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第0931話
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目黒様に囚われた新婚妻 第0946話
恋華は踵を返してその場を離れようとした。だが、その時――個室の入口から、彰が現れた。彼の視線が裸同然の姿で男たちと乱れている零花を捉えた瞬間、彰は完全に凍りついた。驚愕の表情でその場に立ち尽くす。しかし零花の方は、彰を見てさらに興奮したように笑い声をあげた。「彰くん〜、あなたも一緒に楽しみましょうよ〜」彰は潔癖症だった。普段から、自分の車に他人を乗せることさえ嫌がる男。ましてや今、自分の婚約者が複数の男たちと淫らに絡み合っているなど――考えるだけで吐き気を催すような光景だった。彼の顔色は一瞬で真っ青になり、何も言わずに踵を返してその場を去ろうとした。恋華が慌てて彼を呼び止める。「零花ちゃんのこの様子……明らかに誰かに薬を盛られたのよ！彰、まさかこのまま黙って帰るつもり？彼女をこんな目に遭わせた奴を見逃すの！？」「……薬を盛られた？」彰の足が、その場でぴたりと止まった。恋華は一瞬の躊躇もなく矛先を瑠璃に向ける。「もちろんそうよ！今の零花ちゃんが正気に見える？あんたもわかるでしょう？今日、彼女が誰と一緒にいたか知ってる？きっとそのとき、変なものを食べさせられたのよ！」……今日、一緒に？彰の脳裏に浮かんだのは、つい数時間前のことだった。「さっきまで、目黒夫人とレストランで会っていたはずだ」「目黒夫人？碓氷千璃のこと？」恋華は待ってましたと言わんばかりに言葉を重ねる。「それなら説明がつくわ。零花ちゃんって前に、婚約指輪のデザインのことで千璃と揉めていたじゃない。どう考えても……あの女が零花ちゃんに薬を盛ったのよ！」「……そんなはずない。彼女がそんなことをするはずがない」彰は即座に否定した。「じゃあ、他に誰がいるっていうの？まさか、零花ちゃんの言うことを信じないで、千璃の方を信じるつもり？」恋華はあえてそう問い詰めた。彰は黙ったまま眉間を深く寄せ、目の前でまだ男たちと絡み合っている零花の姿に視線を向けた。――もう見ていられなかった。彼はテーブルにあった冷水の入ったボウルを手に取り、そのまま零花の顔めがけてぶちまけた。零花は一瞬きょとんとした表情を浮かべたが、すぐにまた顔を紅潮させ、手足をもがくように動かしはじめた。それを見て恋華はすぐに数人の男を追い出し、急いで毛布を持って
目黒様に囚われた新婚妻 第0945話
「この女か？」「けっこうイケる顔してるじゃん」「じゃ、始めるか！」数人の男たちが、零花を囲んだ。零花は何かがおかしいと気づいた。けれど、自分の身体は言うことをきかなかった。男たちの顔はどれも醜く、見るに堪えないほどだったが――その瞬間の彼女にとって、そんなことはどうでもよかった。重要なのは「彼らが男だ」ということだった。今の彼女は、ただただ男を求めていた。この抑えきれない欲望を解消するために――。一方、個室を出た瑠璃は、数人の男たちが零花のいる部屋に入っていくのを目にしていた。彼女は、これは零花が仕掛けた罠だと予感していた。案の定、まだこのクラブを出る前に、携帯には次々と刺激的な見出しが飛び込んできた。景市のある名門令嬢が、複数の男たちと個室で乱れているという内容で、しかもその令嬢が碓氷千璃であるかのようにほのめかしていた。瑠璃は無言でひとつのライブ配信をタップした。