登入俺は青山アキト、25歳。会社をクビになり、かつてのエリート街道から転落して酒に溺れる日々を送っていた。そんなある帰り道、 VTuberのオーディションに落ちて落ち込んでいた「地雷系」ファッションの女子高生(8歳年下)と出会う。俺は彼女の夢を叶える手助けをすることにした。
查看更多正直に言えば、これまでの人生で、未来の自分の時間について考えることに膨大な時間を費やしてきた。
どのくらいかと言えば、二十五年という人生の中で、少年時代も青春時代も十歳のところで止まったままになっているほどだ。
もうすぐ三十路に差し掛かろうとしているのに、将来について迷っている若者たちのプレッシャーを、一部の親御さんたちよりもずっとよく理解できる。
まあ、似たようなことを経験してきたからだろう。
大人である自分たちの考えが間違っていると言いたいわけじゃない。自分たちの世代には自分たちの世代の考え方があるし、新しい世代には新しい世代の考え方がある。
俺はどちらの味方もしないタイプだ。ただ、選べるなら勝ち組の側につく。
青山アキトという人間がどんな人間かと聞かれても、うまく答えられない。しかし、
俺は自分がどんな人間で、どんな考えを持っているか、知っている。
そして、周りの人間にどうやって嘘をつくかも。
002「今日はなんでそんなしょんぼりしてんの」
体に悪いアルコールを注いでいるバーテンダーがそう言った。
今の俺は六本木のあるバーのカウンターで、犬みたいにぼんやり座り込んでいる。
次々と数を減らしていく歓楽街の中で、今俺が利用しているミッドナイト・ポリゴンは、日本の経済状況に真っ向から逆らうかのように開店してまだ数ヶ月しか経っていない店だ。しかし店内の雰囲気とここの飲み物は客を惹きつける魅力に溢れており、俺のように決まったものが好きな人間も例外ではない。
社会人になって二年が過ぎた俺にとって、仕事のストレスとプレッシャーは少しずつ積み重なっていき、気づけばいつも酒で終わっていた。
知り合いの中で、ほとんどの友人はとっくに出世している。大企業の役員になった奴もいれば、お坊っちゃん学校の校長になった奴もいるし、海外で働いている奴もいる。いつまでもパッとしない会社員でいるのは俺くらいだ。
変わりたいと思ったことは何度もある。しかしそのたびに、「お前には無理だ」という現実に顔面を叩かれてきた。
諦めているわけじゃない。ただ、こうのんびりだらだらした生き方も悪くないかと思うことがある。朝起きて、飯を食って、タクシーで会社に行って、夕方に帰る。たまに会社で寝ることもある。毎日そんな繰り返しだ。
そのうち俺も少しずつ大人になっていった。そして、一日中コンピューターにデータを打ち込みながら会議ばかりこなして、月給たった十万円しかもらえないことが、おじさんおばさんの言う「明るい未来のある良い生活」とはほど遠いものだと骨身に沁みてわかった。しかも、まったく楽しくない。
十万円が多く聞こえる人もいるかもしれないが、必要以上の規則で縛りつけてくる会社に軽いノイローゼになるほど追い詰められながらこなす仕事としては、正直もう限界だ。続けたい奴だけ続ければいい。俺はもうごめんだ。
しかし実際のところ、退職の手続きはできないままでいる。それは妹のせいだ。今ちょうど高校三年生として勉強に打ち込んでいる妹のことを思うと、踏み切れない。
俺より八歳年下のその妹は、深冬という名前だ。物静かで、あまり人と話さない。たいていは大事なことだけを口にする。
もう一つ気がかりなのも、やはり家族のことだ。俺と妹は二人暮らしで、俺が働いて妹の学費を一円残らず出している。しかし妹が中学に上がってから、性格がまるで別人のように変わってしまった。
かつての明るくて活発な子が、引きこもりがちで人と話さない子になってしまった。おまけに、俺たちが本当の兄妹かどうかさえわかっていない。
そう、十年来の付き合いでありながら、お互いが本当の兄妹かどうかを知らないのだ。俺が十六歳、妹が八歳のとき、おそらく母親であろう女性が、かわいらしい顔をした女の子を連れてきた。ちょうどおじさんとおばさんを亡くしたばかりだった俺に、その子を紹介したのだ。
