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第385話

Author: 雲間探
智昭がどう思おうと、どう見ようと、玲奈は気にせず、関心もなかった。

レストランを出たあと、玲奈は礼二たちと一緒に藤田グループへ戻り、会議に臨んだ。

今回は佳子や結菜たちはついてこなかった。

けれど、優里だけは後を追ってきた。

優里がまた来たのを見て、礼二は内心で辟易しながら口を開いた。「藤田さん、大森さんはこれは——」

智昭は彼の言いたいことを察していた。

礼二の言葉を最後まで聞かずに、彼は言った。「湊さん、もし機密漏洩のことを懸念しているなら、その点は心配無用です。万が一そんなことがあれば、俺が責任を取ります」

礼二は智昭がそう言うだろうとわかっていた。

以前、藤田総研と提携したばかりの頃にも、智昭は同じことを言っていたのだ。

そうだとわかっていても、智昭の口から改めて保証が欲しかった。

智昭の言葉を聞き、礼二は引きつった笑みを浮かべて言った。「藤田さんのその言葉を聞けて安心しました」

朝の会議では、席の中央には智昭ひとりだけが座っていた。

今は優里が来たため、彼は隣に席を追加させ、優里はそこに腰を下ろした。

玲奈はそれを見たが、すぐに視線を逸らした。

会議は正式に始まった。

礼二がいるため、玲奈が発言する必要はなかった。

玲奈と翔太たちは、基本的に傍聴に回っていた。

会議の途中、玲奈が喉の渇きを感じて水を取ろうとした時、翔太が一歩先に手を伸ばしてきた。「喉乾いた?僕が開けるよ」

そう言うが早いか、彼女が返事する前にキャップを開けた。

玲奈はそれを見て、素直に受け取り、「ありがとう」と言った。

翔太は軽く笑い、声をひそめて、さっき礼二と智昭が話していた技術的な部分について話し出した。

玲奈も小声で彼と会話を交わした。

玲奈と翔太は驚くほど話が尽きない様子だった。

この様子は、食事中から優里もすでに気づいていた。

あの時も翔太はずっと玲奈の隣にいて、まるでわざと張り付いているかのようだった。

でも、本当にそうなのだろうか?

翔太が自分のことをどれほど好きか、それは彼女が一番よくわかっている。

彼は彼女のためにAIを学び直し、そして帰国までしている。

そんな彼が、そう簡単に玲奈に惹かれるなんてあり得るのか?

そう思って、彼女は隣の智昭を見た。

そして智昭も、翔太が玲奈に親しげにしている様子を見ていたことに気づ
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Comments (47)
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井口サエ子
過去は過去に、未来は輝くはずです。 愛してくれる伴侶を得る、能力を羽ばたかせて 世界が知る天才だと!
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井口サエ子
自己中身勝手父親、優しさの欠片もない色呆け夫、自分の欲に正直で都合良く母を利用する娘、血を分けた妹は略奪女、周りの軽視中傷、に囲まれ、レナさんはどれ程頑張ったのだろう、心折れず生きてること良かった。
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桜花舞
優里の心の内は、きっとこれからそれが覆って行くことへの序章なのでしょうね 前にもどなたかが、智昭自身は優里を恋人とは人に紹介していないとコメントされていましたが、 13話で、姉に智昭は、どんな女性を好むか、自分で分かっている。と言っていて、優里のことが好きだとかここでも明確には言っていないんですよね。 離婚の話は優里が刺されてから言い出してるから、それまでは玲奈と離婚してまで優里と、とは思っていなかったのかなぁ? でも玲奈にめちゃくちゃ冷たい対応してるから元々の性格がクソなんだろうけど。
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