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第173話

Author: 雲間探
ホテルに着くと、向こうから歩いてくる大森家と遠山家の人々を見て、玲奈は無表情だった。

礼二は小さく舌打ちしながら呟いた。「縁起が悪いってやつだな」

大森家と遠山家の面々は礼二を見て、明るく声をかけてきた。

正雄が笑いながら言う。「湊さん、またお会いしましたね」

礼二も薄く笑って返した。「ええ、また会いましたね」

正雄はさらに言った。「せっかくお会いしたことですし、ご一緒にいかがですか?」

先ほど電話で礼二を食事に誘おうと思っていた正雄は、今こうして偶然出くわしたチャンスを逃したくなかった。

だが、礼二はさらりと断った。「結構です。今はプライベートな時間なので。またの機会に」

「そうですか……では、また今度」

礼二がそう言う以上、正雄も強くは出られなかった。

礼二は軽く頷いて、玲奈に言った。「行こう」

玲奈も頷き、大森家と遠山家の人々に一瞥もくれず、そのまま彼と共に上階へと向かった。

玲奈と礼二が去っていく後ろ姿を見つめながら、律子は眉をひそめた。「優里ちゃんの話じゃ、礼二は玲奈のせいで彼女に対していつも冷たいらしいけど、今回の長墨ソフトのプロジェクトでも、あの女のせいでうちとの協力を避けようとしてるんじゃないの?」

礼二の冷淡な対応を見る限り、その可能性は確かにあった。

佳子は淡々と言った。「長墨ソフトの二つのプロジェクトの入札まではまだ時間があるし、まだ何も決まっていない以上、どう転ぶかはわからないわ」

満は笑いながら言った。「その通りだよ。前に優里ちゃんと智昭のことも、藤田おばあさんの反対でなかなか進まなかったのに、今じゃ状況が変わったじゃないか?だから、希望を捨てることはないさ。まだまだチャンスはある」

満が言う転機とは、智昭と玲奈の離婚の話だ。

その話題になると、遠山おばあさんは上機嫌になった。

この件については、彼たちと優里本人も知らなかった。

清司がふと優里に話したことで、ようやく知ったのだ。

あとから聞いた話では、離婚届がすぐには受理されず、智昭は優里に余計な心配をかけたくなくて、証明書を手に入れてから伝えようとしていたらしい。いわば彼なりのサプライズだった。

それを思い出して、遠山おばあさんは笑いながら言った。「智昭は前からずっと離婚したがってたし、優里ちゃんが彼を助けようとして怪我までしたんだ。今じゃ藤田お
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Comments (5)
goodnovel comment avatar
konma.mk
玲奈はどうしてこんなに嫌われてるのか 過去に何があったの? どれ程酷い事があったのかな?
goodnovel comment avatar
岸本史子
ムカつくやつしかいないな。優里の家族って玲奈から奪うことしか考えてない、よそでやれよ
goodnovel comment avatar
デイジー
玲奈ってなんでこんなに嫌われてるの?
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