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第22話

Author: にゃんこ虫
たとえ茂仁が、この子の父親が自分ではないと知っていても、にっこりと笑うその姿を見ると、どうしても心がふわりと溶けてしまった。

これは夕帆の子だ。それなら、彼の子でもあるのだ。

彼女は好奇心いっぱいに彼の手をつかもうとしたが、結局その動きは「たたく」に変わっていた。

その一撃が強すぎたのか、あるいは他の理由か、彼女の手は再び彼をすり抜け、そのまま落ちていった。

清霜はぱっちりとした黒く澄んだ瞳で周囲を見渡し、不思議そうに目を瞬かせた。

さっきまでいたぼんやりとした影が、どこにもいなかった。

赤ん坊は物心がつかないから。さっきまで影がどこへ行ったのか、不思議に思っていたが、次の瞬間にはもう眠りについていた。

その頃、別の世界では、茂仁は先ほど起こった「接触」の感覚に胸をどきどきさせていた。

今の瞬間、確かに清霜が彼を見たような気がした。

システムによれば、スクリーンがいかに進化しようとも、二つの世界はあくまで別々のものであり、時空トンネルが開かれない限り、交わることはないはずだった。

だから彼にできる限界は、スクリーン越しにもう一つの世界の出来事を「見届ける」こと、それ
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    茂仁は、彼女と再会する時のシーンを何度も思い描いていた。彼女が嬉しそうに彼がどうやって来たかを聞姿、かつて彼のもとを去った時のように平静な表情、あるいは嫌悪を露わにして彼を追い払おうとする様子......だが、唯一想像していなかったのは、目の前に立っているのに、彼女が警戒した目で「あなたは、誰?」と問う姿だった。「俺のこと、忘れたの?」彼は信じられない顔で呟いた。十四年。彼は彼女の名前を骨の髄にまで刻み込み、ようやく再会を果たしたその日、彼女の口から最初に出たのは、自分が誰かという問いだった。積み重ねてきた言葉のすべてが、この一瞬で音を立てて崩れ落ちた。茂仁はようやく悟った。すべてを捨ててまで追いかけてきたことは、無駄な仕草だったと。彼女は、許さなかったどころではない。もうとっくに、彼の存在を忘れてしまっていた。彼の瞳は複雑で、胸は張り裂けるような痛みに襲われていた。その様子を見た夕帆は眉をひそめながら、本当に彼と面識があったのかと記憶を辿った。そして、長い時間の果てに、ようやく忘れかけていた記憶の片隅から、その顔と一致する名前を掘り起こした。「茂仁?なんで、あなたがここに......」彼女はずっと、身を引いて道を譲ったはずだと思っていた。だから、彼は今ごろ雪華と幸せになっているはずだと信じていた。茂仁は口を開こうとしたが、言葉より先に苦味が舌先を覆い、ただショックを受けたような顔で呟いた。「君は忘れたんだね......俺のことを」夕帆は首を横に振り、彼の悲しみが理解できないまま、淡々と言った。「私たちの関係なんて、とっくの昔に終わったはず。だから、わざわざ覚えておく必要もないと思ってたわ」つまり――もう彼は、自分にとって何の関係もない部外者なのだ、と。「違うんだ、夕帆......俺は......」彼の目は赤く染まり、喉が詰まったように苦しそうだった。言いたかった。違うんだ、夕帆。俺は君を愛してるって言いたかった。夕帆、もう一度やり直せないかって言いたかった。夕帆、誰かと結婚して子供がいることなんて、俺は気にしない。清霜のことだって、俺は本当の娘のように大切にするって言いたかった。だけど......「夕帆、君は俺を恨んでるのか?」ようやく口から出た問い

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