そのとき彼女は妹にこう言った。「この人がいつも話してた、あなたのお兄ちゃんよ」。そして俺に荷物を預けて、「ちょっと仕事に行ってくるから、この子を一日だけ預かっててね」と言い残して出ていった。
あの「一日」は、もう十年が過ぎた。彼女が娘か息子(?)のところへ戻ってくる気配は、今もまったくない。当時まだただの子供だった俺は、その妹を引き取って育て、今では立派な若い女性になっている。
大人になってからやっとわかった。なぜあのとき母親が妹を俺に預けにきたのか。おじさんとおばさんが亡くなった後、子供のいなかった二人の遺産はすべて俺のものになっていた。家も、保険金も、土地も。そして青山の血筋の者たちはお互いに関わり合わないという取り決めがあったため、孫にあたる俺がその遺産を受け取ることになったのだ。
ただ、これはあくまで俺の推測に過ぎない。鵜呑みにしすぎないでほしい。現実はそこまで残酷じゃないかもしれないから。
「今日はクビになったんだよ。最悪」
俺は冴えない顔でそう言った。相手は店主でもあり俺の友人でもあるバーテンダー、康彦だ。同い年の友人の中では、俺を除けば社会的地位が一番低い部類に入る奴だ。もっとも「低い」といっても、商業地区で酒場を開いて一日の売り上げが五十万近くにはなるだろうが。
「次の仕事はどうするの」
相手はまるで俺の話を聞きたくないかのように淡々と聞いてきた。
「わかんない。こんなクビのされ方じゃ履歴書も使えないし」
日本でクビになるのは非常に恥ずかしいことだ。経歴に傷がつけば、家でゴロゴロするしかなくなる。
「フリーランスの仕事なら、お前にだってできるじゃないか。前に更屋敷のお嬢さんのところで働いてたじゃないか?」
「双葉のお嬢さんに頼り続けるのは嫌なんだよ。自分で何かやってみたい」
俺は人付き合いが広くて、気軽にどこにでも溶け込めるタイプだ。ある日、お坊っちゃん・お嬢さん学校に通っていた中学時代に、一人のお嬢さんと知り合った。更屋敷双葉という名前で、きちんとした雰囲気の愛らしい少女だった。彼女にとって、見返りを求めず自然に近づいてきた普通の人間としての初めての友人は、間違いなく俺だと断言できる。
仲が深まるにつれて、彼女はしょっちゅう俺に手伝いを頼むようになった。そのたびにいつも報酬をくれた。最初は何度もそれは友情とは違うと伝えたが、最終的には仕事と割り切って素直にお金を受け取るようにした。
「自分で何かって、あのパッとしない会社員のことか。たいしたもんだな」
康彦が皮肉っぽく言った。
「お前、バーテンダーになれたのになんでそんな口が悪いんだ」
「だってお前が、丁寧な言葉使われると鳥肌立つって言ったんじゃないか」
……それは確かに言った。
「それより、仕事を紹介してくれたりしないか?」
「何、俺の手下になりたいの?」
「それで食っていけるならいいぞ」
康彦はわずかに驚いた顔をしてから言った。
「お前みたいなレベルの人間が、こんな雇われ仕事に就くべきじゃないと思うけど」
俺が口を開く間もなく、相手は続けた。
「お前はさ……才能もあるし、人付き合いもうまいし、賢いし、物わかりも早いし……」
「ちょっと待て、何の話……」
「だから……みじめな顔すんなよ。本当のことを聞くけどさ、毎日腰を曲げて背中を固めて仕事するのが良いと思ってるの? お前、昔、VTuberの会社の社長になるって言ってなかったっけ?」
「よく中学のときの夢みたいなこと、まだ覚えてるな」
014「えっと……コスプレ、すごくいいですね……」 突然、お客さんの前に割り込んできた男がいた。見た目は普通の高校生くらいだったが……「あの……少し待ってもらえますか……今、お客さんの対応中なので」「はい……」 そいつは列の後ろへ戻った。まあ……よくいる非常識なタイプだろう。「悠太……列を整理してくれないか……終わったら俺とアキラちゃんの横に来てくれ」「はい……」 やれやれ……こういう変な人間にはイベントで何度か遭遇してきたが、また会うたびに何をしてきたのかと思ってしまう。 その男の番が来た。「えっと……何冊買いますか?」「その……買わないんですけど……コスプレがすごく好きで……写真を撮っていいですか?」「ああ……いいですよ!」 写真を撮った。