妹が嫌がっているからと婚約破棄したではありませんか。それで路頭に迷ったと言われても困ります。

妹が嫌がっているからと婚約破棄したではありませんか。それで路頭に迷ったと言われても困ります。

last updateHuling Na-update : 2025-09-04
By:  木山楽斗In-update ngayon lang
Language: Japanese
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伯爵令嬢であるラナーシャは、妹同伴で挨拶をしに来た婚約者に驚くことになった。 その妹は、態度が悪かった。明らかにラナーシャに対して、敵意を抱いていたのだ。 そして婚約者は、ラナーシャに対してあることを告げてきた。妹が嫌がっているから婚約破棄すると。 かくして破談となった婚約だったが、婚約者とその妹はそれを後悔することになる。 大切な婚約を身勝手な理由で破談としたことで、彼らは家を追い出されたのだ。 二人はラナーシャに助けを求めたが、既に新たな婚約者候補を得ていた彼女がそれを受け入れることはなかった。ラナーシャは新たな婚約者候補とともに二人を追い返し、ことなきを得たのだった。

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Kabanata 1

妹の婚約

 リヴァーテ伯爵家には、男子が生まれなかった。

 よって長女である私が、婿を迎えるということになっている。

 その婿選びというのは、当然のことながら大切だ。リヴァーテ伯爵家を任せられる人でなければ、ならないのだから。

「そんなことを言っている間に、妹に先を越されるなんてね」

「あはは、それは確かにそうですね。でも私の場合は、好意の方が先にあったといいますか……」

「その話はもう何度も聞いたわね。まあ、何度聞いても悪い気はしないのだけれど……」

 妹のルナーシャは、姉である私よりも先んじて婚約が決まっていた。

 それは、貴族としては珍しい恋愛による婚姻である。彼女は、リヴァーテ伯爵家に仕えている使用人――ドナテロ男爵家の三男ダナートと婚約関係にあるのだ。

 同い年ということもあって気が合っていた二人は、紆余曲折あったものの婚約することになった。

 それは祝福するべきことだと、私は認識している。懸念点などがないという訳でもないが、それでも二人なら幸せにやっていけると思う。

 妹を任せられるという意味において、ダナートは最適である。私からしてみても、信頼できる人だ。両親だって、そう思っていることだろう。

「まあ、あなたの婚約が無事に決まったことによって、私の方はかなり焦っているというのが正直な所ではあるわね」

「別にお姉様だって、そこまで焦るような年齢ではないと思いますが……」

「そうだとしても、やっぱり妹に先を越されているというのはね。色々と気になるものなのよ」

「お姉様の場合は、家を任せる婿を迎え入れる訳ですから、私よりも難航するのは当然のことでしょう」

「それもわかっているのだけれど、どうにも落ち着かなくて……」

 物心ついた頃から、私は貴族としての生き方を学んできた。

 婿を迎え入れて、伯爵家や領民を守り、子供を残して次世代に繋いでいく。それを私は、自らの使命であると認識している。貴族として豊かな暮らしをさせてもらっているのだから、それは当然のことだ。

