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第262話

Auteur: 雲間探
優里は一部始終を見ていたが、特に気に留める様子もなかった。

辰也が玲奈に対して態度を和らげているのも、長墨ソフトとの協力関係あってこそだと、彼女は見抜いていた。

清司も優里の考えに同意していた。

これは、徹が玲奈を見るのは三度目だった。

彼は言った。「あのきれいなお姉さんって、辰也兄さんの彼女なんだね?」

「げほっ」清司は思わずむせた。「彼氏彼女って?二人はそういう関係じゃないから。変なこと言うなよ」

徹は首都に来たばかりで、いろいろ分かっていなかった。

清司も優里も、彼が玲奈の容姿と辰也との並びのよさだけで勝手に恋人関係だと勘違いしたのだと思った。

「そうなんだ」

さっき辰也は彼女を見てからというもの、視線をまったく外さなかった。

だから、彼は二人が恋人だと自然に思ってしまったのだ。

でも、今は恋人じゃなくても、辰也はきっとあのお姉さんのことが好きなんじゃないか?

辰也はすでに優里と清司がこちらを見ていることに気づいていた。

会議の時間が近づいていたため、彼は玲奈に軽く挨拶をしてその場を離れようとしたが、ふと思い出したように言った。「近々藤田総研のパーティーがあるけど、あなたは参加しないんだよね?」

玲奈は少し間を置いて答えた。「……ええ」

そのはっきりとした返答に、辰也の胸の奥がわずかにざわめいた。

彼は何も言わず、玲奈にうなずいて背を向けた。

辰也が清司のもとへ戻ろうとしたちょうどその時、智昭も現れた。

彼も仕事中の玲奈の姿を目にした。

だが、二度ほど視線を向けた後、何事もなかったように目をそらし、清司と辰也に言った。「時間だ、上で会議を始めよう」

辰也は、智昭が玲奈に対して一切関心を示さなかったことに気づいていた。

その様子を見て、彼は静かにまぶたを伏せた。

階段を上る直前、智昭は振り返り、徹に声をかけた。「うちのオフィスにはもう行った?」

「まだだよ」

「お菓子とお茶を用意してある。暇だったら立ち寄って、何かつまんでくといい」

ここ数日のうちに、智昭と徹の関係はかなり打ち解けたものになっていた。

昼の会議が終わると、藤田総研の株主や幹部たちはみな一緒に会食へ向かった。

優里と徹は藤田総研の幹部ではないが、智昭との関係もあり、智昭の車に同乗する形で会場へ向かった。

そのとき、辰也はふと藤田総研ビルの上階
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Commentaires (1)
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優子
早くクズ男とクズ女を絶望に落として欲しい。 プライドをズタズタにして欲しい。 クズ女の行動や表情がイラつきます。
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