Masuk何世紀も生きる白狐の半妖・藤宮和泉は、 二人の息子を育てるシングルマザー。 ROH― Ray of Hope ― 希望の灯りー 人の世界で生きる半妖の白狐、 藤宮和泉(ふじみや いずみ)。 長い時を生きる彼女は、 静かに人間社会に紛れて暮らしている。 社長、研究者、弁護士、アイドル―― さまざまな男たちが彼女に惹かれ、近づいてくる。 だが、和泉は誰のものにもならない。 ただ一人。 彼女の隣に、自然に立つ男がいる。 警備担当の青年、優士。 人と妖。 交わらないはずの時間の中で、 二人は少しずつ距離を縮めていく。 これは―― 長い孤独を生きてきた白狐が見つける、 小さな希望の物語。
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私は何度も恋をしてきた。 人間は、思っているより儚い。 それでも私は、また恋をする。 だって私は、白狐、半妖だから。 ー藤宮 和泉(ふじみや いずみ)ー容姿こそ20代だが半妖、白狐の化身である。 好きになった人間は自分より先に死ぬ。 半妖は永遠と呼ばれる時の中で生き続けている。 儚い人間と半妖。 寿命が重なる一瞬を大切に生きていかなければならない。 ふと、風が耳の横をかすめる。 夜の海は、静かに光を飲み込んでいる。 遠くに立つ灯台の光だけが、規則正しく闇を裂いていた。 光は、迷う者のためにある。 けれど本当は、選ばれた者しか照らさない。 Ray of Hope 本社ビルの最上階。 ガラス越しに見える湾岸の灯りは、どこか冷たい。 「本日の会議、二十二時に変更されました」 耳元で、穏やかな男の声が告げる。 睦月ーむつきー 私のスマートフォンに宿る、過保護な人工知能。 「子どもたちは?」 「奏音(かのん)様はオンライン対戦中。李雨(りう)様は撮影から帰宅済み。体温、平常。問題ありません」 問題ありません。 その言葉に、私は少しだけ安堵する。 母になってから、心はいつも半分が家にある。 それでも私は、ここに立っている。 「藤宮」 低く、感情の削ぎ落とされた声。 振り向かなくても分かる。 天城レオン。 革新的な光エネルギーで世界を変える男。 冷静で、合理的で、感情を無駄だと言い切る人。 「プロジェクトは最終段階に入る。選別は、予定通り進める」 選別。 その言葉だけが、いつも胸に引っかかる。 光は与えるものではない。 奪い取るものだ。 それが彼の思想。 奪い取るか、強い言葉だな。彼が言うとしっくり来るのがまた皮肉である。 「……迷いは、ありませんか」 問いかけた瞬間、私は少しだけ後悔する。 部下としては余計な一言だ。言ったそばから後悔している。 レオンは静かに私を見る。 感情のない瞳。その視線が私の視線と交差する。 それでも、ほんの一瞬だけ、感情が揺れた気がした。 ゆらぎ、揺れたように感じた。 「迷いは非効率だ」 そう言って、彼は海へと視線を戻す。 私は知っている。 効率で割り切れないものが、この世にはあることを。 恋とか。 寿命とか。 何世紀も生きてきた私でも、 それだけは計算できない。 遠くの灯台が、また光る。 私は思う。 あの光に照らされるのは、 誰なのだろう。 そして、私は。 ——また、恋をしてしまうのだろうか。最後までお読みいただき、ありがとうございました。 原作者・作家の天咲琴乃(あまさき ことの)です。 『ROH-Ray of Hope―白狐・和泉の恋愛草子100年の時を超えて―』は、100年を生きる白狐の女性が、自らの運命に抗いながら愛を見つける物語として生まれました。 GoodNovelでの長編連載は私にとって大きな挑戦でした。 藤宮白狐譚は、シリーズにしようとして 作ったもので、 まず、最初に100年生きて、恋をすることを 許されない白狐の女性をつくらました。 それに逆らい結婚しても呪が強くて 結婚しても離婚してしまうと言う悲劇が起きる。 相手役にはGoodNovelの人気カテゴリーの CEOやツンデレ彼氏や100年の恋といった、 皆様が好きなジャンルを取り込む と決めて書き出しました。 ところが、途中から日常を書きつつ、 恋愛が中々進まず、 シングルマザーだから子供たちも 無視を出来ない為 進行がスロースペース、書ける時に書いて 保存しておき、 更新するときに貼り付ける、という地味な作業を コツコツとやりつつ、本日まで至った次第です。 ネット小説のGoodNovelで、どこまで自分に 読者がつくのか未知数で、読んで貰えるのか、 ROHにくるまでの作品は総合の文字数が 5万文字や3万文字が多いのは、読んで貰えるのか 不安と期待の狭間で、書きました。 どのキャラクターも、人間らしいことと、恋愛奥手、 人付き合いが苦手など、作者の悩みも反映しつつ、読んだ人が 仕事の疲れや学校の人間関係の疲れなど ホッとして貰えたらいいなと思います。 純愛って現実世界であるのかわからないくらい、 いまの世の中は恋するひとの倫理観が問われ 承認欲求が強く倫理観が乏しい人も多くて 私自身もシングルマザーで、この小説のような私の優士はまだみつかっていませんが 言霊があるように、強く思い続けることで未来を引き寄せることができるかも、知れない。 「先生、お疲れ様。次の新作は?」 私の右肩に、白い細い指の手が置かれた。 藤宮和泉、元白狐の、半妖怪だった女性の 透き通る指。 「和泉、優士くんは?傷は治った?」 「天咲先生、ええ。ありがとう、物
