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第4話

Author: 紗々
意味がない。

それは書店のことじゃなく、どうやら、私という人間そのもののことだったようだ。

「実は、あなたが描いた設計図を偶然見かけて、すごく素敵だなって思ったんです。

それで彼にお願いしてみたら、すぐにいいよって言ってくれて。

私が喜ぶなら、欲しいものは何でもあげるとまで言ってくれたんですから」

そう言って、わざとらしいほど自然に、琴乃はピンクダイヤをはめた手をこちらへ向けた。

「この指輪も世界に1組しかないんですよ」

嬉しそうな彼女の笑顔を見つめ、私も小さく笑った。

「人の夫の愛人になったことを自慢できるなんて、確かにあなたくらいかもしれませんね」

琴乃の笑みが凍りつく。

ところが次の瞬間、彼女は私の後ろに何かを見つけたらしく、見る見る目を潤ませた。

「どうしてそんなひどいことを言うんですか……」

ほとんど同時だった。横から強い力で突き飛ばされる。

下腹部がテーブルの角にぶつかり、息が止まるほどの痛みが走った。

顔を上げると、そこにいたのは朔弥だった。

「梓。ここで何をしている?」

琴乃を庇うように前へ立ち、私を見る朔弥の目には、今まで見たこともないほど冷たいものが宿っていた。

その後ろで、琴乃が今にも泣きそうな顔をしている。

「朔弥、私、本当に梓様も書店をやりたかったなんて知らなくて……だったら、このお店は返したほうがいいよね……」

「返す必要なんてない。俺が金を出して、君のために作った店だ。

俺の金なんだから、誰に何をしてやろうが俺の勝手だろ?」

琴乃に言っているはずなのに、視線はずっと私に向けられていた。

急に何もかもどうでもよくなった。

頷いて、「朔弥、もう私たち終わりにしよう」と言おうとしたとき、琴乃が弱々しい言葉を挟んだ。

「他のものなら何でも譲れる。

でも……私のことを愛人だなんて……それだけは、どうしても耐えられなくて……」

次の瞬間、私の腕を掴む彼の手の力がさらに強くなった。

声そのものは静かだった。

けれど、温度はもう完全に消えている。

「言いたいことがあるなら俺に言え。彼女をわざわざ傷つける必要はないだろ。

梓、謝れ」

いつの間にか、店内では何人もの客がこちらを見ていた。

面白半分に近寄ってくる人が増え、あっという間に小さな人だかりができる。

私は朔弥を見上げた。

「朔弥、私がこの子に謝るの?何に対して?」

朔弥は静かに言った。

「根拠もないのに、愛人扱いしたことに決まってるだろ」

「どこが根拠がないの?」

彼は答えなかった。

代わりに琴乃の手を取り、高く掲げた。

2人の薬指で、同じピンクダイヤモンドが照明を受けて輝く。

周囲がざわめいた。「え、あれってこの前オークションで落札されたピンクダイヤモンドじゃない?旦那さんが上限なしで落としたってニュースになってたやつ!」

「じゃあ普通に夫婦じゃん。結婚指輪までお揃いなのに愛人扱いとか、さすがにヤバくない?」

「オークションで上限なしで落としたってニュースにまでなってたのに、玉の輿狙うならそのくらい調べときなよね。よりによって奥さん一筋の男に手を出すとか、笑えるんだけど」

次々とスマホがこちらへ向けられ、目が開けられないほどフラッシュがたかれる。

私は、何も言えなくなっていた。

5年前、私と結婚したい一心で、朔弥は私の友人たちにまで頭を下げ、皆を巻き込んで大がかりなプロポーズを用意してくれた。

結婚式の夜には、薬指の指輪を何度も撫でながら、目を赤くしていた。

そして4年前、彼の浮気を知った私は離婚を切り出した。

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