〈胡桃(こもも)が具合が悪いと言うんだ。もみじ、胡桃はお前の妹だろう?妹が具合が悪いと言うのに、お前は少しも心配じゃないのか?冷たい女だな〉 「だけど、誠司(せいじ)さん!今日は私の──」 〈キンキン喚くな、うるさい。胡桃の様子を見たらすぐに帰る、これで満足だろう?待っていろ〉 それだけを言うと、男は通話をぶつりと切ってしまった。 ツーツー、と無機質な機械音が耳に届くだけになり、女性──新島(にいじま)もみじは、疲れたように溜息を1つ零し、スマホを持った手をだらり、と力なく垂らした。 「今日は、私の誕生日で……私たちの結婚記念日だったのよ……?」 今日のために用意した豪華な料理も。 今日のために新調した、可愛らしい下着も。 きっと、全部全部無駄になる。 もみじは乾いた笑いを零し、呟いた。 「どうせ、誠司は今日も帰って来ないもの……。やっと、やっと誠司と本当の意味で一緒になれる、と思ったのに」 結婚して、2年。 もみじと誠司は結婚して2年になるが、まだ本当の夫婦にはなっていなかった。 初夜の日も、もみじの義妹である胡桃が体調を崩し、倒れたと言う知らせを聞き、誠司は新婦をそっちのけで胡桃の元に駆けつけた。 ベッドで1人放置されてしまったもみじの元に、誠司は戻ってくる事はなく、気がつけばその日は朝日が上るまでもみじは呆然と過ごした。 そして、結婚1年目の記念日。 もみじと誠司は記念日だから、とホテルでディナーをとり、その日はホテルのスウィートを取っていた。 そこでようやく、誠司に初めて抱かれるのだ、ともみじがドキドキと胸を高鳴らせていた時。 ホテルのレストランを出た誠司のスマホに、胡桃の両親、もみじの義母と父親から連絡が入ったのだ。 胡桃が交通事故に遭い、怪我をしたと。 それを聞いた誠司は、血相を変えてもみじを連れて病院に駆け付けた。 胡桃は大した怪我をしていないと言うのに、胡桃の状態を心配した誠司はその日は病院で過ごし、そのまま彼に付き合ったもみじも病院で朝を迎えた。 誠司が寝ている中、胡桃が醜い笑みを浮かべ、もみじに放った一言が、もみじの記憶から消えない。 「誠司さんは、姉さんより私の方が大事なのね。姉さんは可哀想だわ」 勝ち誇ったような顔と、言葉。 誠司は、こんな言葉を醜い笑みで告げる胡桃の姿を知らないのだ。
最終更新日 : 2026-01-26 続きを読む