 だからこそ、その使命を果たせていないという現状がもどかしかった。妹の婚約ということは、そんな私を心理的にさらに焦らせるものなのだ。

「といっても、私にできることなんてそんなにある訳でもないのよね……」

「まあ、基本的にはお父様が決めることですからね」

「舞踏会に足を運んでみたりしているけれど、それにどれだけ効果があることか……」

「お姉様は選ぶ立場です。求婚というなら、多分結構されているのではないでしょうか? お父様が知らせていないだけで……」

 結局の所、お父様からの知らせを待つしかないというのが私の現状である。

 焦っても仕方ないことなどはわかっている。私はただ、ずっしりと構えておくべきなのだろう。

 それが難しいことだと思う私は、案外小心者なのかもしれない。

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妹の婚約
 リヴァーテ伯爵家には、男子が生まれなかった。  よって長女である私が、婿を迎えるということになっている。  その婿選びというのは、当然のことながら大切だ。リヴァーテ伯爵家を任せられる人でなければ、ならないのだから。「そんなことを言っている間に、妹に先を越されるなんてね」 「あはは、それは確かにそうですね。でも私の場合は、好意の方が先にあったといいますか……」 「その話はもう何度も聞いたわね。まあ、何度聞いても悪い気はしないのだけれど……」 妹のルナーシャは、姉である私よりも先んじて婚約が決まっていた。  それは、貴族としては珍しい恋愛による婚姻である。彼女は、リヴァーテ伯爵家に仕えている使用人――ドナテロ男爵家の三男ダナートと婚約関係にあるのだ。 同い年ということもあって気が合っていた二人は、紆余曲折あったものの婚約することになった。  それは祝福するべきことだと、私は認識している。懸念点などがないという訳でもないが、それでも二人なら幸せにやっていけると思う。  妹を任せられるという意味において、ダナートは最適である。私からしてみても、信頼できる人だ。両親だって、そう思っていることだろう。「まあ、あなたの婚約が無事に決まったことによって、私の方はかなり焦っているというのが正直な所ではあるわね」 「別にお姉様だって、そこまで焦るような年齢ではないと思いますが……」 「そうだとしても、やっぱり妹に先を越されているというのはね。色々と気になるものなのよ」 「お姉様の場合は、家を任せる婿を迎え入れる訳ですから、私よりも難航するのは当然のことでしょう」 「それもわかっているのだけれど、どうにも落ち着かなくて……」 物心ついた頃から、私は貴族としての生き方を学んできた。  婿を迎え入れて、伯爵家や領民を守り、子供を残して次世代に繋いでいく。それを私は、自らの使命であると認識している。貴族として豊かな暮らしをさせてもらっているのだから、それは当然のことだ。 だからこそ、その使命を果たせていないという現状がもどかしかった。妹の婚約ということは、そんな私を心理的にさらに焦らせるものなのだ。「といっても、私にできることなんてそんなにある訳でもないのよね……」 「まあ、基本的にはお父様が決めることですからね」 「舞踏会に足を運んでみたりしてい
last updateHuling Na-update : 2025-09-01
Magbasa pa
決まった婚約
「喜べ、ラナーシャ。お前の婚約が決まった」 お父様に呼び出された私は、その言葉に驚くことになった。  私はつい先程まで、妹と自分の婚約について話していた所だ。中々決まらないことに、悩んでいたのである。  それがこんなにも早く解決するとは、思っていなかった。とはいえ、これは喜ぶべきことであるだろう。「えっと、一体どなたとの婚約が決まったのですか?」 「エーヴァン伯爵家の次男イルルグを知っているか?」 「イルルグ様……ええ、何度か話したことはありますね」 お父様の口から出た名前は、知らないという訳ではなかった。  舞踏会などのいくつかの場で、私はそのイルルグ様と顔を合わせたことがある。 ただ彼と婚約することになるなんて、正直意外だ。  イルルグ様とは、それ程親しくしていた覚えはない。それ所か彼は私に対して興味を持っていないような気がする。なんというか、冷たい人だったのだ。 