FAZER LOGIN【胡桃ちゃん、大丈夫!?】 【彼氏さん、胡桃ちゃんを心配してすぐに戻ってくるなんて凄い!愛されているね、だけど心配だよ】 【早く良くなるように願っているよ!】 などと、沢山のコメントが胡桃の投稿に寄せられている。 「特に誠司だと分かるような投稿でもないし、写真も無いわね……あ、でも待って……!」 胡桃の投稿には、何枚も写真が載せられていて、スワイプして複数の写真を表示させていく。 すると、画像の端っこ。 隅の方に英語で何かが記載されているのが分かった。 その画像をスクショしたもみじは、画像を開いて拡大する。 その英語はE国にある病院名が記載されているのが分かった。 「──!これで、今日誠司がE国に向かったって分かるような出入国履歴を久保田先生に取得してもらえれば……!」 証拠としては弱いが、数が多いに越したことはない。 もみじがスクショを取って証拠を保存した時、病室の扉が開いて髙野辺が戻って来た。 「新島さん、手続きが終わりましたよ。明日の朝に退院です」 「ありがとうございます、髙野辺さん!何から何まですみません……!」 「いえいえ。少しでもお役に立てて良かったです。これが新島さんに頼まれた食べ物と本です」 「ありがとうございます!お支払いは──」 「これくらい大丈夫ですよ」 「えっ、でも以前もカフェで……」 「また次の機会で大丈夫です」 にっこりと圧の強い笑顔で断られてしまったもみじは、これ以上引き下がっても髙野辺に申し訳ない、と思い素直に受け取った。 「ありがとうございます。色々と助けていただいて……もし良ければ、今度お礼にご飯でもご馳走させてください」 「ありがとうございます。食事を楽しみにしていますね」 髙野辺と話していると、もみじはほんわかとした優しい気持ちになれる。 それは髙野辺が優しい雰囲気を醸し出しているからだろうか。 癒されていたもみじだったが、さっき胡桃の画像で見つけたE国の病院名が映り込んでいる写真の事を髙野辺に話そうと口を開いた。 「そうだ、髙野辺さん!そう言えばさっき胡桃の投稿に、E国の病院名が映り込んでいる写真が上がっていて……!」 「──!本当ですか!?その画像、俺に送ってもらっていいですか?すぐに久保田に連携します」 「わ、分かりました!すぐに送りますね」 もみじが画像を送
もみじは、夫・誠司との通話記録や帰って来た時間、話した内容、そして怪我をした経緯をメモに書き出して髙野辺に渡した。 髙野辺はもみじが書いたメモをしっかり保管すると「久保田に渡しておきますね」と言いながら鞄にしまった。 「新島さん、俺は入院手続きに行ってきます。何か欲しい物や食べたい物はありますか?買ってきますよ」 「えっ、髙野辺さんにお任せする訳にはいきません!私も一緒に行きます!」 「頭を打っているので、今日はあまり動かず安静にしていてください。もし食べたい物があれば、俺のスマホに連絡を入れておいてください」 真剣な表情で動いたら駄目だ、と告げられたもみじは申し訳なさそうに謝罪しつつ髙野辺に入院手続きと買い物をお願いする事にした。 ◇ もみじの入院手続きのため、病院の受付に向かった髙野辺は、途中で電話が出来るスペースにやって来るとスマホを取り出して電話をかけた。 かけた先は、弁護士の久保田だ。 数コールですぐに髙野辺からの電話に出た久保田は、慌てたように話し出す。 〈──新島さんは大丈夫だったか!?〉 「ああ、今のところは大丈夫そうだ」 〈それは良かった……。彼女から連絡があった時は肝が冷えたよ〉 「本当にな。まさか、暴力まで……。今回の件で離婚を早める事は出来そうか?」 〈……診断書を取ってもらうのと、あとは相手が怪我をさせた事を認めれば、だな……。だが、不倫と離婚がバレたら経営者として致命的だ。必死に隠すと思うから、どうだろうな……〉 「やっぱり証拠がないと難しいか……?なら、相手に認めさせればいいのか……。久保田、新島 誠司の出入国履歴を入手してくれ」 〈分かった。すぐに取りかかろう〉 「助かるよ、頼んだ」 その後も久保田と二、三会話をした髙野辺は、通話を切ると今度こそ入院手続きに向かった。 ◇ もみじの病室。 髙野辺が入院手続きをしてくれている間、もみじはベッドに腰掛け、胡桃のSNSを確認していた。 「何か……誠司だと分かるような手がかりが投稿されていればいいんだけど……」 今までも誰が見ても「誠司」だと分かるような写真への映り込みは無かった。 「流石に胡桃も誠司の顔が映り込んでしまうような写真の撮り方はしていないわよね……」 そう呟きつつ新しい投稿はないだろうか、と確認していると、案の定胡桃は新しい投
