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第344話

Author: 春うらら
「ええ、それに、高校時代の君の写真も見たけど、今と同じで、とても綺麗だった」

ほむらの言葉に、結衣の顔が少し熱くなった。彼女は慌てて言った。

「もうお腹すいちゃった。行きましょう、早くレストランに」

そう言うと、結衣は彼の手を引いて一階のレストランへと向かった。

ほむらは、繋がれた二人の手を見下ろし、口元に自然と笑みが浮かんだ。結衣に引かれるまま、彼は身を任せた。

レストランに入るとすぐ、窓際の席で昼食をとっている拓海の姿が目に入った。

ほむらが彼に気づいた時、拓海もまた、二人に気づいた。

彼の視線は結衣とほむらに向けられ、数秒後、何事もなかったかのように淡々と逸らされた。

結衣は拓海に気づかず、ほむらを引いて料理を注文すると、そばの空いているテーブルに腰を下ろした。

「ここのレストラン、料理がとても美味しいの。デリバリーを頼みたくない時は、だいたいここで食べてるわ」

「そう言われると、すごく楽しみになってきた」

すぐに、料理が運ばれてきた。

結衣は箸を彼に手渡し、笑って言った。

「この茄子の揚げ浸し、食べてみて」

ほむらは茄子を一切れ挟み、味わってから頷いた。

「うん、本当に美味しい」

「でしょ!私、このお料理が一番好きなの。そうだ、あなたはどんな料理が好きなの?知り合ってから結構経つのに、まだあなたの好物を知らないわ」

「君と似てるよ。辛いものが好きだけど、辛くない料理も食べる」

「じゃあ、辛いものの方が好きなのね」

一般的に、辛いものと辛くないものの両方を食べる人は、どちらかと言えば辛い味付けを好む傾向がある。

ほむらの目に驚きの色が浮かび、笑って言った。

「ああ」

結衣は片手で頬杖をつき、ほむらを見て言った。

「じゃあ、これから外で食べる時も家で食べる時も、辛いのと辛くないのを一品ずつ頼んで、それにスープを一つ加えましょうか」

「いいな」

二人が食事を終えると、結衣はほむらを送って帰ろうとしたが、彼に断られた。

「ここから歩いて十数分で着くから。ちょうどお腹もいっぱいだし、腹ごなしにちょうどいい。君は事務所に戻って休んで」

彼が本当に送ってほしくないのが分かったので、結衣も同意するしかなかった。彼が去っていくのを見送ってから、ようやく身を翻してビルの中へと入っていった。

一方、ほむらが家に戻って間もなく
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