「お兄ちゃん、見て見て! これが菖蒲のスペシャルポーズ!」と、リビングでポーズを取りながら菖蒲が言う。まだ学校から帰ってきたばかりで、ランドセルも床に放り投げたまま。目をキラキラさせながら、いつぞやネットで流行っていたI字バランスをキメている。芸能界に入ったばかりの妹は、そうやって毎日のように新しいポーズを練習しているのだ。「ああ、かわいいかわいい」僕は適当に返事をする。菖蒲は可愛いけど、毎回見せられると飽きる。「もー、お兄ちゃん、もっと本気で褒めてよ!」菖蒲が膨れる。「本気で褒める必要あるか? 菖蒲は可愛いのは事実だろ。それより、早くランドセルをしまって、宿題やったらどうだ。まぁ、僕はもう学校で済ませてきてるけどな」菖蒲はプクッと頰を膨らませて、僕を睨む。「お兄ち
【2025年4月】都内勤務になったのは、つい最近のことだった。佐伯敏夫の働きかけで、ようやく松山支社から、念願叶って進出することができた。円城寺椿、もう33歳、独身。恋人なし。鏡に映る自分は、昔よりずっと疲れた顔をしている。それでもメイクはバッチリ欠かさない。ようやくあの人に会えるのだ。路線は初めて乗る武蔵野線。行先は府中刑務所――隆一様が捕らえられている場所だ。そこで私は、「内縁の妻」だと申し出て、面会することが許された。当然ながら、受刑者との面会なんて人生で初めてだ。それに隆一様と会うのも、もう9年ぶり。まずはお互いのことがわかるだろうかという不安もあった。面会室の椅子に座り、しばらく待つ。館内はBGMがかかってるわけでもなくとても静かで、時計の針がカタッと動く音すら聞こえるほどだった。やがて、刑務官に連れられて、囚人服を着た初老の男性が現れた。その姿を見て、絶句してしまう。面会室の向こうに座る彼は、もう60過ぎではあるけれど、頬はこけ、目も虚ろで、見た目は70代、80代にも見えるほど老け込んでいた。あの頃の、鋭く冷徹な眼光はどこにもない。当然ながら、トレードマークの帽子はかぶっていない。短く刈り揃えられた髪の毛は、グレーだった。「隆一様……」声を震わせた。彼は、ゆっくりと顔を上げた。その目に、わずかな光が宿る。「椿君か……9年ぶりだな」何を言えばよいのか。言おうと思っていたセリフは、先ほどの衝撃のせいですべて頭から抜けてしまった。パクパクとコイのように口を動かしながら、辛うじてこう言う。「ええ……隆一様、がいに(物凄く)、お齢を召されたようで……」隆一様は、フフフと笑って、多少、ゴホッ、ゴホッと咳き込んだ。「見た通りだ……すっかりジジイだろう」認めたくないが、彼のその手もシワだらけだ。息が詰まりそうになる。「椿君、君はとても魅力的な女性になったようだな。まるで孫みたいに思っていた可愛らしい娘が、すっかり大人の女性となって。見違えるようだ」だが、そうして私のことを褒めてもらうと、胸がキュンとする。大人の女性だなんて。例えお世辞だとしても、大好きだった人に私が重ねてきた年齢をそうポジティブに評価してもらえるのは、嬉しくてたまらない。「ずっと……隆一様を待っとったんよ」最初に言おうとしていたセリフを思い出して言うと、彼は苦笑
事件から1年が経ったのに、香澄の体はまだsophilaの人格に支配されたままだった。sophilaはいつも優しかった。菖蒲を抱き上げては「大きくなったね」と微笑み、蓮には新しいおもちゃを用意してくれた。でもその笑顔の奥に、どこか寂しさが漂っているのがわかった。相変わらずミルクやおむつの世話はしてくれるけど、自分の子に接しているというより、ベビーシッターのようにただ世話をするだけ。香澄みたいに「双子のヒーロー! 今日は何して遊ぼうか?」とか、「んー! 今日もプリキュアみたいにかわいいぞう!」とかは、もう言ってくれなくなった。ある日、sophilaが静かに言った。「遥花、悠真との再婚、考えてみない?」驚いてsophilaを見る。「どうしてそんなことを……」「香澄はもう戻らないかもしれない。だったら、遥花は幸せになるべきだと思うの。悠真は、遥花を愛してる。毎週会いにくるたび、彼の仕草や言葉からそれが読み取れる。心理学の本に書いてあった通りに」sophilaが、人並の恋愛というものについて知りたくて、最近そういう本を読み漁っているのは知っていた。でも、私との関係を守るためにそうしてくれたのではなかったのか。「そんな話、悠真は一言も……」「香澄と遥花の関係を気にして言えないだけよ。でもここは悠真と"元サヤに戻る”方が、蓮と菖蒲のためにもなるんじゃないかしら」sophilaの言葉は優しかったが、"元サヤに戻る”だなんて。きっと心理学の本に書いてあった覚えたての言葉を使いたかったのだろう。香澄なら、絶対にそんな言葉は使わなかった。人と人との関係なんて常に変化していく。"元サヤに戻る”なんてあり得ない。「sophila、あなたは私のこと、どう思ってるの? 本で勉強して、あなたの気持ちにも整理はついた?」sophilaは、少しだけ目を伏せた。「私は香澄の守護者だから。香澄が愛した人を守りたいと思う」その言葉に、半分はホッとしながら、半分は違和感を覚えた。彼女が私を必要としてくれているのは理解できたが、このモヤモヤする気持ちの正体は一体何なのか……。それから少しずつ、亀裂が生まれていった。sophilaは変わらず優しかったが、私との会話は減った。双子が寝静まった後の、夜の営みの時間も。それまではぎこちないながらも続けてくれていたが、ある夜の行為の後、