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第5章:ついに去る

Autor: Noona Aurora
last update Fecha de publicación: 2026-09-06 14:05:33

東の空にオレンジ色のグラデーションが広がり、朝の太陽が昇り始めた頃、ブラックウェル邸の廊下にある大きな掛け時計は7時45分を指していた。

ダミアンは胸の奥を重く押しつぶすような不快感とともに目を覚ました。一晩中、熟睡することができなかったのだ。離婚届に記されたシエナのサインの残像が、頭から離れなかった。

ダミアンは思考を乱す雑念を無理やり振り払った。ベッドから起き上がるとすぐにシャワーを浴び、ワイシャツに袖を通すと、普段より少し急ぎ足で階下へと向かった。

「ジョアナ!」

リビングに到着するなり、ダミアンは叫んだ。彼は屋敷の執事長を探していた。

返事はなかった。屋敷の中は恐ろしいほどに静まり返っており、まるで全てのエネルギーが吸い取られてしまったかのようだった。

ダミアンが厨房へ向かうと、ダイニングテーブルのそばに暗い表情で立ち、目を少し腫らしているジョアナを見つけた。

「シエナはどこだ?」

胸を締め付け始めた胸騒ぎを追い払おうとするかのように、ダミアンは問いただすようなトーンで尋ねた。

ジョアナは言葉で答えなかった。その年老いた女性は、少し震える手でダイニングテーブルの方を指さしただけだった。

ダミアンは近寄った。清潔に磨かれた大理石のテーブルの上に、濃い青色の書類ファイルが置かれていた。

ファイルの上には、屋敷の門の鍵、一度も使われていないため綺麗なビニールに包まれたままのブラックウェル・グループのブラックカード、そして手書きの小さなメモが残されていた。

ダミアンはそのメモをひったくった。

『ダミアンへ

7時30分ちょうどで、私たちの1年間の契約は満期を迎えました。母の家の所有権書類はすべて独立した公証人を通じて法的かつ綺麗に処理を終えていますので、今後ブラックウェル・グループにご迷惑をおかけすることはありません。

私がサインした離婚届はこのファイルの中に入れてあります。弁護士に渡して裁判所での手続きを進めてください。この1年間の対価として、私にとっては幼少期を過ごしたあの家だけで十分すぎるほどですので、何一つ請求いたしません。

これまでのご協力に感謝いたします。ブラックウェル・グループの益々のご発展をお祈り申し上げます。

シエナ・ヘイズ』

ダミアンは手にしていたメモ用紙を、ぐしゃぐしゃに握りつぶした。彼の瞳には鋭い光が宿り、そこには深い困惑と信じられないという思いが入り混じっていた。

「いつ出て行ったんだ!?」

静まり返った食堂に、ダミアンの怒声が響き渡った。

「奥様は……若奥様は15分ほど前に出られました、旦那様」

ジョアナは震える声で答え、目から涙をこぼし始めた。

「お屋敷の運転手に送らせることもお断りになり、小さな段ボール箱ひとつと古いスーツケースひとつだけをお持ちになって、タクシーを拾うために表門の方へ歩いて向かわれました。お引き留めしようとしたのですが、若奥様はただ微笑んで私を抱きしめてくださり……」

ダミアンはジョアナの言葉の続きを聞いていなかった。彼は素早く身を翻すと、大股で玄関へ向かい、高級住宅街の表門を目指して走り出した。

静かなアスファルト道路の上に、彼の急ぎ足の足音が荒く響いた。

しかし、表門の前に辿り着いたとき、目の前の大通りはすでに朝の交通量で溢れかえっていた。シエナの姿などどこにもなかった。彼女を乗せたタクシーは、すでに都市の喧騒の中に溶け込んでしまっていた。

