手のひらのなかで漣くんのものが力強く脈打ち、先端からは粘り気のある滴を零し続けていた。
彼のまなざしや表情に色濃い興奮が宿り、快楽に浸っているのは伝わってくる。けれど、決定的な刺激にはまだ届いていない。そう感じられた。――もっと、もっと気持ちよくさせたい。満足させたい。そんな思いが、急速に募っていく。
「れ、漣くん……」
「っ、なに……?」
「私……もっと気持ちよくなってほしいの。だから……その……」
声にする直前まで、迷っていた。
私にとっては、さきほど「手でしてあげたい」と言ったことよりも、ずっと勇気がいることだったから。「……口で、してもいい?」
告げた瞬間、漣くんの瞳がおどろきに揺れる。
大胆すぎる提案であるには違いない。はしたないことを申し出てしまったのでは、と不安が押し寄せる。「あっ、やっぱり今のは――」
「いいの? ……いやじゃない?」
慌てて言葉を引っ込めようとした私に、漣くんが優しく問い返してくれた。
胸がいっぱいになり、ドキドキしながら小さくうなずく。「私は……してあげたいの」
「……なら、お願いしたい。本当にいい?」
再びこくりとうなずくと、漣くんの高ぶりを握り直して、顔を近づける。舌を出し、濡れて光る先端を恐る恐るぺろりと舐めた。
「っ……!」
いつもと違う声色で喘ぐ漣くん。その扇情的な響きが耳に届くだけで、胸が熱くなる。
もっと聞きたいと思って、ほんのり塩辛く、少しだけ苦い味を舐めとりながら、ソフトクリームを味わうみたいにぺろぺろと舌を動かした。視線を上げると、漣くんは呼吸を荒げ、眉を寄せて悦楽
「――いただきます」 その日の夜。ふたり暮らしの部屋。 引っ越しを機に購入した二人用のダイニングテーブルで、私と漣くんは食卓を囲んでいた。「今日もおいしい。いつも仕事で疲れてるのに、ありがとう」「ううん、漣くんこそ、いつもお仕事お疲れさま」 私の手料理を、漣くんは毎回かならず褒めて、お礼を言ってくれる。 家事を担っているのは九割が私。正直、フルタイムで働きながらだと大変なときもあるけれど、漣くんのその一言で報われるから、全然構わない。 住まいは少し手狭だけど、ふたりとも日中は留守がちだし、掃除も楽。 越してきた当初は『漣くんの部屋』という認識だったけれど、一年も暮らすうちに、すっかり『私たちの部屋』になった。「そういえば、今日、久しぶりに綾乃に会ったよ」「今、ERにいるんだっけ?」 漣くんがうなずく。「やりがいがあるって言ってた。環境的には外科よりハードだけど、そのぶん経験値も一気に上がる場所だから。向上心の強い綾乃には向いてるんだろう」「そっか……私が言うのもおこがましいけど、頑張ってほしいな」 私との一件が異動に影響したのかは不明。でも、新庄さんは昨年の四月付けで、外科から人手不足だといわれる緊急外来に移った。 漣くんへの想いも断ち切り、今は仕事に全力投球しているらしい。 私はもう彼女に会うことはないけれど……あのとき謝罪の場でかけてもらった言葉は、今も私のモチベーションになっている。 だから、彼女も彼女の場所で輝いていてほしいと願った。「そうそう。さっきお母さんから電話があってね。お父さんの知り合いから美味しいお肉が届いたから、週末にでも食べに来なさいって。日曜なら空いてるよね?」 食後のお茶を飲みながら、ふと思い出して訊ねる。「うん。……母さん、いろいろ理由つけて俺たちを家に呼ぼうとす
友人として仲を深めるにつれ、プライベートな話題も増えていった。 『彼氏はいるの? どんな人?』と訊かれたとき、私は思い切って、身の上のことや、漣くんが義兄であることを打ち明けてみることにした。 茉実ちゃんは信頼できる人だ。だからこそ、もし彼女の反応が辛辣なら、それが世間の評価だと受け止める覚悟もあった。 なによりも、悪いことをしているわけではない。だから、もう隠し立てはしたくなかった。 意外にも、茉実ちゃんの第一声は『なんかドラマチックだね!』だった。さらに『小さいころからずっと一緒なんて、憧れる』と目を輝かせる。 そんな風にさらりと認めてくれる彼女の存在は、大きな勇気になった。 ――やっぱり私たちは、堂々としていていいんだ、と。