となるとこの話は、お父様とエーヴァン伯爵との間で取り決められたものということだろうか。その可能性は高そうだ。だとしたら、私が舞踏会などに赴いていたことは、あまり意味がなかったということになる。「彼は私に、あまり良い印象を持っていないと思っていましたが……」 「いや、そうでもないぞ。彼はお前のことを素敵な女性だったと、エーヴァン伯爵に言っていたらしい」 「え? そうなのですか?」 「ああ、まあ、内心何を思っているかなど、わかることではないからな」 お父様は、やけに上機嫌であった。  恐らく、今回の縁談は良い条件でもあったのだろう。そういったことに関して、お父様は案外わかりやすい人だ。 ともあれ、悪い印象をもたれていなかったという事実には安心することができる。  イルルグ様は、お父様と違ってわかりにくい人ということだろうか。それはそれで少々心配ではあるが、まあなんとかなるはずだ。付き合っていく内に、わかっていくかもしれないし。「さて、そういうことだから、これから話を進めていこうと思っているのだが、異論はないか?」 「え? ええ、それはもちろんありませんよ」 「お前の方は悪い印象などは持っていなかったのか? 先程の言葉を聞くと、少々心配になってくるのだが……」 「あ、はい。私の方は別になんとも思っていません。紳士的な人だと思っていました」 イルルグ様にどう思
last updateHuling Na-update : 2025-09-01
Magbasa pa
やって来たのは
 婚約が決まってから程なくして、リヴァーテ伯爵家の屋敷にイルルグ様が訪ねて来た。  それは事前に知らされていたことである。そのためこちらも、おもてなしの準備をしていた。 ただ実際に彼が来訪して、私達は驚くことになった。その隣に、一人の少女がいたからだ。  その少女のことを、私は知っている。彼女も舞踏会の場などで時々見かけた。確か名前は、ウルーナ。エーヴァン伯爵家の長女にして、イルルグ様の妹だ。「まずは改めて自己紹介から始めさせてください。面識はありますが、形から入りたい所ですからね……僕は、エーヴァン伯爵家の次男イルルグと申します」 「あ、えっと、私はラナーシャといいます。リヴァーテ伯爵家の長女です」 「どうも。この度はあなたと婚約できて、嬉しく思っています。ラナーシャ嬢は立派な淑女だと、以前から思っていたものですから」 「ありがとうございます」 イルルグ様は、特に隣にいる妹のことに触れずに話を進めていた。  予定にはなかったが、急遽同行することになったということだろうか。  婚約する以上、当然家族への挨拶は必要だ。そのために彼女が来訪して来ても、そこまで不思議なことではない。もちろん、少々無礼な気はしないでもないが。「それでイルルグ様、そちらはウルーナ嬢ですよね? どうして彼女がこちらに?」 「そのことは私からお話します」 私の言葉に応えたのは、イルルグ様ではなくウルーナ嬢だった。  彼女は、目を細めてこちらを見てくる。なんというか、それはあまり心地の良い視線ではない。「えっと……ウルーナ嬢で、よろしかったですよね?」 「ええ、私はウルーナです。ラナーシャ嬢、どうもこんにちは」 「……こんにちは。それで、あなたはどうしてこちらに?」 「お兄様の婚約者を、一目見ておきたいと思ったのです。色々と心配でしたからね」 「心配、ですか……」 ウルーナ嬢の言葉に、私は少しだけ眉をひそめた。  彼女はなんとも、上から目線で言葉を発している。何故そんなにも偉そうなのだろうか。その意味がわからない。 強く主張するつもりなどはないが、自分達の方が選ばれた立場であるということを理解していないのだろうか。  見た所、ウルーナ嬢はルナーシャと年は変わらないくらいに思える。その年齢でこの態度は、流石に無礼なものだ。  とはいえ、それも許すくら
last updateHuling Na-update : 2025-09-01
Magbasa pa
趣味の話