そこに映し出されたのは――さっきまで彼女がいた個室。そしてその中で、男たちと裸の零花が、目を覆いたくなるような行為にふけっていた。画面の中の零花は、見るも無残なほど奔放で、表情は陶酔しきっていた。日頃の淑やかで上品なイメージとはまるで別人だった。その光景を見た瞬間、瑠璃の手は怒りでわずかに震えていた。――もし、もしも自分が罠を気づかなかったら。あの場にいたのが自分だった。今ごろ、ネット中に自分の醜態が晒され、世間の嘲笑と軽蔑の的になっていたに違いない。プライドを踏みにじられ、名誉も人生も、全てを失っていたかもしれない。瑠璃はスマホを強く握りしめ、その瞳には澄んだ冷静な光が宿っていた。恋華――あなただったのね。零花を使って、私に罠を仕掛けたのは。でも、恋華。あなた、私のことを甘く見すぎたわ。……そのころ、ネット上では動画が瞬く間に拡散され、大炎上となっていた。恋華はPCの前に座り、画面に映るヒロインを見た瞬間、目を大きく見開いた。「……なに、これ？！？」彼女は怒鳴り声を上げ、即座に配信を止めるよう各所に指示を飛ばした。そして慌てて零花に電話をかけたが、通話は繋がるものの、相手が出る気配はなかった。「shit！！」怒りで拳を机に叩きつける恋華。すぐさま会所へ向かい、個室のドアを乱暴に開け放った
目黒様に囚われた新婚妻 第0944話
しかし彼女が指定のレストランに到着すると、そこにいたのは零花ひとりだけだった。零花は歩み寄ってくる瑠璃を見つけると、わざとらしく穏やかで上品な笑顔を浮かべてみせた。だがその瞳の奥には、抑えきれない嫉妬と羨望、そして敵意が渦巻いていた。碓氷千璃――この女は、良家の出身で、良い男と結婚し、子どもにも恵まれ、社会的地位もある。しかも出産からわずか一ヶ月余りで、あの妖艶なプロポーションを取り戻している。そして絵に描いたような美しい顔――今や、景市一の美女とも称されているらしい。瑠璃は、零花を見るだけでその裏にある下心を察していた。だが、彰の顔を立てて席に着いた。「目黒夫人、すみません。彰くんは急な用事で席を外しました。この前、私の家での件……どうか気にしないでください。今日はちゃんと謝りたくてお呼びしましたの」零花はウェイターに合図して、赤ワインを一本開けさせ、瑠璃のグラスに少量を注いだ。「横坂さんが謝罪のためにお呼びくださったのなら、謝罪は受け取ります。でも、他にも予定がありますので――これで失礼します」そう言って立ち上がろうとした瑠璃を、零花が慌てて引き留めた。「目黒夫人、デザイン図の件、本当にすみませんでした。今日は、その細かい部分を少しだけご相談したかっただけなんです。すぐ終わりますから」そう言った直後に、零花のスマホが鳴った。彼女はさっと電話を取って言った。「彰くん、今ね、目黒夫人と話してるから。心配しないで」この会話のやり取りで、瑠璃もすぐに察した。零花は彰の名前を口実に、自分をここへ誘い出したのだと。零花はiPadを取り出し、以前瑠璃が送ったデザインデータを表示した。「すぐに終わる」と言っていたはずが、彼女は延々と細かい要望を語り続けた。瑠璃はプロとして、全ての要望を丁寧にメモした。一通りやり取りが終わると、彼女は席を立ち、お手洗いへ向かった。実は――零花は、この瞬間を狙っていた。バッグから、恋華に渡された小さな薬のカプセルを取り出すと、それを開け、微量の粉を瑠璃の赤ワインにさっと振りかけた。そして何もなかったかのようにスマホをいじり始めた。やがて瑠璃が戻ってくると、零花は微笑みながらすすめた。「目黒夫人、ずっと話し込んでて、かなりお疲れでしょう？少しお食事をして、このワインも
