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第350話

Author: 連衣の水調
1106号室、1106号室……

そこは、湊の病室じゃないか。どうして、それが野崎胤道の病室に?

間違いなく、湊だった。さっきまで、自分はそこにいたのだ。まさか……

静華の顔から血の気が引いた。恐怖に、目を見開く。

新田湊と、野崎胤道は――同一人物。

静華は失神したようにその場に立ち尽くし、体から力が抜けていくのを感じた。動けない。その結末は、あまりにも息が詰まるものだった。

しかし、よく考えてみれば、ありえない話ではなかった……

湊はずっと、話せない人間として現れている。そして自分は、目が見えない。

胤道を見破るための、二つの手段が、どちらもなかったのだ。だから彼は、見知らぬ他人になることができた。

アレルギーの件も、よく考えてみれば、彼が胤道だったからこそだ。ニュースで胤道が入院したと報じられた直後、湊も入院した。どうして、こんな偶然があるだろう。

偶然だと思っていたのに……

静華は、現実に冷たい平手打ちを食らったようだった。痛み以上に、騙されていたことへの悲しみが、胸を締め付けた。

湊は偽物で、彼の優しさも、すべて嘘だった。静華は下唇をきつく噛みしめ、気づけば、壁に手をつきながら、涙を堪えて外へと歩き出していた。

逃げる!

今、頭の中には、その一言だけが深く刻み込まれていた。遠くへ、どこまでも遠くへ。どこでもいい、ただ、胤道から離れられれば!

「森さん?」

不意に、ちょうど休憩を終えた棟也と鉢合わせになった。

彼は歩み寄り、戸惑ったように言った。

「森さん、どうしてここに?さっき、偶然お見かけしたんですが、見間違いかと思いました。どこかへ行かれるんですか?」

今の棟也の親切で優しい態度は、静華の体を、より一層冷たくさせるだけだった。彼女は歯を食いしばり、前へ進み続けた。

「森さん?」

棟也はますます戸惑い、彼女の手首を掴んだ。次の瞬間、静華はその手を振り払い、その目には強い恐怖の色さえ浮かんでいた。

「触らないで」

「何があったんですか?」

静華のこの豹変ぶりは、どう見ても尋常ではない。棟也は訳が分からなかった。

「湊のやつに、何かされたんですか?」

この期に及んで、まだ白々しい演技を。

静華の呼吸は乱れていた。もし今日、この場面に居合わせなかったら、自分は一生騙されたまま、湊のことを、無私で自分に尽くしてく
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