「さてと、まずは何からお話しましょうかね……」 私の正面には、イルルグ様とウルーナ嬢が座っている。  二対一となってしまったのは、想定外のことだ。とはいえ、ウルーナ嬢は私のことを見極めに来たみたいだし、他の誰かに相手をしてもらう訳にもいかない。先程から私に見極めるような視線を向けているし、ここはとりあえずイルルグ様と話をすれば良いのだろうか。「お互いのことを知ることから始めませんか? 月並みではありますが、趣味の話などはどうでしょうか? ラナーシャ嬢は、何かご趣味などはありますか?」 「趣味ですか。そう言われると、これというものを出せないのが、私の欠点と言えますね。しかし強いて言うなら、乗馬などでしょうか。昔から動物が好きでして……」 「おや、それでは何か飼われたりしているのですか?」 「ええ、犬や猫を飼っています」 とりあえず私は、イルルグ様の提案に従って趣味について述べてみた。  それに対する彼の反応は、悪くないような気がする。ただ私は気になっていた。イルルグ様の隣で、ウルーナ嬢が目を細めているということが。  今の話は、彼女にとっては恐らく快いものではなかったのだろう。それを理解して、私は少々億劫になっていた。「ウルーナ? どうかしたのかい?」 ウルーナ嬢の不機嫌そうな様子は、当然隣のイルルグ様にも伝わったようだった。  彼は、心配そうに妹に話しかけている。結構過保護なのだろうか。その表情からは、そんな少々嫌な情報が伝わってきた。「私は動物はあまり好きではありません」 「うん? ああ、そうだったかな?」 「ええ、まあ、嫌いなことを口にしたりはしませんからね。お兄様が知らないのも無理はないことです。ですが、動物なんてものは臭いも気になりますし、好きになる気持ちはよくわかりません」 ウルーナ嬢は、明らかに私を煽るような表情で言葉を発していた。  その言い分には、はっきりと言って不愉快なものだ。例え動物が嫌いだとしても、そこまで言う意味がよくわからない。  自分は苦手などと言って、適当に流しておけば良いことではないだろうか。彼女の好きな人を馬鹿にする発言には、流石に私の表情も引きつってしまう。「ああ、気を悪くしたならすみません。私、つい思ったことを口にしてしまう質でして」 「ラナーシャ嬢、申し訳ありませんね」 「い、いえ…
last updateHuling Na-update : 2025-09-01
Magbasa pa
兄妹への愛情
「えっと、イルルグ様には何か趣味などはあるのですか?」 「趣味、ですか……」 気を取り直して、私はイルルグ様に質問を投げかけてみた。  私の趣味では盛り上がらなかった訳ではあるが、流石に彼の趣味なら大丈夫だろう。ウルーナ嬢だって、流石に兄のことを侮辱したりはしないはずだ。「自分で話を振っておいてなんですが、実の所僕にはこれといった趣味がなくてですね……」 「あら、そうなのですか?」 「ええ、ラナーシャ嬢のように好きなものもありませんね。ああ、家族のことは大切にしています。特にここにいるウルーナとか……」 イルルグ様は、少しうっとりとしながらウルーナ嬢の方を見ていた。それにウルーナ嬢の方も、優しい視線を返す。  どうやらこの兄妹は、お互いに思い合っているようだ。それ自体は、結構なことだろう。問題は私が、蔑ろにされていることである。  イルルグ様の方は、まだいい。私に対しても、友好的だと思う。ウルーナ嬢の方は、なんとかして欲しいものである。このままでは、あまり彼女と良い関係を築けそうにない。「ウルーナの趣味は何かな?」 「私の趣味、ですか?」 「ああ、せっかくだから、ラナーシャ嬢に伝えてみたらどうかな? 彼女の趣味は、ウルーナにとって気に食わないものだったらしいけれど、ウルーナの趣味をラナーシャ嬢は気に入るかもしれない」 「ラナーシャ嬢が、ですか……」 イルルグ様の言葉に対して、ウルーナ嬢は眉を寄せていた。  あまりその言葉を、受け入れたそうではない。私と仲良くする気なんて、ないということだろうか。  もちろん私も仲良くしたいと思っている訳でもないのだが、その態度には頭が痛くなる。彼女は婚約をなんだと思っているのだろうか。もう少し友好的になるべきだろうに。「お兄様、私はラナーシャ嬢がお兄様の婚約者なんて嫌です」 「え?」 「こんなのと結婚しても、お兄様は幸せにはなれませんよ。やめておいた方がいいと思います」 そこでウルーナ嬢は、とんでもないことを口にした。  友好的所か、それは決定的な決別な言葉だ。彼女はそれを、本気で言っているのだろうか。  いや、冗談だとしても許されることではない。言っていいことと悪いことがある。「そうか……」 「……イルルグ様?」 妹の言葉を受けて、イルルグ様はこちらを向いた。  その動作に私は