朝日が差し込んでいた。長かった夜が終わる。五芒星の結界は消えた。白狐たちの姿もない。藤の花だけが静かに揺れていた。「……終わった」和泉はその場へ座り込む。身体に力が入らない。まるで百年間背負っていた何かが、一気に抜け落ちたようだった。「和泉!」優士が駆け寄る。和泉は顔を上げた。不思議だった。いつも感じていたものがない。未来の気配。人の感情。妖力の流れ。何も感じない。「……見えない」小さく呟く。「未来が見えない」優士が息を呑む。和泉は空を見上げた。ただの空だった。特別な光もない。神の声も聞こえない。百年間、一度もなかった感覚。「ふふ……」和泉は笑った。涙が零れる。「本当に人間になっちゃった」その声はどこか嬉しそうだった。だが。次の瞬間。和泉は優士の肩を見て顔色を変える。「優士!」白装束が赤く染まっていた。昨夜の傷。深い。確かに塞がり始めてはいる。だが。以前なら、とっくに治っていた。「大丈夫です」優士は苦笑した。「大丈夫じゃないでしょ!」和泉は半泣きになる。優士は傷口を見下ろした。そして。少しだけ考える。「……」数秒後。ぽつりと言った。「術が使えるうちに治しておけば良かったですね」「優士!!」和泉が叫ぶ。宮司たちまで吹き出した。こんな状況で何を言っているのか。優士は肩をすくめる。「いや、本当に」「笑い事じゃない!」「死んでません」「そういう問題じゃない!」和泉の目から涙が溢れる。怒っているのか。安心したのか。自分でも分からない。優士は静かにその涙を拭った。昔なら。術で治せた。傷も。病も。苦しみも。だが今は違う。もう二人とも人間だ。怪我もする。病気にもなる。老いていく。いつか死ぬ。でも。それでいい。優士はゆっくり立ち上がる。そして。和泉へ手を差し出した。「帰りましょう」和泉はその手を見る。百年前。叶わなかった未来。百年間。夢見続けた未来。それが今。目の前にある。和泉は手を伸ばした。優士の手を握る。温かい。人間の手だった。「うん」小さく頷く。涙を拭いながら。笑いながら。遠くで鳥が鳴いている。春風が吹く。藤の花が揺れる。白狐の呪いは終わった。永遠の命も。不思議な力も。
光は夜空へ昇っていった。白く。優しく。まるで百年分の祈りを抱いているかのように。「……」和泉は立ち尽くしていた。身体の奥から何かが抜けていく。不思議な感覚。怖くはなかった。ただ。少し寂しかった。百年間共にあった力だから。その時だった。結界の向こう側で光が揺らぐ。誰かがいる。いや。一人ではない。何人も。何十人も。白い影が立っていた。「……」宮司たちが息を呑む。優士も言葉を失った。和泉だけが分かった。この気配を知っている。血の中に流れている。遠い昔から。ずっと。「……ご先祖様」和泉が呟く。光の中から女たちが現れる。巫女装束。白狐の耳。長い髪。美しく。そして強い目をしていた。戦国時代を生きた者。江戸を生きた者。明治を生きた者。時代を越えた白狐たち。藤宮家の巫女たちだった。「ほう」最前列の女性が腕を組む。「おまえだけ恋を成就させる気か」和泉が固まる。「え」「え、じゃない」別の巫女が呆れたように言う。「私たちは全員失敗したぞ」「そうそう」「羨ましいにもほどがある」「百年待っただけで済んだなら楽なものだ」口々に言われる。和泉は思わず頭を下げた。「すみません……」優士が横で困っていた。何を謝っているのか分からない。だが。先祖たちは笑っていた。本気で怒っている訳ではない。どこか楽しそうだった。「顔を上げろ」最年長らしき巫女が前へ出る。銀色の長い髪。圧倒的な存在感。和泉はゆっくり顔を上げた。巫女は和泉を見つめる。長い時間。じっと。そして。ふっと笑った。「よく頑張ったな」その一言で。和泉の涙が溢れた。百年。待ち続けた。泣き続けた。諦めそうになった。それでも。生きてきた。「……ごめんなさい」和泉は泣きながら言う。「私だけ」巫女は首を振る。「違う」優しい声だった。「おまえは我らの続きを生きたのだ」周囲の巫女たちも頷く。「そうだ」「行け」「幸せになれ」「我らの分まで」涙が止まらない。優士は静かに和泉の肩へ手を置いた。巫女たちは優士を見る。そして。一斉に笑った。「神宮寺の男か」「顔は悪くない」「百年前よりマシだな」優士が困惑する。和泉は思わず吹き出した。こんな場面なのに。笑ってしまった。
