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第193話

Author: 雲間探
浩史と真紀がやって来て、有美に「ウォータースライダーで遊ばない?」と声をかけた。

有美は少し離れた場所にあるカラフルなウォータースライダーを見つけると、目を輝かせて勢いよくうなずいた。

クルーザーに設置されているウォータースライダーは屋内型の温泉仕様で、冬でも寒さを感じない造りになっている。

ウォータースライダーは実は大人でも子どもでも楽しめる。

とはいえ、やっぱり若者や子どもたちのための遊び場と言えるだろう。

玲奈と辰也も何度か滑ったが、すぐに飽きてしまった。

だが、有美と浩史、真紀は夢中になってはしゃいでいた。

玲奈は脇の椅子に腰かけて、まるで温泉に浸かるようにゆったりと過ごしていた。

そのとき、辰也が彼女に飲み物を手渡してきた。

玲奈はそれを受け取って言った。「ありがとう」

辰也は彼女のすぐ近くに座り、応えた。「どういたしまして」

そして続けて尋ねた。「あの二人は何歳?」

「浩史は16で、真紀は14」

「普段からよく遊びに連れていくの?」

玲奈は首を横に振った。「前はそうだったけど、最近は仕事で忙しくて、あまり時間が取れなくて」

そのとき、辰也のスマホが鳴った。

画面を見た彼は、特に表情を変えることもなく立ち上がり、言った。「ちょっと電話取ってくる」

玲奈は「うん」と言った。

少し離れたところまで歩いた辰也は通話を繋げた。「智昭」

智昭は尋ねた。「どこにいる?」

「クルーザーの上だ」

「もう出航したのか?」

「ああ」辰也の視線は玲奈の方へ向いた。「何か用か?」

智昭が言った。「茜ちゃんが有美ちゃんと一緒に遊びたいって言うから、お前に電話してみろって言われてな」

「今ちょうど海の上にいる。また今度な」

「わかった」

智昭はそれ以上何も言わず、通話を切った。

昼には五人で海鮮料理を囲んで食事を楽しんだ。

午後は甲板で日差しを浴びながら釣りをした。

有美と浩史たち三人は遊び疲れて、少し釣っただけでデッキチェアに倒れ込むように寝てしまった。

辰也は仕事の電話があり、しばらくその場を離れた。

戻ってくると、玲奈が同じ場所で読書にふけっているのが目に入った。

彼自身は大学で金融を学んでいたが、玲奈の手にしている本にはどこか見覚えがあった。

すぐに思い出す。以前、智昭がよく読んでいた本だった。

読書に集中し
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