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第25話

作者: 空に浮かぶ雲
遠時は固まり、関節が白くなるほど両手でシーツを強く握りしめる。

数秒後、はっとしたように我に返ると、すがるような口調で聞いた。「夏美は?夏美はどうなったんだ?」

「あまりいい状態とは言えません……」

遠時は心臓が張り裂けそうな思いに駆られ、無理やりにでも起き上がろうとした。「夏美はどうしたんだ?会いに行かなきゃ!」

「社長!社長は医者から絶対安静だと言われてるんですよ!」冬馬が慌てて遠時を止める。「元奥様は、神崎社長が海外へ連れて行きました」

遠時は信じられないといった顔で、冬馬を見つめた。「海外?どうして海外なんかに?今すぐ連れ戻してやる!」

「社長!彼女は治療のために海外へと行ったんです。あのままでは、命が助かりませんでしたから」

冬馬は大声で言った。遠時のぼう然とした様子を見て、言葉を強める。

「元奥様は子供の頃から虐待を受けていた上に、社長と結婚してからも篠原さんに血液を提供し続け、体はもう限界を迎えていました。

それに加え、崖から落ちた時、内臓に致命的な損傷を負ってしまい、本来なら目覚めるはずもなかったんですが……復讐心という執念だけで命を繋いでいたのでしょ
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  • 私は旦那の愛人に血を与えるためだけの道具だった   第25話

    遠時は固まり、関節が白くなるほど両手でシーツを強く握りしめる。数秒後、はっとしたように我に返ると、すがるような口調で聞いた。「夏美は?夏美はどうなったんだ?」「あまりいい状態とは言えません……」遠時は心臓が張り裂けそうな思いに駆られ、無理やりにでも起き上がろうとした。「夏美はどうしたんだ?会いに行かなきゃ!」「社長!社長は医者から絶対安静だと言われてるんですよ!」冬馬が慌てて遠時を止める。「元奥様は、神崎社長が海外へ連れて行きました」遠時は信じられないといった顔で、冬馬を見つめた。「海外?どうして海外なんかに?今すぐ連れ戻してやる!」「社長!彼女は治療のために海外へと行ったんです。あのままでは、命が助かりませんでしたから」冬馬は大声で言った。遠時のぼう然とした様子を見て、言葉を強める。「元奥様は子供の頃から虐待を受けていた上に、社長と結婚してからも篠原さんに血液を提供し続け、体はもう限界を迎えていました。それに加え、崖から落ちた時、内臓に致命的な損傷を負ってしまい、本来なら目覚めるはずもなかったんですが……復讐心という執念だけで命を繋いでいたのでしょう。神崎社長が社長たちを救い出した後、元奥様はすぐに病院に運ばれましたが、医師から多臓器不全の診断が下されて……」遠時は糸が切れた操り人形のように、再びベッドへと倒れ込んだ。病院の天井を見つめる彼の瞳には、絶望の色だけが浮かんでいる。すべては、自分が招いたことだ。冬馬は声を震わせながら続ける。「神崎社長は以前から繋がりのあった海外のラボで最新の特効薬を開発していました。元奥様はその治験を受けるために向かったんです。生き残れるかどうかは、運次第です……」遠時はかすれた声で言った。「一人にしてくれるか?」病室のドアが閉まると、遠時は震える拳で自分の脚を激しく叩いた。だが、もうそこに痛みは感じられない。……3年後、ステンドグラスから差し込む陽光が、色とりどりの輝きを放っている海外の古びた教会では、純白のウェディングドレスを纏った夏美が、バージンロードに立っていた。その顔立ちは以前と変わらぬ美しさを保ち、瞳には数多の苦難を越えてきた深みと強さが宿っている。この3年間、夏美は何度も生と死の狭間をさまよってきた。壮絶な苦痛に耐えながら、数え切れないほどの新薬