風が吹いていた。 結界の中。 五芒星の光が地面を走る。 優士の肩から流れた血が白装束を染めていた。 それでも。 優士は立っていた。 一歩も退かない。 一歩も離れない。 百年前とは違う。 和泉はそれを知っていた。 「……優士」 涙が滲む。 怖かった。 また失うかもしれない。 また一人になるかもしれない。 そんな恐怖が胸を締め付ける。 だが。 優士は静かに微笑んだ。 「大丈夫です」 その声は不思議なくらい穏やかだった。 「今度は逃げません」 和泉の目から涙が零れる。 百年前。 優士は自分を逃がした。 守るために。 愛していたから。 でも。 その結果、二人は離れ離れになった。 百年もの間。 ずっと。 「……もう嫌だよ」 和泉は震える声で呟く。 「もう離れたくない」 結界が激しく揺れる。 風が唸る。 見えない力が二人を引き裂こうとする。 それでも。 優士は和泉の手を離さなかった。 「離れません」 短い言葉。 だが。 その言葉には百年分の想いが込められていた。 「絶対に」 和泉は目を閉じる。 そして。 ゆっくりと胸へ手を当てた。 そこにある。 白狐の力。 長い時間を生きた証。 未来を見る力。 傷を癒やす力。 人にはない力。 藤宮家が代々受け継いできたもの。 「……ありがとう」 和泉は静かに呟く。 白い光が身体から溢れ始める。 宮司たちが息を呑んだ。 結界全体が光り始める。 優士も目を見開く。 和泉の髪が風に舞う。 藤の花びらが光の中へ吸い込まれていく。 「和泉!」 優士が叫ぶ。 和泉は振り返る。 泣きながら笑っていた。 「大丈夫」 不思議なほど穏やかな声だった。 「これは返さなきゃいけないものだから」 光が強くなる。 身体が軽くなる。 百年という時間がほどけていく。 「この力をお返しします」 和泉は空へ向かって手を伸ばした。 「どうか」 涙が頬を伝う。 「どうか次は、この国の誰かのために使ってください」 風が吹く。 藤の花が舞う。 光はさらに強くなる。 和泉は最後に
休日の午後。春の光が、やわらかく街を包んでいる。「……」並んで歩く。距離は、近い。でも。触れてはいない。「……あの」和泉が、小さく口を開く。優士は、すぐに応じる。「はい」それだけで、少し安心する。でも。何を話すかは、決めていない。「……」沈黙が落ちる。気まずいわけじゃない。でも。どこか、落ち着かない。——恋人、なんだよね。ふと、そんなことを考える。昨日までとは違う関係。それなのに。どうすればいいのか、わからない。「……和泉さん」優士が、静かに呼ぶ。和泉は、少しだけ驚く。「なに?」優士は、少しだけ視線を落とす。それから。「距離が、少し
仕事を終えて、外に出た瞬間だった。——雨。さっきまで降っていなかったはずなのに。細かい粒が、静かに落ちてくる。「……最悪」小さく呟く。傘は、ない。天気予報も見ていなかった。少しだけ空を見上げる。濡れる。でも。それでもいいかと思うくらい、今日は頭がぼんやりしている。——あのときのこと。腕を掴んだ感触。離したくなかった気持ち。思い出すだけで、少しだけ息が詰まる。「……」歩き出す。そのまま、雨の中へ。濡れる感覚が、現実に戻してくれる。それでも。完全には戻らない。「……優士さん」小さく名前が出る。無意識に。そのとき。横を、一台の車が通り過ぎる。小
帰り道。いつもと同じはずの景色が、少しだけ違って見える。夕方の光が、長く影を伸ばしている。二人は並んで歩く。言葉は少ない。でも。それでよかった。さっきまでの距離が、まだ残っている。袖を掴んだ感触。離していない気持ち。そのまま、歩いている。「……和泉さん」優士が、ふと口を開く。和泉は、視線を向ける。「なに?」優士は、少しだけ間を置く。それから。「一度、距離を置きましょう」静かに言う。その一言で、時間が止まる。「……え」声が、わずかに揺れる。意味が、すぐに理解できない。優士は、視線を逸らさない。逃げない。「このままでは」言葉を選ぶ。慎重に。
目が覚めた瞬間、少しだけ息が止まった。——思い出す。湯気の中。見えない距離。近づきかけて、止まった気配。「……」布団の中で、小さく目を閉じる。消えない。昨日の感覚が、そのまま残っている。「……やば」小さく呟く。何が、とは言わない。言えない。そのまま、ゆっくりと起き上がる。隣を見る。優士は、もういなかった。少しだけ、安心して。少しだけ、残念に思う。その感情に、自分で驚く。「……なにそれ」小さく笑う。自分に向けて。身支度を整えて、部屋を出る。廊下の空気は、昨日よりも少し軽い。朝の光が、柔らかい。食事処に向かう途中。見慣れた背中が、目に入る。「