警察官を見送った髙野辺は、もみじに振り返り声をかける。 「新島さん。今回の一件、警察にも記録が残るみたいです。離婚する時にその記録も有利に動くはずです」 そこで一旦言葉を切ると、髙野辺は心配そうにもみじの額にそっと手をやった。 「こんな酷い怪我をしてまで、離婚に有利に動くなんて言いたくはないですが……」 「ありがとうございます、髙野辺さん。私なら大丈夫です。彼──夫も、わざとでは無かったですから」 「それでも、新島さんの夫は怪我をしたあなたを放っているんですよね?こんな大怪我なのに、彼はどうして一緒にいないんですか?」 そうだ。 そもそも、どうしてもみじの夫は彼女を放置しているのか。 故意ではなくとも、自分のせいで怪我をしたと言うのに傍に付いていないなんて有り得ない、と髙野辺は怒っている。 そんな彼に、誠司がいない理由を告げたらもっと怒るのではないか。 そう心配したもみじだったが、髙野辺は久保田弁護士の代理で駆けつけてくれたのだ。 怪我の経緯や、誠司の行方などをもみじは久保田弁護士に報告する必要がある。 もみじは躊躇いつつ、髙野辺に誠司が今ここに居ない理由を話した。 「……夫は、妹──胡桃に呼ばれて急いでE国に戻りました」 「は……?」 もみじの言葉に、髙野辺は信じられないと目を見開く。 「胡桃の具合が悪い、と夫宛に連絡があったんです。具合が悪いと聞いた夫は、気が動転して……離婚の話し合いをしていたので、私は夫を引き止めたのですが、振り払われてしまって……」 「……それで、まさかどこかに頭をぶつけたんですか?」 「ええ……、勢い余って壁に……そこで切ってしまったみたいです」 もみじの言葉の後、病室に沈黙が落ちる。 しーん、と静まり返ってしまった病室で、もみじは気まずさから周囲に視線を彷徨わせた。 その時、髙野辺の腕が視界に入った。 髙野辺は、拳を握り締めていたがその拳が小刻みに震えていた。 拳から見える爪は、力を入れすぎていて真っ白に変わってしまっていて。 誰がどう見ても、かなり怒っていると言う事が分かった。 「……信じられない。妻が自分のせいで大怪我をしたと言うのに、助けもせずに不倫相手の所に飛んで行ったんですか?ただの腹痛、で……?」 勝手に医者に行けばいいだろう、子供か。と低い声で罵る髙野辺に、もみじは目
「新島さんの病室は──ああ、ここですね」 廊下を進んでいた髙野辺は、とある個室の前で止まるとそこの扉を開けてくれた。 「新島さん、俺の手に掴まってください。立てますか?」 「ありがとうございます髙野辺さん」 もみじは髙野辺の手を借りてベッドに移動すると、そこに腰を下ろした。 横になる様子が見えないもみじに髙野辺は首を傾げる。 「横になっていて大丈夫ですよ?」 「──あ、いえ。その、入院の手続きをしないといけないな、と思って……。それに警察の方も来るかもと……」 「ああ!確かにそうですね」 髙野辺が頷いたのと同時、もみじと髙野辺が居る病室の扉がノックされた。 もしかして、もう警察が?と扉の方に顔を向けたもみじ。 髙野辺は返事をしつつ、扉を開けた。 「はい、どなたですか?」 「こちらは新島 もみじさんの病室でお間違いないですか?我々は──署の者です」 もみじが考えていた通り、病院側から連絡を受けた警察がやって来たようだった。 2名の警察官がやって来て、扉を開けた髙野辺に不思議そうな顔を向ける。 「私は彼女の友人です。どうぞ」 「そうだったのですね、失礼します」 髙野辺に案内された警察官が病室に入ってくる。 頭に大きなガーゼをしたもみじを見るなり、警察官は労るような目を向けた。 そして、もみじと髙野辺と少し会話を交わした後、今回の一件について事情を聞いた。 