last updateHuling Na-update : 2025-09-01
Magbasa pa
婚約者の変化
「イルルグ様、あなたは自分が何を言っているのかわかっているのですか?」 「わかっているとも。僕はあなたとの婚約を破棄する」 私の言葉に、イルルグ様はとても冷たい返答を返してきた。  彼の雰囲気は、少し変わっている。なんというか、突き放すような態度だ。  それに私は少し、怯んでいた。人からここまで明らかな敵意を向けられるなんて、初めての経験である。私は少し、気圧されてしまっているらしい。「な、何故婚約破棄なんて……」 「妹が嫌がっているんだ。理由なんてそれで充分だろう」 「そんなことで……」 イルルグ様の述べた理由は、到底充分なものではなかった。  婚約破棄とは、二家に対して大きな打撃を与えるものだ。相応の理由がなければ、まず行わないことである。少なくとも妹が嫌がっているなんて理由で婚約破棄なんて、聞いたことがない。「これは問題ですよ、イルルグ様。あなたのその判断は、エーヴァン伯爵家の立場を悪くするものです。リヴァーテ伯爵家は、これに抗議します」 「抗議したいなら、勝手にすればいい。僕にとって大切なのはウルーナだ。エーヴァン伯爵家だって関係はない。ウルーナが嫌がっている。それが全てだ」 「なっ……」 正式に抗議すると言っても、彼の態度は特に変わらなかった。  そんなものは痛くも痒くもないということだろうか。いや、そんなことはないはずだ。  妹が嫌がっているから婚約破棄したなどと噂が広がれば、少なくともこの二人は社交界から排斥されるはずである。 いや、それでも構わないと思っているということかもしれない。彼らにとっては、貴族であることはどうでも良いということか。「イルルグ様は、妹への愛だけで生きていくというのですか?」 「ふん、無能な割には良いことを言うじゃないか。その通りだ。僕はウルーナを愛することで生きている。ウルーナさえいれば、僕には何も必要はない」 「それは私も同じです。頼りにしていますよ、お兄様」 二人は、自分達だけの世界に入っているようだった。  その意思は固そうである。止めるのは無理そうだ。  ただそもそもの話、別に私に止める理由があるという訳でもない。念のために色々と言ったが、それは気遣いだ。彼らがそうしたいというなら、もうそれでいい。「わかりました。そういうことなら、どうぞご勝手に。後悔しても知りませんから
last updateHuling Na-update : 2025-09-01
Magbasa pa
当然の怒り
「婚約破棄など、凡そ許せることではない」 イルルグ様の婚約破棄に対して、お父様はひどく憤りを感じているようだった。  いや、お父様だけではない。隣にいるお母様もルナーシャも、怒ったような顔をしている。  それは当然といえば当然のことではあるだろう。イルルグ様もウルーナ嬢も、リヴァーテ伯爵家を侮辱したようなものなのだから。「そもそもの話、妹が嫌がったから婚約破棄など聞いたことがない。一体エーヴァン伯爵家はどういう教育をしているのだ」 「お父様、どうか落ち着いてください。今回の件に関しては、とにかくエーヴァン伯爵家に抗議するとしましょう」 「ラナーシャ……そうだな。私としたことが取り乱してしまった」 私の言葉で、お父様の怒りは少しだけ収まったようだった。  ここまで怒っているお父様を見るのは、一体いつ振りのことだろうか。どうやら今回の件は、相当頭にきているらしい。  しかしだからこそ、行動は冷静にしなければならないだろう。怒りに身を任せたりせず、論理的に抗議する。今はそれが必要だ。「今回の件は、当然のことながらイルルグの独断ということになるのだろう。エーヴァン伯爵が冷静な男であるならば、この件は示談に持ち込むはずだ」 「まあ、それはそうでしょうね。ある程度の利益は得られそうですか……」 「もちろん、むしり取れるものはむしり取るつもりだ」 「ええ、是非ともそうしましょう」 お父様程我を忘れている訳ではないが、私も当然怒ってはいる。  イルルグ様もウルーナ嬢も、お互いの大切なことは理解できた。だが、それは別に他者を侮辱して良い理由にはならないだろう。 