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第427話

Author: 雲間探
念のためにと、玲奈は静香の世話役をさらに二人雇い、ついでに1003号室の様子も見ておいてほしいと頼んだ。

その夜、彼女は1003号室の患者が早期退院したという知らせを受けた。

遠山おばあさんは既に退院していたが、保険として、玲奈はその二人の介護人を解雇せず、静香の世話をさせることにした。

礼二は無人運転車プロジェクトの交渉が順調に進んでおり、ここ数日はとても多忙だった。そこで、政府主催のハイクオリティ企業発展会には、代わりに玲奈が出席することになった。

この発展大会は、政府が企業の発展と貢献を認め表彰するものだ。

今回の大会には、招待を受けた企業は600、700社あった。

玲奈はやや遅れて到着した。彼女が来るのを見て、辰也は人との会話を切り上げ、真っ先に彼女に向かった。「玲奈さん、来たね?」

玲奈はにこりと微笑んで「久しぶり」と言った。

優里も姿を見せた。

彼女はもちろん藤田総研の代表として大会に出席していた。

辰也は大会に到着して以来ずっと入り口を見張っており、玲奈が来ると一秒も待たずに駆け寄ったことに、彼女は全く驚かなかった。

彼女は唇を軽く噛み、視線をそらした。

長墨ソフトの席は非常に前方にあり、島村グループの席に近かった。

二人はしばらく話した後、それぞれ着席した。

長墨ソフトの隣の席は藤田グループ。

玲奈は優里を見かけたが、智昭の姿は見えなかった。

彼女は今回の大会に智昭は出席していないと思っていた。

ところが彼女が着席し、反対側の席の人に挨拶を終えた途端、智昭が彼女の隣に座った。

彼が来たのを見て、玲奈は挨拶するつもりはなかったが、智昭は彼女に向かって軽く頷いた。「着いたばかり?」

玲奈は反応しなかった。

反対側の企業代表が智昭に挨拶するために近寄ってきた。

挨拶を終え、二人を見て、とてもお似合いだと言おうとした。

でも、あの二人にはそれぞれパートナーがいることを思い出して、その言葉は飲み込んだ。代わりに智昭の隣にいた辰也を見やって、思わず笑いながら言った。「いやぁ、うちらの列って若くてイケてる男ばっかりじゃない?並んでるだけで目の保養になるわ」

智昭は軽く笑った。少し話をした後、その企業代表も自分の席に戻って座った。

残り少ない日数で、智昭と玲奈は正式に離婚することになる……

そう思うと、辰也は智昭と玲
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Comments (8)
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yoshiki love
母娘で同じことするってキモチ悪くて
goodnovel comment avatar
桜花舞
挨拶もしない人がいてもするのが良いですよね でも、自分だったら、、どうだろう? 今まで殆ど無視されて尊厳傷付けられて来たから、、 リアルでそれされてたら、その人を見るだけで心臓バクバクして喋れないかも 玲奈がそうかは知りませんが。 今まで無視して来た癖に何なの⁈調子いい奴だな!とは思う筈 不倫されると体重も落ちて不眠になったりするらしいですけど、その上無視までされていましたからね、、周りの友人たちからも。 仕事ではカス真に失礼な態度取られ、、私ならずっと泣いてます、、
goodnovel comment avatar
お神楽
智昭、なぜ妻の腹違いの妹と不倫して離婚になったのに謝罪もなく普通に会話してもらえると思うのか謎だわ
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