この世にこんな幸せがあることを、初めて知った。 見慣れた自分の部屋の、見慣れたベッド。 シーツから這い出て上体を起こした私のとなりで、横たわったまま静かに寝息を立てているのは、私がずっと想い焦がれていた人。 清潔感のある短い黒髪も、シャープな輪郭も。 形のいい直線的な眉も、その下の閉じた長いまつげも、思わず指先でなぞりたくなるような高い鼻も、どちらかといえば薄い唇も。 モデルのように整った顔立ちだけど、私はすっかり親しみをもってしまっている。 見慣れた場所に、見慣れた『彼』の姿。 日常的に目にしているにもかかわらず、蕩けるような情事の名残りで、私同様、なにも身に着けずに眠るその人を見つめていると、「信じられない」と内心でつぶやかずにはいられなかった。 私はまだ、夢のなかにいるのだろうか? これが現実であるのを確かめたくて、彼の前髪にそっと手を伸ばす。 真ん中に分け目のある、さらさらした髪の感触がくすぐったくて懐かしい。 思えば、この人の髪に最後に触れたのは、ずっと昔のことだったかもしれない。 毛先を遊ぶように撫でたあと、そっと手を離す。 指先からこぼれた髪がぱらぱらと額に触れたけれど、彼はまったく起きる気配がない。 いつだったか、仕事に追われているがゆえに、暇さえ見つければどんなときでも熟睡できるようになったと話していたことが頭を過ぎった。 いつもお疲れさま。労いの思いで、額に触れるだけのキスを落とす。 こんなことができるのは、私とこの人の距離感が、かつてなく縮まったおかげ。 ――私……本当に、好きな人と結ばれたんだ。 湧き上がるのはもちろんよろこびだけれど、戸惑いや心細さがゼロだと言ったらうそになる。 本当なら、この恋は少しも報われることのないまま、手放さなければいけなかった。 苦しいけど、つらいけど、忘れる努力をしていたはずなのに……いたずら好きの神様が、最初で最後のチャンスを与えるとばかりに、奇跡を起こしてくれたのだ。 誰よりもそばで感じる彼の温もりは、ドキドキするのに心地いい。 このまま、私たちふたりだけの世界になったらどんなにいいか――なんて、バカげた想像をしてしまう。 私は窓際に視線を投げ、
Huling Na-update : 2025-07-22 Magbasa pa