他者を排除して二人だけの世界で生きようとする。そんな生き方にはきっと限界が来るだろうに、あの二人はどうしてあんな風なのだろうか。  とはいえ、それは私には最早関係がないことではある。あの二人がどうなろうと、知ったことではない。むしろ、その身勝手の報いを受けて欲しいものである。「さてと、エーヴァン伯爵家のことは置いておいて、お前の婚約については色々と考えなければならないな」 「そうですよね……婚約破棄されたという事実は不利に働くでしょうか?」 「いや、お前の場合はそうでもないだろう。リヴァーテ伯爵家の時期当主は魅力的だ。婚約破棄されたというだけで、求婚が落ち着くことはないだろう」 「そ
last updateHuling Na-update : 2025-09-01
Magbasa pa
不必要な者達(モブside)
 エーヴァン伯爵は、息子と娘を前にしてその目を細めていた。  数日前、せっかく決まった婚約を息子が破棄したと言って戻って来た時には、彼も肝を冷やした。  何故そのようなことをしたのか、そう聞いて返ってきたのは「妹が嫌がっているから」という理由である。 父親であるエーヴァン伯爵も、当然兄妹の仲が良いことは理解していた。  しかしながら、それを理由に婚約破棄するとは、彼も思っていなかったのだ。「愚かなことをしたな、イルルグ。今日私の元に、リヴァーテ伯爵家からの抗議の手紙が届いてきた。この抗議の正当性がどれ程のものか、理解できるか? 認めたくはない立場であるこの私さえも、それを覆せるとは思えぬ程だ」 エーヴァン伯爵は、この数日間ずっと頭を悩ませていた。  この状況で、被害を受けないためには何をするべきか、彼はずっと考えていたのである。 リヴァーテ伯爵の采配により、社交界には既にその婚約破棄の経緯は知れ渡っていた。  それを否定することは難しかった。当の兄妹は、それを悪いことだとは思っておらず認めているからだ。「父上、それがどうしたというのですか?」 「何?」 「ウルーナが嫌がっているのです。婚約破棄するのにそれ以上に重要なことなどはありません。家族が嫌がっている者と家族になれますか?」 「お兄様の言う通りです。あのラナーシャという女は愚鈍でお兄様には相応しくありません」 イルルグとウルーナの二人は、家のことを考えていない。エーヴァン伯爵は、ちっとも反省している様子もない二人を見ながらそう思っていた。  貴族として生まれたからには、家のために尽くすことは当然のことだ。エーヴァン伯爵は、そう認識している。そんな彼にとって、二人の愚行は到底許せるものではなかった。「イルルグ、ウルーナ、お前達がこの家に尽くす気がないということはよくわかった。だが、それがどういうことであるのか、理解しているのか?」 「父上、どういうことですか?」 「これ以上お前達の面倒を見る義務が、エーヴァン伯爵家にはないということだ」 「なっ……!」 エーヴァン伯爵の言葉に、ウルーナは目を丸めていた。  そんなことを言われるとは思っていなかったのか、彼女は動揺している。それにエーヴァン伯爵は、怒りを覚えていた。その当然のことを何故理解していないのか、彼にはわからなかっ
last updateHuling Na-update : 2025-09-01
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理不尽なこと
 私とイルルグ様の婚約は、発表されてからすぐに破棄されることになった。  当然のことながら、イルルグ様の側から婚約破棄したことも、周知されている。 ただ、事実以外がはびこるのが社交界という場所の性質だ。  根も葉もない噂も流れていることだろう。そのことで、私及びリヴァーテ伯爵家もある程度の被害を受けることは、覚悟しておかなければならない。「理不尽というか、納得できないというか、ままならないものね……」 「まあ、仕方ないことだからね。でも私は、ラナーシャの悪い話は聞いていないよ。今の所はだれど……」 私は、友人であるソティア・サルマルデ侯爵令嬢の元へと遊びに来ていた。  彼女とは幼い頃にとある晩餐会で出会い、気が合ってそれからずっと親交がある。  伯爵家の令嬢と侯爵家の令嬢ということもあって、地位だけ考えるなら彼女の方が上だ。