「それよりさ、最近、同棲中の彼氏とは上手くいってるの?」「うん。勤務の関係とかで顔を合わさないことも多いけど、楽しくやってるよ」「いいな~。瑞希の彼氏ってものすごいイケメンだし、瑞希のこと溺愛してそうだもん。私もそんな完璧な男と出会いたい……」 頬杖をついた茉実ちゃんが盛大にため息をついたあと、ぱっと顔を上げ、満面の笑みを浮かべる。「――今度、彼氏の友達紹介してっ」「わかった、訊いておくね」 漣くんの友人にも、まだ特定のパートナーがいない人が多いと聞いたことを思い出して、私はうなずいた。「ありがと~! やっぱり持つべきものは同期の友達だねっ」 ご満悦の茉実ちゃん。その様子がかわいらしくて、私はふふっと笑ってしまった。 彼女と話していると、ふと「翠と似ているな」と思うことがある。明るくて無邪気、でも頼りがいがある――そんな雰囲気を茉実ちゃんから感じるのだ。 翠も今は都内のクリニックで検査技師として勤務している。週に一度は連絡を取り合い、どんなに忙しくても二ヶ月に一度はお茶をして、近況報告を欠かさない。『実はさ、来月の連休に亮介と旅行するんだ』 先週会ったとき、彼女はそううれしそ
一泊二日の旅行は夢のような時間だった。 現実に引き戻された三月下旬、ようやく試験結果が出た。恐る恐る自身の受験番号を確認すると――合格。 うれしい報せを受けた翌日、私は再び夢のなかにいた。 三月二十八日、私の誕生日。漣くんは、お気に入りだというビストロに連れて行ってくれた。 聖南大附属病院の近くにあるその店は、気取った雰囲気ではないのに、出てくる料理はすべてが唸るほどおいしい。 合格前祝いのときに連れて行ってくれたレストランも、もちろん素敵だったけれど、漣くん行きつけのお店に連れて行ってくれたことがうれしい。 オーナーシェフとは顔なじみのようで、私を『妹』ではなく『大事な人』と紹介してくれたのがうれしかった。「瑞希。誕生日おめでとう」「ありがとう」 食事の前に手渡された小さな包みを開けると、雫型のネックレス。 着けた私を見て「似合うよ」と微笑む漣くんは、真剣な眼差しで続けた。「大学を卒業したら検査技師の仲間入りだ。不安なことも多いだろうけど、責任感を忘れずに頑張って。瑞希ならできる」「ありがとう、漣くん」「俺もサポートできることがあればするから。遠慮なく頼って」 ――そう。念願叶って、これからは憧れの検査技師として働き始める。 と同時に、住まいを漣くんのマンションに移して、一緒に生活することになった。つまり、同棲。 里親制度での同居が終了となるため、新しい住まいを探していたのだけど、なかなか条件が合う物件が見つからなかった。 そこで漣くんが、「いい物件が見つかるまで、俺の部屋に来れば?」と言ってくれたのだ。 両親も、私に急に独り暮らしさせるよりは、漣くんのそばにいてもらったほうが安心だと考えたのだろう。話はすぐにまとまって、最低限必要なものを運び出して、引っ越しは完了。 四月からは、漣くんとふたりでの生活が始まる予定だ。私がうなずく。「うん……これから、よろし
「瑞希が感じてる顔、よく見えるよ」「あっ、あっ、んんっ、だめぇっ……! あっ、あぁ――!」 余裕なんて欠片もなく、私はだらしない表情をさらしてしまっているに違いない。 けれど、止められない。悦楽に追い詰められ、愛されている幸せに飲み込まれていく。「もう我慢できない? いいよ、イッて」 彼が私の両手を取り、指を絡めてぎゅっと握った。 触れ合った手の熱が、さらに理性を溶かしていく。「あ、あ、あっ……んんんっ、だめぇっ――……ぁあああ!!」 強く奥を突かれた瞬間、視界が弾け飛んだ。 全身が大きく震えて、絶頂に攫われる。繋がったまま、私は彼の胸へと崩れ落ちた。 重ねた手と、密着した肌、耳元で響く熱い息。 互いの体温が混じり合い、しばらくは動けない。 呼吸を整えながら、心臓の鼓動まで重なっているように感じた。「瑞希、平気?」「うん……」 か細い声で返すと、漣くんがつないだ手をそっと解いて、私の髪を撫でてくれる。 その優しさが胸に沁みて、涙が滲みそうになった。「……ごめん。