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第153話

Author: 春うらら
結衣は一瞬きょとんとしたが、すぐに我に返って微笑んだ。

「来週は少し忙しくなりそうだから、この次のお食事は、私が潮見ハイツに引っ越してから、また改めて約束させて」

「分かった。じゃあ、帰り道、気をつけて」

ほむらと別れた後、結衣は車を走らせた。

汐見家の本家に戻り、リビングに足を踏み入れた途端、ソファに腰掛けている時子の姿が目に入り、結衣は驚きに目を見開いた。

「おばあちゃん、どうしてこんなに遅くまで起きています?」

結衣の姿を認めると、時子は隣の席をぽんぽんと叩いた。

「結衣、こっちへ来てお座りなさい。話があるの」

「何の話ですか?」

時子の隣に腰を下ろすと、結衣は不思議そうに彼女を見つめた。

「結衣、日曜日のパーティーのことなんだけど、何か好きなスタイルはあるかしら。もしあれば、和枝にあなたの好きなスタイルで準備させるわ」

結衣は首を横に振った。

「おばあちゃんにお任せします。特に好きなスタイルはありませんから」

その言葉に、時子の目に失望の色が浮かんだ。

「結衣、今日ね、あなたの母親が満に全く同じ質問をしたの。満がどう答えたか、知ってる?」

結衣は眉をひそめた。

「おばあちゃん、彼女がどう答えたかなんて、私には興味ありません」

それに、もし時子が強く戻ってこいと言わなければ、自分は一生この家に戻ることはなかっただろう。

「興味がないのは分かっているわ。あなたの馬鹿な両親にも心底失望して、もう関わりたくないと思っていることもね。

でも、あなた自身のものを、あなたが自分で勝ち取らなければ、他の人に取られてしまうのよ」

「でも、そんなもの、私は気にしませんし、満と争いたくもありません」

時子はむっとした顔で彼女を一瞥した。

「気にしないですって?もしあなたが今でも汐見家のお嬢様だったら、あんな古いアパートに住むことも、長谷川涼介にあんな風にいじめられることもなかったはずよ!

自分の利益さえも勝ち取ろうとしないなら、誰かがあんたのために戦ってくれるとでも思っているの?!

それに、最近、個人で法律事務所を立ち上げようとしているんでしょう?

汐見家の力を借りられれば、事務所の立ち上げもずっと楽になるはずよ。一人でやろうなんて考えないこと。そんなことをすれば、苦労するだけだわ」

結衣はプライドが高すぎるのだ。だからこそ、こ
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