目黒様に囚われた新婚妻 第0943話
恋華は貪るような視線で、隼人の体を見つめていた。その長身で均整の取れた肉体は、トップモデルと並んでも見劣りしないほど完璧だった。彼女が最初に惹かれたのは、その外見。そして次に、彼の身に纏う深い情感と圧倒的な存在感だった。この数ヶ月、彼を手に入れるために、恋華は人も金も惜しまず注ぎ込んできた。そして今夜――ついにその時が来たのだ。隼人はランニングマシンを降り、近づいてくる恋華を見やった。だが、その心は驚くほど冷めきっていて、微塵のときめきさえなかった。恋華は煙草を灰皿で揉み消すと、隼人の正面に立ち、艶めいた目で彼を見つめ、そっと目を閉じた。隼人はその姿をしばらく見つめた後、手を伸ばし、恋華の後頭部にそっと触れた。けれど――どうしても、顔を近づけることができなかった。脳裏によみがえったのは、あの夜、四月山の海辺で瑠璃と交わしたキス。あのときはただの計算だった。ただ、唇を軽く触れさせるだけのつもりだったのに――彼女の唇に触れた瞬間、全身の細胞が沸き立ち、気づけば長く深いキスをしていた。恋華は、隼人のキスをじっと待っていた。けれど、どれだけ待っても彼の唇は降りてこない。違和感を覚えて目を開けると、隼人は眉をひそめ、彼女から手を離していた。「光？」隼人は冷ややかに彼女を見つめ、一言だけ言い放った。「……また今度だ」そう言うと背を向け、バスルームへと姿を消した。恋華はその場に取り残されたまま、煮えたぎる怒りを抑えきれなかった。三ヶ月――毎日一緒にいたのに、隼人は一度も彼女に触れようとしなかった。手を繋いだことすらない。記憶を失っていても、彼の身体はまだ覚えているのだ。自分が本当に求めている女が、誰なのかを。恋華は四月山でこっそり撮影した写真を取り出した。そこには、隼人が瑠璃にキスしている姿が写っていた。その表情は真剣で、未練がましくて――それを見た瞬間、彼女は激しい嫉妬に駆られ、スマホを窓の外に投げ捨てた。だがそのスマホは、ちょうど訪ねてきた零花に直撃した。零花は地面に落ちたスマホを拾い、二階のジムへと向かい、恋華が怒っている理由を聞き出した。「そんなに怒ってどうするの？恋華様ともあろうお方が、感情的になるのは品格が下がるわよ」零花は陰湿な笑みを浮かべ、ひと言ひと言に毒を含ま
目黒様に囚われた新婚妻 第0942話
彼女は痛ましげに彼を一瞥すると、ためらわず背を向けた。だが、一歩も歩かないうちに、首筋を冷たい男の掌で掴まれ、瑠璃は無理やり振り向かされ、そのまま彼の目前へと引き寄せられた。男の深く澄んだ瞳が、夜のような闇となって彼女の視界を覆う。「わかってるのか？その態度は、自分の命を縮めるだけだ」「それで……私を殺すつもりなの？佐々木さん」瑠璃は臆することなく、その鋭く冷たい瞳を真正面から見返した。その美しく澄んだ秋水のような瞳が、隼人の目の中に映り込み、一瞬、彼の心をかき乱した。だが、すぐに我に返り、視線を瑠璃の目に定めた。「安心しろ。お前を殺しはしない。ただ――間違った相手に逆らうと、どうなるか教えてやる」冷酷な言葉が、感情のない声色で彼の唇から放たれた。そして彼は彼女を拘束していた手を放し、未練の欠片も見せずに車に乗り、その場を去った。瑠璃は、完全に恋華に洗脳されてしまった隼人の背中を、失望と共に見送った。その余韻が冷めるとすぐ、彼女は急いで赤ちゃんの部屋へと駆け戻った。