まあ、ちゃんと列に並んでくれたから文句はない。「入場料って高いですよね……千円もするし」「それはそうでしょう……東京の真ん中ですし……このクラスのイベントともなれば」「そうですか……」そしてまた列に戻っていった。「あの……僕、お金がないんで……本、ちょっと高くないですか?」「そりゃ制作費がかかってるんで……四百冊ですし……」「でも他のところは安いですよ……表紙の見た目からしても、二百円で売れると思うんですが」 何を言ってるんだこいつ……「お前、自分で売ったことあるか?」「ないですけど……でも好きな作家さんに聞いたら、その値段で売ってたって」「じゃあ、いくらなら買う?言ってみろ……値引きするから」「やっぱり高いんで……タダでもらえないですか?」 は……この中二病め……「できない……他の人は買ってるんだから……タダにしたら全員タダにしないといけなくなる」「じゃあいらないです……」 そしていなくなった。しかしすぐに戻ってきた。「値引きしてもらえますか?」「……350円にするよ」「いらないです……タダでもらえますか?……入場料が無料なら買ったんですけど……コミケが千円取るのが悪いんです。今は一円も持ってないんで」 本気で聞きたい……こいつは他の人みたいに普通に買うという選択肢がないのか?「じゃあ先に持っていって後で振り込んでもらえますか?」「それはできない……そんなことをしたら全員にそうしないといけなくなる……ダメダメ」「わかりました……次の方どうぞ……」
013 着替えが済んだ俺たちは、それぞれのブースへ向かった。悠太たちはちょうど売り台の準備を終えたところだった。「すごい……まるで別人みたいだな」「本当に……生地の縫製も綺麗だし……さすがアキラちゃんだな」 着替え終わった女の子たちがブースに集まって話していた。すでに何人かのコスプレイヤーがコスエリアへ向かい始め、作家さんたちも台の準備を始めていた。俺はヒナコちゃんコスの菅原とペアで琴雪くんをコスし、まゆりは『フェイト サムライレムナント』の由井正雪に扮していた。「三人とも和風テーマだな」 悠太が俺たちの写真を撮りながら言った。「難しいかと思ったけど、着るのは思ったより簡単だったな」「ところで……そのピアス、つけたままなんですか」 ハルくんが指摘した。たしかにキャラクターはピアスをしていないが……ピアスが多いので外すのが面倒くさい。「このままでいいよ……外すのが大変なんだから」「あの、みなさん……そろそろ始まりますよ……」 アキラちゃんが台を整えながら言った。それを聞いた菅原とまゆりはそれぞれ離れていった。「写真を撮りに行かないんですか?」「二人に台を任せっぱなしにするわけにはいかないだろ……どちらか二人についていてやれ」「えっと……じゃあハルくん……二人の付き添いに行こう……」「いいよ……写真も撮ってきてあげるよ」「頼む……」 本当に仲が良い……これが青春の友情というものか。 俺も持ってきた本を台に並べた。アキラちゃんも同じように並べていた。「ところで……お前ってBL系が好きなのか?」「えっと……はい……その……好きなんです……」 女装するのが好きな子だから、それとなくはわかっていたが。 俺は二人にしか聞こえないよう、小声で話しかけた。「お前……男が好きなんだな……」 彼はうつむいたまま顔を真っ赤にした。かわいい。しばらくして、小さくうなずいた。「そうか……いいじゃないか」「え?……」「正直に言うと……お前はかっこいいと思うよ……女装してるのも、同性が好きだからなんだろ……俺が学生だった頃は、あまりオープンにしてる人はいなかったからな」「……はい……」「まあ……とにかく、今日は一緒に頑張ろうか」「はい!!」 そして会場が始まった。男女を問わず来場者が途切れることなく押し寄せてくる。まるで人の波だ。
