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第295話

Author: 雲間探
智昭は今回はすぐに返事を寄越した。【わかった】

土曜日の朝。

玲奈は車を走らせ、片方家の本宅へ向かった。

片方家の人々は多くが海外におり、玲奈が到着した時、屋敷には数人の使用人を除けば片方おじいさんしかいなかった。

玲奈の到着を聞いた片方おじいさんは、自ら玄関へ出迎えに出て、「うちの玲奈が来たのか」と笑顔で言った。

「うん」玲奈は微笑み、彼が思ったより元気そうな様子を見て少し安心したが、それでも言わずにはいられなかった。「前より痩せましたね」

片方おじいさんは笑いながら答えた。「まあ、確かに痩せたが、元気はある。安心しなさい」

玲奈と片方おじいさんは屋敷の中へ入った。

片方おじいさんは玲奈にお茶をすすめたが、彼女が一人で来たことを見ても智昭について何も尋ねなかった。それを見て、玲奈は彼が自分と智昭が離婚を考えていることをすでに知っているのだと悟った。

片方おじいさんは智昭についてだけでなく、茜のことについても一言も口にしなかった。離婚の件だけでなく、茜の親権が彼女にないことまで知っているのだろう。

彼が聞かない以上、玲奈も自分から話題には出さなかった。

彼女は片方おじいさんと茶を飲みながら会話を楽しんでいたが、二十分ほど経った頃、片方家の使用人がやって来て客が到着したと告げた。

片方おじいさんは何も言わなかった。

つまり、出迎えるつもりはないということだった。

片方おじいさんは玲奈に菓子をすすめ、玲奈はうなずいて少しだけ口にした。

その時、脇の入口から執事の声が聞こえてきた。「藤田様、どうぞお入りください」

片方おじいさんはそちらを一瞥したが、わずか一目で顔つきが険しくなった。

玲奈の手が止まり、続いて響いてきたハイヒールの音が、彼女の予感を裏付けた。

彼女が首を少し傾けると、智昭と優里の姿が視界に入った。

智昭と優里も、彼女の姿に気づいた。

智昭は彼女を一瞥しただけで視線を外し、片方おじいさんに声をかけた。「片方おじいさん」

片方おじいさんは「ふん」と鼻を鳴らしただけで口を開かず、智昭は続けて紹介した。「片方おじいさん、彼女は大森優里です」

優里は玲奈の存在を最初から無視していた。

智昭が紹介し終えると、彼女は笑顔で礼儀正しく片方おじいさんに挨拶をした。「はじめまして、片方おじいさん」

片方おじいさんは智昭が玲奈と離
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Comments (3)
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千恵
超ムカついた クズ男!!!
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masakos31
バカなんです。相手の気持を考えれないから、図々しい連れて来るんです。無視してね。
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岸本史子
なんで離婚協議中の嫁が来るってわかっていて不倫相手を連れてくるかなー?バカなの?
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