だが、そういったことはお互いに考えず対等な友人として付き合わせてもらっている。「お父様曰く、今でもリヴァーテ伯爵家に連絡は来ているみたいね。私への求婚自体は、たくさんあるみたい……」 「まあ、貴族の家の次男三男は家を継げない以上、男子のいない家の令嬢と結婚するくらいしか、貴族として生きていく道はなくなってしまうからね。必死なのかもしれない」 「でも、貴族の家の出身者は大抵の職業で優遇されるものではないかしら? コネもある訳だし……私としては、貴族として生きていくよりもそれらを利用する方が豊かな暮らしができると思うのよね。婿入りすると、多大な責任を背負うことになる訳だし」 「それは人に寄るんじゃない? やっぱり爵位は権力の象徴みたいな感じで……」 貴族の家を継ぐのは、基本的には長男だ。それ以下の男子は、婿入りしない限りは普通に働くことになる。  それを嫌がっている者達などが、私に求婚をしてきているということなのだろう。  しかしそういった人達に家を任せることを、お父様は嫌がっている節がある。リヴァーテ伯爵家は、きちんとした人に任せたいということだろう。「でも、それならソティアなんかも同じ立場ではないのかしら?」 「まあ、私もどうなるかは結構微妙な所だからね。気になってはいるんだけど、どうなってもいいように心構えはしているかな?」 「そう考えると、私なんかは気楽なものかしらね」 「そうでもないんじゃない? 家を
last updateHuling Na-update : 2025-09-02
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前向きに考えて
 サルマンデ侯爵家の人々とは、一応は顔見知りである。  ソティアと交流していく中で、当然その家族とも接する機会はあった。とはいえ、そこまでそれぞれを知っているという訳でもない。あくまでも、友人の家族と家族の友人という関係でしかないのである。「セリード様、お久し振りですね」 「……ああ、久し振りだな、ラナーシャ嬢」 そのため、ソティアが所用で席を外している今、屋敷の庭で彼女の兄であるセリード様と顔を合わせるというのは、少し想定していないことだった。  サルマンデ侯爵家の次男である彼も、苦い顔をしている。妹の友人とどう接するべきか、思案しているのかもしれない。  セリード様の今の格好が良いものであるとは言い難いのも、関係しているだろうか。上半身裸というのは、彼としても中々に厳しいものだろう。「えっと、鍛錬ですか? 確か、セリード様は騎士志望でしたよね?」 「覚えていてくれたのか。しかし悪いな、こんなみっともない格好で……」 「いいえ、様になっていますよ。すごい体ですね……」 私は、セリード様の体をじっくりと眺めていた。  騎士を志望しているだけあって、彼の体は屈強だ。細身ながらも、しっかりとした筋肉が目に見えてわかる。  その体を見て不快感などを覚えるはずもない。多少の気恥ずかしさはあるが、立派なものだと感心しているくらいである。「……あまり見られると、少々恥ずかしいのだが」 「あ、すみません」 セリード様は、少し苦笑いを浮かべながら苦言を呈してきた。  それは当然のことである。彼は別に、見せたくて体を見せている訳ではない。鍛錬で汗をかいた結果、そうなっているだけなのだろう。「いや別に、怒っている訳ではないのだ。本当に恥ずかしいというだけで……」 「いいえ、殿方とはいえ、肌をじっくりと見るのは失礼だと気付くべきでした」 「ラナーシャ嬢は真面目だな」 「いえ、当然のことを言っているだけです」 セリード様は、持っていた上着を着始めた。  これでとりあえず、視線には困らない。一安心といえるだろうか。いや別に、不安があったという訳でもないのだが。「そういえば、ラナーシャ嬢は大変なことになっていると聞いているが、大丈夫なのか?」 「え? ああ、それについては特に大きな問題にはなっていません。もちろん、多少の痛手はありますが、勉強さ
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Galugarin at basahin ang magagandang nobela
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