誰の邪魔も入らないって思ったら、歯止めが利かなくなりそうで」 彼は医師だから、普段はたとえ非番の日であっても、呼び出しの可能性に縛られている。 けれど、この旅行だけは違う。仕事から解放されて、私だけを見てくれている。その事実が、何よりうれしかった。「大丈夫だよ。私も……すごくうれしいから」 素直に笑いかけると、漣くんも安堵したように息を吐いた。「でも、まだ夕食もあるし……ここで力尽きたら大変だ。もっと触れていたいけど、あとは食後の楽しみに取っておこうかな」「っ……わ、わかった……」 それって、食後にまた――ってこと? だよね? そう思った瞬間、顔が真っ赤になる。けれど、冷静沈着な彼が私を抑えきれないほど求めてくれている。その幸せを思えば、ちっとも悪い気はしなかった。 旅館の豪華な食事と、その後に待つ甘美な時間。どちらも心から楽しみにできる自分がいる。大好きな人と、こんな時間を過ごせるなんて――。 私は、こんな素敵な旅行をプレゼントしてくれた漣くんに、心の中でそっと「ありがとう」とつぶやきつつ、強くうなずいたのだった。
「っ、はぁっ――んんっ、はぁっ、あぁっ……」 どう動けばいいのかなんて、全然わからなかった。 けれど、繋がっている場所に少しでも刺激を与えようと、私は必死に腰を前後に揺らす。 呼吸はすぐに荒くなり、思った以上に体力を消耗していく。 普段は漣くんにリードされてばかりで、私は受け身のまま快感を与えてもらってきた。 だからこそ今、自分が能動的に動くことが、こんなにも大変で、そして照れくさいことなのだと思い知らされる。 それでも――「きもち、いい……?」 息を切らしながら恐る恐る尋ねると、漣くんが短く息を呑んでから、掠れた低い声で答えてくれる。「うん……中が擦れて、気持ちいいよ」 ぎこちない動きであるのは十分にわかっているから、上手にできている自信なんてない。 だけど、彼が笑ってくれるから……うなずいてくれるから、私は頑張れる。「っ、はぁっ、う――んんっ、あぁあっ……」 だんだんと、私自身の中にもじわじわと快感が広がっていく。 奥まで深く受け入れるたび、熱が増して、甘い声が勝手に漏れ出てしまう。「かわいい声……もっと聞きたい。聞かせて?」「は、恥ずかしい……勝手に、出ちゃうからっ……」「それくらい気持ちよくなってくれてるのがうれしい。最初のころは、つらそうにしてたから」 そう言われて、初めて気づいた。私は必死に声を抑えようとして、片手で口を覆う。 けれど、漣くんはそんな私を優しく見つめ、そっと接合部に手を添えた。「っ!」「……でももう、俺の形にすっかり馴染んだな」「っぁ!」 次の瞬間、両手で腰を支
「すごい、さっきよりもびしょびしょだ。……俺のを舐めて、こんなにしちゃったんだ?」「っ……」 漣くんが私の浴衣を脱がせて腰を撫でる。それから下腹部をまさぐり、くすりと笑った。 羞恥で顔が火照る。奉仕している間じゅう、心も身体も熱くなってしまって……心と体が連動しすぎている自分が、たまらなく恥ずかしい。「うれしいよ。そういう風に感じてくれて」 漣くんは柔らかく笑うと、避妊具を手際よく装着し、熱を帯びたそれを私の秘部へ宛がった。「だから……もっとかわいい瑞希を見せて――」「漣くんっ……んんっ……!」 次の瞬間、ぐっと押し込まれる感覚。 太いものが内側を擦り上げ、強烈な衝撃が全身を貫いた。堪らず鼻にかかった甘い声が漏れる。 好きな人で自分の身体をいっぱいにされる幸福感は、いつだって特別だ。 奥まで刀身を収めた漣くんが、ゆっくりと律動を始めると、内壁に触れるたびに甘い痺れが走った。「ねえ、瑞希……?」「な、にっ……?」「どうして今日は、さっきみたいに……積極的に頑張ってくれたの?」 私の中を緩く穿ちながら、興奮を抑えたような声で問いかけてくる。「……だって、お母さんのことも、旅行のことも……漣くんのおかげだって思ってるし……。いつも私はしてもらってばかりだから……なにか、返したくて。今ので返せたとは思ってないけど……」 息を乱しながら、それでも正直な気持ちを伝える。 こうして今、漣くんに抱かれていられるのは、彼が支えてくれたから。 だからこそ感謝