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    朔夜の部下が到着する直前、遠時は夏美を連れて外で待たせていた車に飛び乗り、現場を離れた。車窓にしがみつく夏美の目に映ったのは、病院へと搬送されていく朔夜の姿だった。遠時は夏美の体を窓から引き剥がし、感情を爆発させる。「夏美、そんなにあの男がいいのか!」「昔はあなたを愛してたから、あなたの為なら何だってできた。でも、あなたは私に何をしてくれた?篠原さんのために3年間も身を削って献血したのに、あなたはそれを『覚えてない』なんて適当に片付けたよね?お母さんの目の前で私に屈辱を与え、追い詰め、お母さんを死に追いやった。それに、篠原さんが手を下したと知っていながら、なんで私に『許せ』なんて言えたの?ましてや、篠原さんの他愛もない一言で、お母さんの骨を犬の餌に混ぜたんでしょ?今までのこと、ひとつひとつ挙げればキリがない……遠時、今更『愛してる』なんて笑わせないでくれる?あなたにお母さんを生き返らせることができるって言うの?」遠時は夏美を新しい邸宅へ連れ込んだが、彼女の氷のように冷たい視線に耐えきれず、その場から逃げ出した。リビングで独り、夏美は掃き出し窓から闇に溶ける夜景を見つめていた。朔夜がどうなったのか、心配でたまらない。復讐のために歩んできた道のりは、ひどく長く、胸に言い知れぬ疲労が溜まっていた。あの崖から飛び降りたとき、死ぬことしか考えていなかった。母を失い、世界に頼れる人はもういなかったから。心にぽっかりと穴があき、生きる気力など微塵も残っていなかった。それでも、理由は分からないが意識のどこかで、医師の残酷な宣告が聞こえていた。「このまま目覚めなければ、植物人間になります」朔夜は諦めずに、ずっと自分の耳元で話しかけてくれていた。それも、たまに手を上げて耳を塞ぎたいと思うほどに。だが悲しいことに、指一本動かすことすら、自分にはできなかった。「本当に馬鹿だな。俺が何とかするって言ったのに、なんで少し待ってくれなかったんだよ?あいつらの悪事の証拠は、もう山ほど集めてあるんだ。君さえ証言してくれれば、篠原一族を法廷へ引きずり出せるのに。あのとき電話をくれたよな。でも俺は丁度任務中で、携帯は機密管理室に預けていたんだ。まさか、連中と同じで、俺も当てにならないと思ったのか?俺があと少し早く戻っていれば、君はあ

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  • 私は旦那の愛人に血を与えるためだけの道具だった   第20話

    自分は本当に、晴香が完治していたことを知らなかった。それに、夏美があれほどの苦痛に耐えていたことも……車を止めると、遠時は明かりが灯るロビーへと走った。入口まであと少しというところで、夏美と朔夜が仲睦まじく歩いてくるのが見えた。朔夜が丁寧に夏美へコートをかけてあげると、夏美は顔を上げ、遠時が見たこともないような、晴れやかな笑顔を見せた。その瞬間、伝えようとしていたすべての言葉が、喉の奥で詰まってしまった。夏美は……幸せそうだ。自分がいなくても、夏美はうまくやっているようだ。遠時はその場に凍りついたまま、朔夜が夏美を守るように車に乗せ、車のエンジンがかかるのをただ見ていた。胸の奥で渦巻く嫉妬は、理性を呑み込まんばかりに膨れ上がり、後悔と自責もまた、限界まで彼を追い詰めていた。自分をあれほど愛してくれていた夏美が、たった1ヶ月で別の男のものになってしまったことが受け入れられない。たまらず車の方へ駆け出した遠時は、乗車しようとする二人の後ろ姿を見て、何とか止めようとした。朔夜は駆け寄ってくる遠時に気づくと、冷徹な声で運転手に指示を出す。「構わなくていい。そのまま跳ね飛ばせ」一瞬たじろいだ運転手だったが、朔夜の非情な眼差しに押し切られ、迷わずアクセルを踏み込んだ。轟音と共に、遠時の体は宙を舞い、地面に叩きつけられた。遠時は鮮血を吐き出した。しかし、体が痛いのか、それとも胸が痛いのか、遠時には分からなかった。朔夜は車を降り、血だまりに倒れる遠時を見下ろすと、鼻で笑った。「二度と夏美に近づくな。次は、命を保証できるか分からないぞ」そして、遠時の前に屈み込み、追い打ちをかけるように告げた。「そうだ、言い忘れていたことがある。お前が事故に遭った時、実際に救急車を呼んだのは、今の奥さんじゃないらしいぞ」遠時は大きく目を見開き、言葉にならない呻き声を上げる。冷ややかな目を遠時に向けた朔夜。「橘グループの社長が、こんな分かりやすい嘘に騙されるなんて。憐れなことだな」意識が遠のく遠時が最後に見た光景は、朔夜が車に戻り、夏美を連れて立ち去る姿だった。夏美は遠時を見ることもしなかった。この時初めて、遠時は理解した。夏美が彼を本当に愛していない……ということを。病室で目を覚ました遠時は、鼻を突く消毒液の匂

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