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第0691話

Author: 十六子
隼人が駆け寄ってくるのを見て、雪菜は嫉妬と怒りに満ちた目で、力いっぱい瑠璃を斜面の縁から突き落とした。

「瑠璃、地獄に堕ちなさい!」

体のバランスを失った瑠璃は、足元が空を切り、そのまま斜面を転がり落ちそうになった――

「千璃ちゃん!」

隼人が長い腕を伸ばし、迷いなく彼女の手首をしっかりと掴んだ。

月明かりの下、瑠璃が顔を上げると、そこには不安に満ちた隼人の顔が浮かんでいた。

「千璃ちゃん……」

隼人は空中にぶら下がる瑠璃を見つめ、全力で引き上げようと力を込める。

「大丈夫だ、絶対に離さない。もう二度と、手放したりしない」

彼の声は決意に満ち、全身全霊を込めて彼女を引き上げようとした。

その光景を見た雪菜の目は、怒りで見開かれた。

絶対に助けさせたくない――そう思ったが、背後から複数の足音が近づいてくるのが聞こえた。

そして、あの10億円の身代金を持った仲間たちが先に逃げているのを思い出し、不満を噛み殺しながら走り去った。

人も片付けられず、お金まで失うなんて、そんな馬鹿な話があってたまるものか。

隼人の意識はただ一つ、瑠璃だけに向けられていた。世界がどうなろうと、彼の目には彼女しか映っていなかった。

瑠璃は、隼人が自分をこんなにも正確に、しかも迅速に助けてくれるとは思っていなかった。

だが斜面はあまりにも滑りやすく、必死に足を踏ん張っても、体は少しずつ滑っていく。

見上げれば、隼人の体まで自分の重みで一緒に引きずられていた。

「隼人、手を離して。私は大丈夫、最悪下まで転がるだけよ」

そう言って彼を安心させようとした。

だが、その時彼の目が鋭くなり、まるで誓うような声が響いた。

「俺の人生で一番の過ちは、お前の手を離してしまったことだ。幸せにできなかったことだ。碓氷千璃、よく聞け。俺は絶対に手を離さない。死んでも離さない!」

その言葉は熱いしずくのように、瑠璃の心にぽたぽたと染みこんでいった。

彼女は呆然と、苦悩に満ちたその顔を見つめた。しかし次の瞬間、彼女の身体がぐらつき、同時に隼人も引きずられて斜面を滑り落ちた――

その途中、隼人は身を翻し、瑠璃をしっかりと抱きしめた。

「隼人!瑠璃!」

ようやく追いついてきた邦夫と青葉は、二人が一緒に転落する光景を目の当たりにした。

青葉はその場に崩れ落ち、動けなくなった。

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