012 日曜日の朝七時。菅原のアパート前に集合し、荷物を車に積み込んでコミケへ出発の準備を整えた。「…………」「…………」 集まった全員が固まっていた。「どうしたんだ……早く乗れよ……」「あの……アキトさん、先に乗ってくださいよ……運転手なんですから……」「……わかった……」 みんな俺と同じことを考えていたわけだ……当然か……こんな高級車、普通の人間が気軽に乗れるわけがない。「あの……この車って、合法的に輸入されたものですよね?」 まゆりちゃんが青ざめた顔で聞いてきた。「だから言っただろ……ビジネスをしてる友人のものだって……」 ヤクザのトップの車だとは流石に言えない…… まゆりが一番後ろの席に乗り込んだ。「えっと……じゃあ僕も後ろに行きます……」 アキラちゃんが二番目に乗り込んだ。「悠太とハルは後ろに乗れ……」「「うっ……」」 この二人も相当なもので……表情を見れば帰りたくて仕方ないのが丸わかりだった。 菅原は助手席に座った……まるで本物の家族でドライブに行くみたいだ。そうして車を出した。「静かだな……」「高級車ってこんなもんですよ……ところで……」 乗り込んだとき、妙な気がした。「何ですか?」「アキラちゃん……さっき自分のことを『僕』って言ってたか?」「はい……あの……何かおかしいですか?」 あれ……待ってくれ……女性が「僕」という一人称を使うことは珍しくないが。「え……アキトさん、知らないんですか?……アキラちゃんって、男の子なんですよ……」「「「はあ!!!」」」 まさか……あのアキラちゃんが男の子?……あんなに可愛いのに……しかも女装まで……「ちょっと待って……二人も知らなかったのか!?」 悠太とハルの方を振り向いた。「女の子の格好してるんだから、わかるわけないじゃないですか……」「俺も同じ気持ちです……」 本当に……でもこんなに可愛い男の子が甘えてきたりしたら…… 待て!俺には菅原がいるぞ!「まあ……その通りですけど……僕は男です……」「「「うっ!!」」」 彼が……いや、彼は言いながら上目遣いで甘えるような表情をした……ものすごく可愛い!今すぐ抱きしめたいくらいだ! 悠太とハルも恐らく同じことを考えているだろう。「あ!この車、映画も観られるモニターがある!シートも柔らか
011「よ……バルちゃん」 [あれ……誰かと思えば、お前か] 水曜日の朝、お客さんのところへ行く前に……学生時代の別の親友に電話をかけた。彼は少し変わったところがある……でも、性格が変わっているわけじゃない。「お前はまた番号変えてるし……やっと繋がったと思ったら、西尾に頭下げて番号聞き出さないといけないんだから……」 [しょうがないだろ……俺の社会的立場上、同じ番号をずっと使うわけにはいかないんだよ] そう……この友人、久志昴は、関東一帯に影響力を持つ久志組のトップだ。これほどの勢力を誇るのは、他の組がすべて消えてしまったからでもある。先ほど名前の出た西尾は、今は恋人のキヨミちゃんと二人で私立探偵をやっている後輩だ。なかなかかっこいいコンビだと思う。「更屋敷のお嬢さんもそうだよ……まあいい……ところで車いっぱい持ってるだろ?……一台貸してくれないか……子どもたちをコミケに連れていこうと思って……」 [まあ、いいけど……お前、免許持ってるよな?……もし警察に止められて車の出所を調べられたら、生かしておけないからな……] 静かに人を脅すこの喋り方……まったく変わってないな。「とっくに取ってるよ……心配しなくていい……それで、貸してくれるよな?……」 [ファミリーカーならあるけど……夕方に取りに来ればいいよ……]「ああ……あと、忘れてた……十七日に、星野の結婚のお祝いを兼ねた集まりを家でやろうと思ってるんだ。できれば来てくれないか……」 [そうか……もう結婚式も近いな……旧友にもずいぶん会ってないし……あ、この!……リタ!……パパ、電話してるんだぞ!]「え……」 [あ!アキトおじさん!!……うちに来るの!?]「おお!リタちゃん……久しぶりだな……声を聞く限り、ずいぶん大きくなったみたいだな……ママは元気にしてるか?」 [うん!ママ、最近ずっとよくなってるよ……最近はみんなでピクニックにも行ったんだよ!!]「いいなあ……おじさんも行きたかったなあ……」 少し電話を奪い合うような音がして…… [ごめんな……最近、毎日おじさんに会いたいって言ってるんだよ……]「ああ……わかるよ、子どもってそういうもんだから……じゃあ夕方に行くよ……いろいろお願いすることもあるし……」 [うん……夕方にな……こら!……リタ……] [またねー!!!