保育器の中で、赤ん坊がまだ安らかに眠っているのを見て、ようやく安堵の息をついた。一方その頃、隼人は恋華が景市に購入した別荘へと戻っていた。到着すると、すぐに使用人がやってきて彼に伝えた。「恋華様は十分後に空港に着かれます。お迎えをお願いします」隼人は空港へと向かった。飛行機を降りた恋華は、隼人を見つけるとまるで花に群がる蜂のように勢いよく飛びついてきた。だが、その行動をスマホの着信が遮った。恋華はちらりと画面を見て、明らかに不機嫌そうに通話に出た。「お兄ちゃん、私だってちゃんと分かってるから。そんな暇あるなら楓のこと見張ってきてよ。いい商売捨てて、慈善事業だなんて。あんな孤児のために金ばらまくとか、正気じゃないわ」苛立ちまじりに電話を切ると、傍にいた部下に運転を命じ、隼人の腕を引いて後部座席に乗り込んだ。「光、ひと月も会えなかったのよ。どれだけ会いたかったと思う？」恋華は顎を隼人の肩に預け、すぐそばの整った横顔を見つめながら甘く囁いた。「例の千璃、ちゃんと片づけた？」隼人は目を上げ、車窓の外を見つめた。「お前に手を出すやつは、誰ひとり許さない」その力強い言葉と、彼の支配的な雰囲気に恋華は心底嬉しそうに微笑み、長
目黒様に囚われた新婚妻 第0941話
「隼人」瑠璃は嬉しそうに顔をほころばせた。「赤ちゃんを見に来てくれたの？」隼人はその穏やかな笑みを浮かべる瑠璃を一瞥すると、無表情のままガラス窓の前まで歩み寄り、保育器の中で眠る新生児たちに目を向けた。そして薄く唇を開いた。「どれが、お前の子だ？」その声には、感情のかけらもなかった。それでも瑠璃は微笑んで答えた。「一番奥の列の、二番目。いちばん小さな子よ」彼女の瞳には喜びが溢れ、細い指で眠る小さな赤ちゃんを指差した。「男の子なの。きっと将来は、あなたに似ると思う」「お前の子が、俺に似るわけないだろ」突然の言葉が、冷たい水のように瑠璃の胸を直撃した。彼女は驚いたように、氷のように冷たい隼人を見つめた。「隼人？」「まだ夢を見ているのか？お前の夫はとっくに死んだ」無慈悲な言葉は鋭利な刃のように、瑠璃の心を容赦なく突き刺した。その言葉を受けて、彼女はゆっくりと拳を握り、気持ちを必死に落ち着けると、かすかに笑った。「で、佐々木さんが今ここにいるのは何のため？まさか、私の息子を見に来たってわけじゃないでしょ？」隼人は小さく笑った。「お前の子供なんか、どうでもいい。ただ、目標を確認しに来ただけだ」「……何んだって？」ようやく落ち着きを取り戻しつつあった瑠璃の顔色が再び曇る。「どういうこと？」隼人は何も答えず、意味深な笑みを浮かべたまま赤ちゃん室の扉へと歩いていった。万能キーを使って鍵を開けると、彼は迷いなく瑠璃が先ほど指差した赤ちゃんのもとへ向かった。「隼人！？何をするつもりなの！？」瑠璃は慌てて中へ駆け込み、彼が保育器を開けて赤ちゃんを抱き上げようとするのを見て、全力で引き離した。そして眠る赤ん坊をしっかりと抱きしめ、体で守った。彼女の強い拒絶に、隼人は手を差し出した。「渡せ」瑠璃の目は、鋭く強い意志に満ちていた。「隼人、あなたは私のことを忘れてもいい。でも、今自分が何をしているか、少しは胸に手を当てて考えてみて」「俺の行動を、お前にどうこう言われる筋合いはない。子供を渡せ」隼人は冷酷なまでに強硬だった。瑠璃は、彼の暗い瞳を見つめながら、痛切な表情を浮かべた。「隼人……どうしちゃったの？この子はあなたの血を引いた子よ。……まさか、また恋華があな