怪我をした経緯や、夫婦の関係性、そしてもみじは離婚を夫に告げている事などを伝えた。 もみじの言葉を一字一句逃さずに手帳にメモをしていた警察官は、手帳から顔を上げて問いかけた。 「どうされますか?被害届を出されますか?」 「──えっ、被害、届……」 「ええ。ご自宅の室内に防犯カメラは設置されていますか?もし映像が残っていれば立件する事は可能なのですが……」 「いえ、室内にカメラはありません。夫に暴力を振るわれた、と言う証拠がないと難しいですよね?」 「ええ、おっしゃるとおり……旦那さんを逮捕するのは難しいかもしれません……」 「そうですか……」 考え込むように黙り込むもみじに、警察官は髙野辺に顔を向けて話しかけた。 「髙野辺さんは新島さんが離婚される事を……」 「ええ、知っています。離婚訴訟に強い弁護士を紹介したのも私です。今日はその弁護士が都合が悪く……
もみじが唖然としていると、処置室にやって来た髙野辺は早足でもみじの傍までやって来ると、女性医師に顔を向けた。 「先生、新島さんの怪我の具合は──」 「出血が多かったので驚いたでしょうけど、縫合の手術はせずに済みましたよ。脳のCTとMRIも撮りましたが、異常はありませんでした。今日は1日安静にしていただいて、様子を見ていただければ大丈夫かと思います」 「──本当ですか、良かった……」 髙野辺は安心したように息を吐き出した。 だが、もみじのこめかみに貼られたガーゼがとても痛々しく見え、髙野辺は悲しそうに眉を下げた。 「痛そうです……大丈夫ですか、新島さん……。いや、大丈夫なんかじゃないですよね。痛いに決まっている」 「だ、大丈夫ですよ髙野辺さん!鎮痛剤も出して貰えましたし、今は痛みを感じませんから!」 「念の為、今日は入院した方がいいと思います。そうですよね、先生?」 髙野辺が女性医師に振り返り、真っ直ぐ目を向けてそう告げる。 髙野辺の正体を知っている女性医師は背筋をすっと伸ばし、頷いた。 「え、ええ……そうですね。万が一、の可能性もありますから……」 「えっ、そ、そんな……」 「先生もそう言っていますし、入院した方がいいですよ新島さん。入院に必要な手続きは俺も手伝いますし」 「ええ、それに──……」 髙野辺の言葉に同意するように女性医師が気まずそうに告げた。 「我々医者は、家庭内暴力があった事を確認しましたので……。警察に報告する義務がございます。……この後、警察が事情を聞きに来ると思いますので、入院された方が対応も楽だと思いますよ」 「──あっ」 そうだった、ともみじは思い出す。 久保田に言われた通り、怪我の経緯を救急隊員に伝えていたのだ。 そして、救急隊は医者に怪我の理由を伝え、報告を受けた医者は警察に報告する義務が発生する。 難しい顔をするもみじに、髙野辺も自らがここに駆け付けた理由を告げた。 「新島さん。俺も、すぐに動けない久保田の代理でここに来たんです。久保田弁護士から詳細を聞いてくれ、と伝えられていて……。俺も警察への話の際、同席して大丈夫ですか?」 「久保田先生から髙野辺さんに連絡があったんですね?」 そう言えば、久保田は髙野辺に紹介してもらった弁護士だったともみじは思い出す。 だからこそ、知り合いの
ガチャン!と鍵の閉まる音が聞こえ、次いで誠司の慌ただしい足音が遠ざかって行くのがもみじの耳に届いた。 「──痛い」 頭を強かにぶつけてしまい、もみじの目の前はぐわんぐわんと回っていた。 何とか痛みをやり過ごし、側頭部に手を持っていったもみじは、自分の手にぬるりとした感触を覚え、驚いたように目を見開いた。 「え……っ、嘘でしょ……?」 ぬるり、とした感触に手のひらを視界に入れる。 するとそこには──。 真っ赤な血が──。 「あ……」 血を認識した瞬間、ぶつけた箇所の痛みが増してくるように感じる。 もみじは痛みに耐えつつ、何とかテーブルまで戻ると上に置いてあった自分のスマホを手に取った。 迷わずにある人物に電話をする。 数回の呼び出し音の後、出たのは──。 〈もしもし新島さん、どうされましたか?〉 「久保田先生──」 久保田弁護士だった。 