シエナは去ったのだ。何の声も立てず、ドラマも起こさず、あの豪華な屋敷に何の感情の痕跡も残さずに、完全に去っていったのだ。

ダミアンは肩で息をしながら道路の端に立ち尽くした。手の中のスマートフォンを握り締め、すぐにシエナの番号をダイヤルした。

『おかけになった電話番号は、現在使われていないか、電波の届かない場所にあるため――』

オペレーターの女性の声が、ダミアンの耳には嘲笑のように聞こえた。彼はゆっくりと携帯を下ろした。35年の人生で初めて、ダミアン・ブラックウェルは自分の立っている足場を失ったような感覚に襲われた。

これまで自身の人生の片隅に置かれた「飾り物」に過ぎないと思っていた存在が今や消え去り、胸の中に恐ろしいほど大きく冷たい空洞を残していったのだ。

一方、その高級住宅街から離れて走るタクシーの後部座席に、シエナは座っていた。彼女は窓の外を眺め、高層ビル群が徐々に密集した住宅街へと移り変わっていく光景を目にしていた。

古いスマートフォンはすでに電源を切り、SIMカードもへし折っていた。代わりに、財団の信頼できる数人にしか教えていない新しい番号のカードに差し替えてあった。

シエナの手は、ポケットの中にある小さな鍵に触れていた。郊外にある亡き母の残した古い家の鍵だ。そこで彼女は小さなカフェと子供たちのための読書スペースを始め、ゼロから自分の事業を立ち上げるつもりだった。

シエナは安堵の息を吹き出し、唇を微かにほころばせた。一年ぶりに、胸の押しつぶされるような苦しみが消えていた。彼女は自由になったのだ。

ダミアンの屋敷にて。

ダミアンはダイニングの椅子に体を落とし込んだところだった。左手で、突如として激しく痛み出した額を押さえている。その視線は、シエナが残していったファイルに注がれていた。

指先でこめかみをゆっくりともみほぐしてみたが、頭の中に不意に現れた痛みを消し去ることはできなかった。

なぜ自分は、わざわざシエナを追いかけたりしたのだろうか? 頭がおかしくなったのだろうか?

これこそが合意内容だったのではないか? あの女は何の未練もなくこの家を去ったというのに、自分は走ってまで何を追い求めようとしていたのか!

ダミアンがほんの数秒間の静寂を感じていたとき、けたたましくドアが叩きつけられる音が彼を驚かせた。

ダミアンの視線は、大急ぎで家の中へ入ってきたビアトリスとエレナに向けられた。

「ダミアン、シエナが最後に出て行ったというのは本当なの?」

ビアトリスはどこか信じきれないような視線をダミアンに向けた。

「やっと出て行ったのね。いつまでも私たちに寄生しないで済むだけの弁えは、まだ残っていたみたいね」

エレナはそう口にすると、胸の前で腕を組んだ。

ビアトリスはただ黙っているダミアンを見つめ、再び問いかけた。

「これからどうするつもりなの? ビビアンのもとへ戻るの? 彼女がせっかく帰国したのだから、このチャンスを無駄にしては――」

「黙れ」

ダミアンの声は極めて低かったが、ビアトリスとエレナを一瞬で黙らせるほどの威嚇に満ちていた。

ビアトリスとエレナは顔を見合わせ、言葉を失った。二度は口を開く勇気が出なかった。

ダミアンは母と妹のほうを見ようともしなかった。

彼の視線は、食卓の上の青いファイルだけに向けられていた。彼はそのファイルをつかみ取ると、ビアトリスとエレナを無視して、自身の執務室へと足早に向かった。

執務室に入ると、彼はそのファイルを一番下の引き出しに投げ込み、厳重に鍵をかけた。

「俺はサインなどしない」

ダミアンは、今鍵をかけたばかりの引き出しを見つめながら低く呟いた。

胸の中にある否認の感情は、未だに負けを認めることを拒んでいた。

「勝手に出て行けると思うなよ、シエナ。俺たちの関係はまだ終わっていない。この家から出て行っていいかを決めるのは俺であって、お前ではないんだ、シエナ」

ダミアンの手が固く握りしめられた。彼は、自分が知らぬ間にシエナに奪われていた主導権を、何としてでも取り戻さなければならなかった。

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