もみじは痛みに耐えつつ、今あった事を掻い摘んで久保田に報告する。 すると、もみじの説明が終わった途端、久保田は「すぐに救急車を呼んでください」と告げた。 〈夫に振り払われ、頭を強打したんですよね?救急車を呼んで、救急隊員にその事を伝えてください〉 「で、ですが意識もはっきりしていますし……タクシーを呼んだ方が……」 〈いえ、打った箇所が頭なので救急で向かった方がいいです。出血は今も?〉 「は、はい……柔らかい?肌の部分が切れてしまったようで……まだ止まっていません」 〈分かりました。すぐに電話を切りますので、この後すぐに救急車を呼んでください。私はこの後、どうしても外せない客先への訪問がありますので、別の人間を向かわせます。私に搬送先の病院をメールでも結構ですので、連絡をお願いします〉 「わ、分かりました久保田先生」 〈では、失礼しますね〉 久保田と繋がっていた電話が切れ、もみじは言われた通り救急車を呼んだ。 ◇ 救急車で搬送されたもみじは、病院の処置室で手当を受けていた。 「こめかみの辺りは出血が多いのです。ですが、縫う程にはならなくて良かったですね」 「ありがとうございます。出血量が多くて、焦ってしまいました……動転して救急車を呼んでしまって申し訳ございません……」 「何を言いますか!頭を強打しているのですから、救急で来ていただいた方が安心です。幸い、今回は脳に何の異
「わざわざ会社まで押しかけて、何のつもりだ?」 社長室に向かい、入室したもみじを迎えたのは、誠司のそんな心無い冷たい言葉だった。 呆れたように額を手のひらで抑え、溜息を吐き出す誠司。 そして、誠司の後ろにあるソファには胡桃が当然のように座っていて。 もみじは、まさか開口一番、誠司にそんな言葉を言われるとは思っていなかった。 「何のつもりって……。どうして私が誠司の会社に来ただけで、そんな事を言われなくちゃ……」 「俺は仕事で忙しいのに、どうして俺を煩わせる?話があるなら、帰ってからでもいいだろう?急ぎの用事なんてもみじには無いだろうに……」 はあー、と深い溜息
◇ 誠司の会社。 「──ぐぅっ」 「しゃ、社長……大丈夫ですか?」 「……胃薬を。今すぐ手配してくれ」 「か、かしこまりました!」 誠司は、社長室でキリキリと痛む胃を押さえ、脂汗を浮かべていた。 誠司の秘書──田島は、真っ青な顔で辛そうに唸る誠司を見て慌てて薬局に走った。 「──くそっ、昨夜の飯が……」 少々、脂っこい感じがしたのだ。 その事に気付いた誠司は、全て食べる事はせずに捨てたのだが、それでも胃がキリキリと痛み辛い。 「こんな風になる事は、ここ最近無かったのに……」 もみじと結婚してから。 この数年、胃が痛むと言う経験は殆ど無かった。 それなのに、昨夜は
週明け。 朝、誠司は会社に出社し、パソコンを立ち上げてメールを確認した。 だが、時間が経ってもそこには──。 「何故、Seaから連絡が返ってきていない!!」 誠司は苛立ちを顕にして、デスクに強く拳を叩きつけた。 今回、誠司の会社では新しくアクセサリーの販売を手掛ける。 アクセサリーにはジュエリーが付き物。 質の良いジュエリーには、最高のデザイナーがデザインしてくれた物が相応しい。 だからこそ、誠司は国内──いや、海外でも最高のデザイナーであるSeaに仕事を依頼したのだ。 誠司がデザイン会社を立ち上げ、まだ会社が軌道に乗っていない頃。 毎日残業続きで、体を壊す寸前まで悩み
◇ その日の、夜──。 もみじを病室まで送り届けた髙野辺は、もみじにまた明日と挨拶をして部屋を出た。 そして、髙野辺はそのまま病院を出る事なくある場所に向かって歩いていた。 髙野辺が向かったのは、病院の「院長室」 院長室のドアをノックすると、院長自ら扉を開けた。 「髙野辺様!」 「院長、急にすまない」 「いいえ、いいえ!髙野辺様でしたらいつでも!いつもご支援いただき、本当に感謝しております!」 室内に案内された髙野辺は、促されるままソファに腰を下ろした。 院長が髙野辺の目の前にコーヒーの入ったカップを置くと、不安そうに視線を向けてくるのを感じる。 髙野辺は淹れてもらっ







